日本初の小児がん施設誕生

公益財団法人
チャイルド・ケモ・サポート基金 事務局長
萩原雅美さん

 

株式会社 手塚建築研究所
手塚貴晴さん

 

小児がんと闘う子供とその家族にとって一番大切なのは、一緒に過ごす当たり前の幸せ。そんな夢を実現する「チャイルド・ケモ・ハウス」がポートアイランドに誕生する。立ち上げ当初からプロジェクトに携わってこられたお二人に、施設の概要や今の思いをお聞きした。

―いよいよ春にオープンですね。
手塚 プロジェクトがスタートしたのが2005年12月、私が参加したのが翌年3月ですから、7年以上をかけてやっとオープンにこぎつけました。
―プロジェクトのきっかけは。
手塚 小児がんの子供や家族が過酷な環境で闘病生活を送っているということです。治療中に他の菌に感染する危険もあり、入院生活が長期に及ぶにもかかわらず約2坪のスペースで過ごし、家族が付き添うのもそのスペースに限られます。それでも家族は笑顔でいなくてはならない。非常に厳しいことだと思います。ごく普通に暮らしてきた家族が、小児がんの子供を抱えたことでバラバラになってしまうというケースも少なくありません。何とかしてあげたい。本やおもちゃをプレゼントしようか…。でも「欲しいものはなに?」と聞いてみると、子供は「おうちへ帰りたい」と言うんですね。家族も「ご飯を作ってあげたり、兄弟で遊んだり、当たり前の幸せが欲しい」とおっしゃいます。「じゃあ、家をプレゼントしよう!」という発想から始まりました。
萩原 私も小児がんの子供を持った家族の一人として、病気以外の事でも我慢しなくてはならないことが非常に多いと感じていました。病気になったらそれまで築いてきた社会生活を全て諦めなくてはならないのでは笑顔でいるのは難しいですね。どうしたら当たり前の生活を確保できるか?という発想からスタートしました。
―試行錯誤があったのですね。
手塚 家をプレゼントといっても、実際はそんなに簡単なことではなかったですね。家がたくさん建っている中に病院があり、化学療法を進めながら、お母さんは家に居て、お父さんや兄弟たちが外から帰って来て、子供は隔離された部屋でもガラス越しに家族の顔を見られ、状態の良い時には一緒に過ごすこともできる。日本の病院に今までなかった新しい枠組みを作り、場所と費用を確保する必要があったことが、かなり時間がかかった理由の一つです。
―病院としては、とてもゆったりした個室ですね。
手塚 病院の個室には色々な設備やサービスが付随してきて莫大な費用がかかります。でも子供にとって大切なことは家族と一緒に居られるということ。ここはマンションというくくりですし、サポート基金からの補助もありますから高額な費用は発生しません。今後、小児がんをはじめ子供の病気の治療施設として新しいモデルケースになればいいなと思っています。
オープンに時間がかかった理由には、それもあります。実は、ポーアイは3つ目の候補地で設計も3回目でした。「もう無理なんじゃないか」と思ったこともあったほどですから、7年は決して長くはなく、約7年で実現できてよかったというのが今の正直な感想です。
―ポーアイに決定した理由は。
萩原 神戸市さんから紹介いただき、話がとんとん拍子に進みました。周りには先端医療施設や県立こども病院もできる予定だそうですね。今後、勉強させていただきながら連携していけたらと思っています。
手塚 ポーアイで進められている神戸市の医療産業都市は素晴らしいですね。連携はチャイルド・ケモ・ハウスにとって理想的だと思っています。
―小児がん治療のどの段階で利用できるのですか。
萩原 化学療法の中でも、真ん中あたりの比較的安定している時期がメインになります。とても元気なのに狭い病室で過ごすのは、子供にとって退屈との闘いと言ってもいいほどです。
―年齢など、利用制限は。
萩原 制限はなく、利用可能な時期かどうかをドクターが判断します。
―診察・診断も可能なのですか。
萩原 相談いただくことも、診察・診断を受けていただくことも可能です。地域のクリニックからも小児がんの疑いがあるという場合は紹介いただくこともできます。専門施設がここにあることを広く知らせて連携を取ることで、早期発見にもつなげたいと思っています。小児医療が崩壊するかという現実の中で、小児がんを専門に診ておられるドクターの数は限られています。そんな状況にもかかわらず、阪大の大薗恵一先生をはじめ、活動には多くの先生方に賛同、協力いただき心強く思っています。
―日本では初、世界的にも珍しい施設なのですか。
萩原 全く同じ形というものではありませんが、小児がんの治療施設としては、私たちも参考にした「セント・ジュード小児研究病院」がアメリカにあり、色々な形で家族を迎え支援しています。
手塚 アメリカの場合は保険制度自体が充実していません。日本は国民皆保険の国でありながら、その隙間で苦しんでいる人がいるという状況を解決しようとうものです。この施設の大きな特徴は、小児がんの子どもを抱えた家族たちと、何とかしてあげたいと思ってくださる先生方が、手弁当で集まり話し合いながら7年という月日をかけて造り上げてきたことです。利益や損得関係ではなく、本当に必要なものが何かを知っている人たちの手で造られた施設です。
―平屋で19室は少ないような…。
萩原 もっとたくさん造って欲しいとか、新しい試みのモデルケースとして少しずつ増やしていくのが良いという両方の意見があります。
手塚 今の大きさで二階建てにすると世話する子供の数に関わらずスタッフが二層分必要になるので非常に効率が悪い建物になってしまいます。病院の一看護単位が決まっていて、その必要な床面積より小さい土地では病院が運営できないのと同じですね。勿論今の大きさをもう一層重ねることはできますがその予算はありませんでした。
―協力を呼びかけたいですね。
手塚 そうですね。日本はとても豊かな国だと言われています。しかし社会構造の中で隙間に落ちて苦しんでいる家族がいるということにも目を向けて、ぜひ寄付などご協力をお願いいたします。
萩原 自分の身に置き換えて考えていただき、少しでも応援いただければと思っています。

チャイルド・ケモ・ハウスの活動にご支援ください

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萩原 雅美(はぎはら まさみ)

1974年兵庫県生まれ。2002年次女(当時生後10ヶ月)が乳児急性リンパ性白血病に罹患する。2004年次女(当時2歳半)を同病で亡くす。2005年小児血液・腫瘍分野における人材育成と患児のQOLに関する研究会へ参加。2006年NPO法人チャイルド・ケモ・ハウスの設立に加わる。2006三女出産。2007年~同法人事務局スタッフとして活動し、現在に至る。

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手塚 貴晴(てづか たかはる)

1964年東京都生まれ。1987年武蔵工業大学卒業、1990年ペンシルバニア大学大学院修了。1990-1994年リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン、1994年手塚由比と手塚建築研究所を共同設立。2005~06年ザルツブルグ・サマーアカデミー教授。2006年UCバークレー客員教授。2009年東京都市大学教授。主な受賞歴グッドデザイン金賞、岡賞、日本建築家協会新人賞、日本建築家協会賞、日本建築学会賞、AR prizeその他。


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目次 2013年3月号