人間的開花をめざして

数々の斬新な大学改革を進めてきた大手前大学が、今注目を集めている。何を、どんな風に学べるのか柏木新学長にお聞きした。

―リベラルアーツ型教育とは、どういう意味があるのですか。
柏木 福井有理事長、川本皓嗣前学長がともに進めてこられたアメリカ的なリベラルアーツ型、つまり学生の自由を尊重する教育をいいます。学部の枠にとらわれず、学生の才能を閉じ込めずに色々な経験や勉強をさせて、4年かけて自分の進む道と能力に合った専門性を身につけさせようというものです。
 私はフランス文学が専門ですのでヨーロッパに目を向けると、「リベラル」とは「規範から離れる」という意味合いがあります。「リベラルアーツ」は元々、中世の神学以外の学芸、つまり人間として生きる技術といえる7つの学問を指し、私は「学問からの解放」だと理解しています。それがアメリカに渡り、教養教育という意味合いを持つようになりました。
―大手前大学ではどのような形で取り入れているのですか。
柏木 浦畑育生前副学長がアメリカのアルバーノカレッジの視察に行き、小さな大学ですが学生がのびのびとして4年間で能力が開発されている様子を見て、その方式を大手前の特色を生かす方法で取り入れてはどうかと提案されました。
―具体的にどういうシステムですか。
柏木 大手前大学には、総合文化学部、メディア・芸術学部、現代社会学部という3学部が開設されていますが、入学後の学生たちは学部の枠を越えて自由に学ぶことができます。これがユニット自由選択制®です。多彩な専門科目の中から最も多くの単位を取った領域が、メジャーになります。卒業時には22のメジャーのうち必ず一つ以上を修了しなくてはならず、修了者として認定されます。
 例えば、建築士をめざして入学して、建築・インテリアをメジャーとして修了し、卒業していくというケースももちろんあります。けれど、マンガ家の道をめざしてメディア・芸術学部に入学した学生が、ユニット自由選択制®で現代社会学部の福祉の科目を学ぶうちに自分の進むべき道に気づき、最終的には、福祉のメジャーを修了して卒業していくということもあります。
 今までになかったこの学び方が、大学教育の学会でも発表され、様々な教育機関から注目を集めています。
―進路も決まらないまま大学に入ってくる学生も多いですから、良い制度ですね。
柏木 そうですね。将来の進む道で選ぶのではなく、成績や偏差値で進学するケースが多いですからね。eラーニングを使った「大手前学入門」という科目を昨年受け持ったのですが、そこで学生たちに出した「大手前大学の特色は?」という課題に対して、「特色はユニット自由選択制®。非常に良かった」と学生たちが答えています。学生たち自身も評価しているということです。
―進路指導についてはどのような方法を取っているのですか。
柏木 先生方がアドバイザーとして1年生の時から、場合によっては卒業後も学生と密接に関わっています。規模の小さな大学だからこそ可能なことだといえますね。
 また1年生から就業力アップのためのキャリアデザインのカリキュラムを設けています。授業の内容は例えば、5人程度のグループでそれぞれが一つのテーマについて討論し、先生はアドバイザーとして参加します。代表者が発表をして、それについてまた議論します。学年末には全学プレゼンテーション大会を実施し、発表内容を審査します。どのように自分をアピールするか、またアピールするためにはどんな勉強をしなくてはならないかを習得する機会になっていると思います。
―柏木先生は大手前大学へ来られてまだ日が浅いのですが、印象は?
柏木 私は放送大学大阪学習センターの所長から、こちらに着任しました。放送教育とは違い、キャンパスで学生と直接顔を会わすというのは、やはりいいものです。学生たちから「おはようございます」「こんにちは」と声をかけられると、うれしいですね。
 秋からは私自身も授業を持ち「ヨーロッパの文化と歴史」でフランス文学の短編を紹介する予定です。自分が学んできたことを若い人たちに伝えていけるというのも、うれしいことです。
―今後、大手前大学をどのように成長させていきたいとお考えですか。
柏木 理事長、前学長、前副学長が苦労しながら斬新な改革を進めてこられた、その基本路線が引かれたところに、不肖ながら私がその任に着くことになりました。この路線を引き継ぎ、推進していこうと考えています。
 また、私は、学生、教員、職員の満足度を上げたいと思っています。皆が「大手前大学で良かった。ここは本当にいいですよ」と言える大学にしたいと思っています。そういう意味で、今は大学生の質が問題になっている時代ですから、学生には厳しいですよ。一定レベルの成績に達しない場合は進級、あるいは卒業させないということを学生にも伝えています。この方針をきちんと守り、学生の質保証を徹底していくことになります。
―新学長の意欲と情熱を感じました。個性あふれる大手前大学から、自由で個性あふれる人材が育っていくことに期待しています。

学生の個性を伸ばす教育をめざす。学部間を超えて専攻が可能となっている

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柏木 隆雄(かしわぎ たかお)

大手前大学学長・仏文学博士
1944年、三重県松阪生まれ。県立松阪工業高校工業化学科を卒業、住友金属工業に入社、中央研究所勤務の後、1965年大阪大学文学部入学、1969年同仏文学専攻卒業。1975年同大学院文学研究科博士課程修了。1991年、大阪大学文学部教授(仏文学講座)、2004年大阪大学大学院研究科長・文学部長、2008年4月大阪大学名誉教授。日本フランス語フランス文学会副会長。2011年大手前大学副学長、2012年4月より現職。


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目次 2012年5月号