神戸 旧居留地ものがたり Vol.6

神戸のルーツ、旧居留地
神戸はここから始まった

弁理士、特許業務法人 有古特許事務所会長
角田嘉宏さん

粋で洒脱な神戸文化の核

私の事務所のある、貿易ビルは、かつての居留地123番地にあたります。ここに事務所を構えたのは1979年のことです。
僕は昭和12年に神戸で生まれました。幼い頃の居留地の思い出と言えば、小学校に入る前の頃でしょうか、初めて洋食を食べた時のことを思い出します。父に、大丸の南側に建つビルの2階に「銀水」というレストランに連れて行かれ、そこでナイフやフォークで本格的に。このレストランは妹尾河童の小説『少年H』にも、名前は出ませんが登場しています。また、昔は明治屋のグリル「明治屋中央亭」も大丸の南の方にあって、いやぁ、ここのビーフシチューが絶品でしたよ。友達の結婚披露宴はここでやりましたよ。
オリエンタルホテルは日本でのホテルのはしりで、横浜グランドホテルと並び称されます。西洋料理が有名でしたね。居留地のレストランやオリエンタルホテルは社交場で、さまざまな人たちが集い、まさに神戸モダンな文化の拠点でした。華やかな雰囲気に胸が躍ったものですよ。

経済発展を支えた居留地

居留地の歴史を紐解いてみますと、開港した慶応3年にアメリカ・イギリスが、明治元年にフランス・オランダ・ドイツ・デンマークが神戸に領事館を設け、それらの国の商館、銀行、住宅が居留地に建てられていきます。ちなみに中国人、当時は清国人でしたが、条約が締結されていなかったので居留地に入れず周辺に定着し、それが現在の南京町になりました。
明治初期は主に、お茶、生糸、昆布、銅、後にマッチ、ゴム、石鹸を輸出し、繊維や武器を輸入していました。この当時の貿易に携わっていたのが、長崎や横浜のブローカー的な人で、居留地の外国人商人が仕切っていたようです。居留地の中にも茶選場がけっこうあって、ここではおばちゃん連中が頑張っていたようです。
その中で、居留地に関連した企業が神戸の産業を支えていきます。特に船や貿易関係は、第一次大戦で栄えます。当時世界屈指の商社だった鈴木商店の大番頭・金子直吉は松方幸次郎の川崎造船所の商売を後押しし、富が満ちあふれてきます。そこで船成金がたくさん登場し、その代表格は人気があったドラマ『華麗なる一族』のモデルといわれている岡崎財閥。神戸銀行のルーツです。外国商社も、ストロング商会なども居留地にありました。
昭和初期の居留地は、神戸の経済の中心地として、世界を相手に巨万の富を集め、隆盛を極めていたのです。今日の日本経済を支える大企業のルーツを求めると、居留地にゆかりがあるものも少なくないのですよ。

居留地は新しい神戸の出発点

かつて、40年ほど前、アメリカの裁判事案で、2年間毎月のようにアメリカへ行き仕事をしていました。弁護団仲間のアームストロング弁護士と同じホテルの隣の部屋になり一緒に夕食に出かけ、毎日交互にレストランを選びます。彼は大のワインマニアで、いつも連れて行かれるのはワインリストの分厚い店ばかり。最初は付き合い程度だったのが、月に半分の米国出張のうち半分の日がワイン…それが2年くらい続くとこちらもすっかりワイン好きになってしまいました。
それで、神戸に戻ってからは各界の代表的なワイン好きを集めて、ワインを飲みながら面白いことを考えようかと会を開きました。中山手の今井商店の地下に試飲室を作って集まりました。世界中のワインを飲みましたね。故人になりましたが彫刻家の新谷琇紀さん、駅弁で有名な淡路屋の寺本滉さんなんかが中心メンバーでした。当時はワインなんか日本ではメジャーではありませんでしたが、神戸ではすんなりと馴染みました。
東遊園地の向かいにあった米国領事館のアメリカ文化センター分室では、毎週英語でしゃべる会を開催していました。ところが、そこでベトナム戦争についての苦言を口にしたら「出て行け」と言われましてね(笑)。ともあれ、戦前、居留地には神戸外国人倶楽部がありましたが、クローズのパーティやサロン的な集いはそんな西洋文化の流れを汲んだ神戸らしさの側面ではないでしょうか。
このビルの向かいの東遊園地では日本で初めてサッカーやラグビーの試合がおこなわれたと言われています。居留地は新しい神戸の出発点です。それまでは「兵庫」だったのですね。開港以来、神戸牛も、真珠も、ファッションも、西洋的なものがここ神戸から生まれていったのです。その核となったのが居留地なのです。
僕は神戸が好きです。仕事面の実務だけを考えると東京なのでしょうけれど、神戸の進取的な気風が特許事務所という仕事に重なるのかもしれません。発明は創造により産業を育て、社会を発展させます。居留地も同じようにさまざまな創造を通して、産業を、文化を発展させてきたのです。

神戸の社交場となったオリエンタルホテル(明治中頃)

神戸の社交場となったオリエンタルホテル(明治中頃)

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角田嘉宏(すみだ よしひろ)

有古特許事務所会長 弁理士。
1937年神戸生まれ。1962年、関西大学大学院法学研究科修士課程修了、工業所有権研究により法学修士の学位を受ける。同年、弁理士国家試験に合格し弁理士登録第6586号の登録を受け、開業。特許関係の代理人としての業務を展開、国際的なジョイントベンチャー契約や外国訴訟を主に手がける。


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目次 2012年2月号