みんなの医療社会学 第二十九回

ドクターバンク事業と医師確保対策

兵庫県医師会理事
香良病院院長
石井 敏樹 先生

─兵庫県医師会では求人医療機関と求職医師のマッチングをおこなうドクターバンクを運営していますが、その設立の経緯について教えてください。

石井 平成18年度に「設立プロジェクト会議」を立ち上げて計6回の会議を開催し、その後、本事業への協力と円滑な業務遂行を目指して兵庫県下の各病院団体、女性医師の会、大学病院より神戸大学、兵庫医科大学、県当局の各担当者を構成員とした「ドクターバンク関連団体協議会」を設置して開所に向けた準備を整えました。その上で事業上必要な厚生労働省の職業紹介事業認可を平成19年1月に取得し、同年3月に「兵庫県医師会ドクターバンク」を開所、現在に至っています。

─ドクターバンクの設立には、どのような背景がありますか。

石井 背景にあるのは、医師の偏在です。その要因として、平成16年度に実施された新臨床研修医制度が考えられます。制度発足以前は大学医学部の医局制度により、伝統的に大学教授が人事権を握ってその指示で地方の病院へ医師を派遣していましたが、研修医への処遇改善や人事権への批判などがあり、新臨床研修制度が整備されました。ところが、新人の医師が自身の意思で勤務地を選べるようになり、地方の医療機関が敬遠されて偏在が顕著になってきたのです。特に地方の中核病院の医師不足が深刻になり医療過疎の傾向がみられたことが、ドクターバンク設立の大きな要因になっています。さらに地理的なもののみならず、診療科での偏在も大きな問題です。新臨床研修制度では基本的な診療科をすべて実地で学ぶため、産婦人科や外科など業務が比較的ハードな診療科や訴訟などが多い診療科が避けられがちになり、その結果診療科の偏在が起きています。医師の偏在以外に、医療の高度化・専門家にともなって医師の需要が増えていることも、背景のひとつに挙げられます。

─事業の主旨や方針、仕組みについて教えてください。

石井 地域医療の安定をはかるべく、求人医療機関と求職医師との真摯な仲介を目的としており、登録などの利用料はありません。医師不足の病院や過疎地域の医療機関に対して登録医師を紹介します。対象は常勤医だけでなく、非常勤医師も含みます。ベテラン医師の長年の経験と蓄積は地域医療にとって大きな力ですので、定年退職を迎えた医師の再就職支援もおこなっています。女性医師の休職後現場復帰、再就職支援に関しては、兵庫県女性医師の会との緊密な連携のもとで実効性のある仲介システムの確立を目指しています。仕組みは別図のとおり、ホームページに求人情報を掲載、求職者より希望のあった医療機関などとのマッチングをおこなうものです。紹介後のフォローアップにも力を入れています。

─どれくらいの利用実績があり、どのような医療機関や医師の利用が多いですか。

石井 平成19年度より過去6年間で、総求人施設は429機関、総求人人数は931名、求職希望者数は153名、マッチング件数は603件、成立件数は62件です。最近の登録状況としては、求人施設では県下全般で病院や老健施設の登録が多く、求職者では40代や定年を迎えた65歳以上が多いです。ただし若い世代の登録は、当バンクが無料のためかとりあえず登録するというケースが多いようです。

─兵庫県医師会ではドクターバンク以外にどのような医師確保対策をおこなっていますか。

石井 兵庫県の委託事業として兵庫県医師会に女性医師再就業支援センターを設置し、結婚や出産などで離・退職した女性医師からの要請に応じて現場復帰に向けた座学や臨床研修などを実施しています。また、同様に委託事業として、兵庫県が養成する医学生などに対し「総合診療に従事する医師の育成セミナー」を実施しています。今後は乱立する「民間医局」に対抗し、ドクターバンク事業を通じて医師の就業支援、僻地などの医師不足地域や医師不足に悩む医療機関への医師派遣を医師会の事業として継続的にサポートしていきたいと考えています。僻地では若い世代や働き盛り世代の医師が来てくれない現実がありますので、医師不足地域の現状を調査し、例えば若い医師が勉強できる環境の整備や優秀な指導医の確保など、県や地元医師会とともに適切な支援策も検討していきます。

図)ドクターバンク登録のフローチャート

図)ドクターバンク登録のフローチャート

20130505601

石井 敏樹 先生

兵庫県医師会理事
香良病院院長


ページのトップへ

目次 2013年5月号