カウンターにあて(おつまみ)がずらりと並ぶ赤松酒店

知れば知るほど面白い 立ち飲みの世界

【インタビュー】 芝田真督さん(庶民派グルメライター)

「ダーク」「足台」…専門用語で立ち飲み達人!?

 立ち飲み屋は酒屋さんが店先でお酒を飲ませはじめたことから歴史がスタートしたと思われますので、現在も酒屋に付随したお店が多いです。 酒屋での「立ち飲み」のことを関東や北九州では「角打ち」と呼びます。この角打ちの元祖は江戸のはじめ、東京の神田にあったお店といわれています。
 神戸の立ち飲み文化は明治のはじめ頃からはじまりました。港町の発展とともに大きくなった、港湾や造船などの企業は朝昼晩の三交代制で仕事をしていました。夜勤明けでも労働者は家に帰る前にワンクッション入れたいもの。ですから大企業の周り、神戸製鋼所のある岩屋周辺、川崎重工のある川崎本通、三菱や川崎の造船所のある和田岬、東川崎町周辺など、港湾労働者が集まる地域を中心に立ち飲みをするお店が増えていったのです。
 立ち飲み屋には独特の文化が根付いています。「角打ち」という呼び方もそうなのですが、様々な立ち飲み用語があります。店が込み合って来ると、カウンターの奥から、「ちょっとダークにして」と言われますが、これは肩を中に入れて斜め立ちすることを言います。昔、ダークダックスというコーラスグループがあり、彼らが歌う際の斜め立ちから来ているのです。知らないと何のことだか全くわからないですよね。あとカウンターの下には必ずと言っていいほど、金属製の足を置く台がありますが、これは「足台」と言います。ずっと立って飲んでいると、何故かどちらかの足を上に上げたくなる、そのために付けられているのです。知れば知るほど面白い世界です。

覚えておきたい立ち飲みのマナー

 なんといっても立ち飲みの一番の魅力は安いこと。また、とにかくお酒や料理が出てくるのが早い。そして、立ち飲み屋には必ず人との出会いが待っています。これはお店とお客さんが長年かけて作り上げたもので、店ごとにまったく違う雰囲気があるのが面白いですね。
 酒場にはいろいろな職業の人たちが集まりますので、そこでしか知り得ない情報もたくさん集まってきます。地域の歴史やまちの雰囲気は、立ち飲み屋に行くとわかります。最近はお客さんも高齢化してきていますが、仲間づくりができるのも立ち飲み屋の魅力ですね。しばらく顔を見せないと、常連さんが気にしてくれますから、ひとり暮らしの高齢者の方にもおすすめしたいですね。
 立ち飲み屋にも昔からの慣習と言うか、マナーみたいなものがあります。まずはあまり団体で押しかけないこと。ひとりで来ている人も多いですし、その場の出会いや会話を大切にしたいですね。あと長居し過ぎないこと。あまり場所を占領し過ぎて、他のお客さんが入れなくなるようなことは避けたいですね。ひとり何杯までとか決められているお店もあるぐらいですから(笑)。
 立ち飲み初心者にアドバイスするとすれば、まずはお店の外から中の様子をうかがって、注文のしかたやマナーなどを確認してみることです(笑)。そして中に入ったら他のお客さんを見習って、美味しそうだなと思ったあてを頼んでみるのがいいと思います。一度来たお客さんの顔を覚えてくれている店主さんもいますし、気に入ったお店に通ううちに、徐々に馴染んでいけるはずです。

ハイカラ文化が残る神戸の立ち飲み屋さん

 神戸の立ち飲み屋の特徴として、何故か世界地図や日本地図を貼っている店が多いのです。これに関してははっきりとしたことはわからないのですが、おそらく港町神戸にはいろいろな土地からやって来た人が集うので、地図を見ながら話が広がるのでしょうね。
 あてにも個性があります。神戸は港町の雰囲気からか、あてがハイカラなのですよ。たとえばコンビーフにホワイトアスパラ、あとは蒸し豚もよくありますし、ベーコンと言えば大抵はクジラベーコンが出て来ます。あとネギを入れた玉子焼き「ネギ玉」も多いですし、紹興酒が置いてあるお店も神戸らしい特徴だと思います。湊川の方ではナポリタンが有名な立ち飲み屋もあります。私の場合、ここ赤松酒店では、その場でおろしてくれるジャコおろしと焼豚は外せないですね。
 大抵の立ち飲み屋は、路地の中にあったりするので、外からはわかりづらいものです。赤松酒店も南京町にありますが、知っている人でなければなかなか入りにくいですよね。昔は港湾関係者で賑わっていたようですが、いまは会社帰りのサラリーマンや近くの百貨店関係者も多いようです。グループ客も楽しめるテーブル席もありますし、初心者でも訪れやすいお店ですね。

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芝田さんが選ぶ立ち飲みのあて、上から時計回りに「コンビーフ」「焼豚」「ホワイトアスパラ」「じゃこおろし」

芝田さんが選ぶ立ち飲みのあて、上から時計回りに「コンビーフ」「焼豚」「ホワイトアスパラ」「じゃこおろし」

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■撮影したお店「赤松酒店」
神戸市中央区栄町通1-2-25
(JR・阪神「元町」より徒歩約5分)
TEL.078-331-6634
営業9:00~21:30 (21:00L.O)
日曜・祝日休

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芝田真督(しばた まこと)

昭和22年生まれ。神戸市垂水区在住。東工大大学院修了。鐘紡株式会社にて研究員として、制御用システム、オンラインシステムワークシステムなど、多数のプログラム開発に携わる傍らパソコン通信PC-VANグローバルビレッジ、グルメ天国などで活躍。コンピュータ書籍の執筆を経て、酒場、喫茶店、街歩きなどに関する情報を発信。主な著書に「eメールの素朴な疑問」「DSLならできる超高速インターネット」(以上日本実業出版)、「神戸ぶらり下町グルメ」「神戸立ち飲み八十八カ所巡礼」(以上神戸新聞総合出版センター)などがある。電子情報通信学会正員、日本ペンクラブ会員、日本旅のペンクラブ会員。


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目次 2012年7月号