湯けむり便り 連載第3回

金井 啓修

有馬温泉 路地裏アートの始まり

3回目の有馬温泉路地裏アートプロジェクトを7月1日から11月23日まで開催しています。温泉街の路地裏にアートを長期間展示するというのは他に例がありません。どうしてこのような事を始める事になったかというと、某大学のゼミ旅行で学生が有馬に来た時に「君たちが感じる有馬温泉のベスト・ショットとワースト・ショットを見つけて来て」というテーマを出しました。学生の発表会を聞いて我々と視点や考え方が違う事に驚かされ、今後も学生を有馬のまちに巻きこむ必要があると考えて始めたのが、有馬温泉ゆけむり大学です。それともう一つ、学生の発表の中で「路地裏が面白い」という意見がありました。しかし「路地裏の道がこの先どうなっているのかわからないから不気味」という声もありました。そこで路地裏を楽しく歩いてもらう事が出来ないかと考え、それができると大きな観光資源になると思いました。
ずいぶん昔の事ですが、路地に“立ち小便禁止”のオブジェクトを仲間で展示した事があり、楽しかった事を思い出しました。それが路地裏にアートを設置しようという考えに繋がったのです。
美大の先生をしている人に話を持って行き、第一回の路地裏アートプロジェクトを開催しました。しかし思うような集客にはつながりませんでした。
色々な原因があげられ反省すべき点は多々あったのですが、大きな原因の一つが地元での盛り上がりに欠けた事でした。
この様なイベントは募集、審査そして作家とのやりとりなど事務作業が大変です。それがなかなか地元で出来ないのです。
もう2回目の開催で3度目はないかと思いながら第2回の路地裏アートプロジェクトを昨年開催しました。わかりやすい大きめの作品が集まった事と幟や看板を設置して路地裏の入り口をわかり易くしました。それが功をそうしたのか、けっこう多くの人に路地裏を歩いてもらう事になりました。
毎年、夏の終わりには路地裏は雑草だらけになっているのですが、ふと気が付くと雑草がないのです。何故だろうと不思議に思っていた所、近所のおばあちゃんが観光客の人にもっと通ってもらおうと早朝、雑草を抜いてくれていたのです。それを知ってとても嬉しい気分になりました。また「もうこんなに地元が盛り上がらないのなら事務作業は嫌だ」といっていた美大の先生も少し変わって来ました。
それは、有馬温泉のアートの取り組みに興味を持った多くの他地域の人達が先生の所に話を聞きに行くので、引くに引けない状態になったのです。

話は少しそれますが、先日、温泉のまちづくりの研究会で有馬の若手と茨城県のアートの宿に行き、ご主人に話を聞いてきました。
その宿はアートで多くのお客様を集めている為に、たくさんの現代アートが飾られています。お客さんに「どうしてこのような訳のわからんものを展示しているのですか?」と聞かれて従業員が「それは社長の趣味ですわ」と答えるような人には辞めてもらっている。「お客様にはどのように見えますか。私は○○のように思うのですがどうでしょう?」といえる芸術に興味を持つ人しか残さない。アートは見るモノではなく感じるモノなのだ。という話を聞いてきました。
この話は、路地裏アートに携わる者としてはとても貴重な意見でした。同行したメンバーの心にも響いたのではないかと思っています。

第3回目、今まで以上の応募者がありました。その中から10名の作家を選びました。ヨーロッパ3カ国の人が交じっています。今後は“国際”の文字を入れようと喜んでいます。
街の景観を考えるきっかけになればと、青年部は路地裏の手すりを塗装して竹で装飾しました。地元の人にアートを感じてもらう為に作家との交流会を開催しました。少しアートとの距離が縮んだと思います。
この路地裏は有馬温泉の一番の古道の一つです。有馬温泉の歴史と情緒とアートを感じにお越し下されば幸いです。

現代アートに興味津々の子どもたち

現代アートに興味津々の子どもたち


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金井 啓修(かない ひろのぶ)

有馬温泉で800年以上つづく老舗旅館「御所坊」の15代目。77年、有馬温泉観光協会青年部を結成して活性化に取り組む。81年、26歳の若さで「御所坊」を継ぎ、個性的な宿づくりで脚光をあびる。2008年、「有馬山叢御所別墅(ありまさんそうごしょべっしょ)」をオープン。世界的なからくり人形のコレクションが集う「有馬玩具博物館」は、約4000点もの所蔵を誇る。国土交通省の観光カリスマや内閣官房の「地域活性化伝道師」などに任命されている。


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目次 2012年7月号