みんなの医療社会学 第十九回 

医師不足と偏在について

─医師不足や偏在について、その現状を教えてください。
宮下 この問題ついては、2006年頃から新聞等で報道されるようになりました。例えば地方の病院で産婦人科の医師が不足し外来診療ができない、救急患者の受け入れが困難というようなことが現実におこりました。地方ではその状況が未だ改善されていないところもあり、特に僻地では大きな問題になっています。それ以前に、日本は医師の絶対数が足りていません。人口千人あたりの医師の数をみてみると、OECD加盟の先進諸国の平均が3.2人なのに対し、日本はやや改善されたものの2.2人くらいと少なく、人数的にもOECD諸国の平均と比較すると12万人くらい不足しているといわれています。

─このアンバランスが著しいのはどの診療科ですか。
宮下 かつて日本医師会が全国の病院長におこなったアンケートによれば、病理医が不足していることがわかりました。病理医とは手術などで取り出した組織を検査し、病変を調べたり腫瘍の良性・悪性などの判定をしたりする医師のことです。そして産婦人科医、救急医、リハビリテーション医、小児科医が不足しているという回答が多かったようです。

─兵庫県下で医師不足が深刻なのはどのエリアですか。
宮下 阪神地区でも多少問題はありますが、播磨地区、中でも西播磨地区、但馬地区の医師不足が深刻です。但馬地区は面積が広いのにもかかわらず交通の便も良くないので、特に救急医療の改善は喫緊の課題です。

─医師不足や偏在が起きた原因は何ですか。
宮下 第一点として、医学部の定員が減らされたことが挙げられます。1970年代に1県1医科大学構想があり、1981年には医学部の入学定員が8300名程度ほどあったのです。ところが1984年、将来の医師数を検討したところ、医師数が増えると医療費が高くなるという「医療費亡国論」がささやかれました。それで医学部の定員が減らされ、1998年には7600名程度まで減少、その状況が2007年まで続きました。
 第二点に2004年の臨床研修医制度の改定が挙げられます。それまでは各大学の医局に新卒の医師が入って、医局の指示で地方への配属先が割り振られたのですが、改訂後は研修医が配属先を希望できるようになり、都市部に集中するようになったのです。
 第三点として、診療科による偏在は医療訴訟の影響も無視できません。特に産婦人科や外科は事故リスクが高く、医師の過失ではなくても訴えられることが多くなってきました。ですから、裁判を抱えたくないと、産婦人科や外科を避ける医師が多くなってきたのです。ほかにも、女性医師が増え、その割合が今では3割以上になってきていて、結婚や出産を機に辞められる医師が増えてきたことも医師不足の要因のひとつに挙げられるでしょう。

─このような状況を改善するためには、どのような対応が必要なのでしょう。
宮下 まずは医師の絶対数を増やす取り組みが大切です。そのために医学部の定員を2008年から増やし、現在では8900名と約1300名増えています。ですから長期的には医師不足は解消されると思いますが、一人前の医師になるには時間がかかるので、緊急の対策も必要だと思います。都道府県の医師数格差解消ついては、各都道府県に医師の研修機構を設置し、都道府県単位で研修医の定員を設ける案が日本医師会により出されています。しかし、同一都道府県内間の格差均衡は難しいのが現状です。姫路市では市内に勤務する研修医を対象とした奨学金制度をおこない、医師の確保に努めています。診療科間の偏在については、例えば産婦人科では訴訟が起きないような無過失補償制度などの対策がおこなわれていますが、それには法整備も必要です。

─兵庫県医師会では、医師不足についてどのような取り組みをおこなっていますか。
宮下 医師不足や偏在の問題行政について行政や日本医師会などに積極的な提言をおこなっているだけでなく、女性医師就業支援センターを設置し、一度離職した女性医師の復職を支援するなど具体策にも取り組んでいます。

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宮下 正人 先生

兵庫県医師会医政研究委員会委員
宮下皮膚科形成外科院長


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目次 2012年7月号