宇宙から地上へエネルギーを送る宇宙太陽発電衛星(SPS)は、次世代型のエネルギーとして期待が大きい。画像は、SPSの概念図である

宇宙で太陽光発電を

神戸大学 計算科学専攻長 教授
賀谷 信幸さん

―宇宙太陽発電衛星(SPS)計画はいつ頃から始まったのですか。
賀谷 アメリカNASAでは、宇宙からエネルギーを地球に送ろうという計画が1980年代から持ち上がっていました。当時私は二十代で神戸大学で、人工衛星に観測器などを乗せて宇宙の電子やイオンなどを測定し、オーロラができるメカニズムなどを研究していました。地球物理学の世界ですが、科学的興味だけでなく、宇宙を使って何か地球にフィードバックをしたい、実用的な仕事がしたいと思っていましたので、SPS計画を聞き、これはおもしろいと研究実験を始めました。 
―2008年には、ハワイで太陽エネルギーの送受信実験に成功したそうですね。
賀谷 アメリカのTV・サイエンスプログラム「ディスカバリーチャンネル」でエネルギー特集をするので出演しないかと、私の友人の一人で、NASAでSPSを開発していたジョン・マンキンスから誘われました。そこで、ハワイのマウイ島から148㌔メートル離れたハワイ島まで太陽エネルギーをマイクロ波で送るという実験をしました。
―成果は得られたのですか。
賀谷 テレビ番組としての成果はあったと思いますが、私自身としては用意した実験装置を実際に使うだけの時間的余裕がなく、成果を得たというものではなかったです。ところが、番組を見たカナダトロント在住の資産家から「これはおもしろい。資金提供しよう」という話がありました。まず国際会議をやって欲しいということでしたので、2009年9月にカナダで開催してマイクロ波でビームを制御できることを実証し、もう一度ハワイに装置を運び実験しました。精密な実験を実施した結果、大気や水、雲、海面反射などでマイクロ波が減衰することが分かりました。物理的に正しい現象ですからあり得ることだと予想したものの、エネルギーがほぼ10分の1にまで減衰するという現実に直面しました。地上では、長距離離れると、エネルギーは減衰し、送電するのは無理だということがはっきりしました。では、宇宙ではどうなのか? 実証しなくてはいけません。日本の技術試験衛星「ETSⅧ」が出す電波を利用して、いろいろな条件下での影響を実験しました。その結果、100分の1程度の減衰しかないことが分かり、宇宙と地上との送電は安定して可能だと実証できました。
―その後、研究・実験に大きな進展はありましたか。
賀谷 昨年3月に、NASAが資金を投入する研究公募にジョン・マンキンスが申請しました。ヨーロッパ、日本などでインターナショナルチームを作り、私も日本を代表して参加しています。8月には承認され、1年間スタディーし、その成果が良ければ2年間の技術開発を経て、軌道実験を行う計画です。良い成果を出さなければそこまで到達できませんが、順調に進めば3年後には実験可能になる予定です。
―宇宙での太陽光発電が実現した場合、どういうメリットがあるのですか。
賀谷 まず、クリーンなエネルギーを得ることができます。地上では昼と夜がありますし、雨も降り不安定ですが、宇宙空間では24時間安定して発電でき、天候の影響も受けません。ただし太陽が地球の裏側に来る時だけは発電できませんが、これは正確な予測が可能で、突発的なものではありません。完全に安定的な電源になり得ると思います。宇宙では地上の10倍の発電量ですから、マイクロ波送電で半分に減衰したとしても、地上の5倍の電力を得ることができます。
―発電衛星の仕組みとは?
賀谷 大気の影響などを考慮すると、周波数2~5ギガヘルツが最適ですが、そうするとアンテナは直径1㌔メートルにもなります。パラボラアンテナのようなものでは重すぎて実現不可能。そこで私たちは、一つひとつのセグメントからビームを制御し、なおかつ揺れ動いても正確にビームを送れるアンテナ技術を開発しました。これがキーテクノロジーとなり、実現を可能にしました。太陽電池も非常に効率の良いものが開発されています。太陽電池とアンテナを一体化させ、その間に制御装置をサンドイッチする方式です。アンテナは常に地上に向け、太陽電池は太陽に向けるために反射鏡を設置します。これはビニール風船のようなものですので軽くて簡単なものです。この一連のシステムで約500万㌔ワット、福島の原子力発電所に例えると、その発電量すべてに相当する規模です。世界中で60個程度を打ち上げれば、常時使用する基本的な電力を安定して供給できると思っています。
―この研究にはスパコン「京」を利用するのですか。
賀谷 軌道計算などには有効ですが、この研究プロジェクトに関しては「京」を駆使するという場面はあまりないのですね。神戸大学統合研究拠点では今後、「京」が非常に役立つだろう分野があります。宇宙に関して言えば、宇宙物体と周囲のプラズマとの物理的なシミュレーションをされている先生もおられますから有効利用できると思います。私自身は「京」に、誘致の段階から関わってきましたので、どちらかと言えばスパコンを使いこなす人材育成を担当しています。誘致決定後3年間は他の大学とも協力して学生の人材育成をどうするかを考え、それをベースにして、平成22年度から、兵庫県と協力して、企業向けにシミュレーションやプログラミングについての教育をしています。一方、神戸大学では大学院システム情報学研究科を新設して、その中の専攻として大規模シミュレーションを教育するための計算科学専攻を開設しました。その後、兵庫県と協力して、企業向けにシミュレーションやプログラミングについての教育をしています。企業によって使用目的やスキルも違いますから、それぞれに合わせて個人指導します。さらに、日本全国から指導に適した人材を見つけ出し、企業とマッチングするという活動も始めています。
―研究と指導、どちらに重きを?
賀谷 NASAのSPSプロジェクトも走り出していますから、研究開発は私にとっての大きな課題です。一方、「京」の今後の課題は、実際に使いこなせる人材を育成して成果を出すこと。私もそこそこ歳ですから…(笑)、後身の教育にも努めなくてはいけないと思っています。
―どちらも大いに期待しています! ありがとうございました。

高度100kmまで上がるロケットから地上にマイクロ波を送る実験の様子

高度100kmまで上がるロケットから地上にマイクロ波を送る実験の様子

スパコン「京」の隣に開設された神戸大学統合研究拠点。賀谷教授は「京」誘致の段階から関わってきた

スパコン「京」の隣に開設された神戸大学統合研究拠点。賀谷教授は「京」誘致の段階から関わってきた

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賀谷信幸(かや のぶゆき)

昭和48年に京都大学工学部電気工学科を卒業、昭和50年に京都大学大学院工学研究科電子工学専攻を修了し、工学博士(京都大学)を取得した。修士修了後、神戸大学工学部計測工学科の助手となり、大学院工学研究科情報知能学専攻教授、平成21年度まで神戸大学教育研究評議会評議員、現在は平成22年度からシステム情報学研究科計算科学専攻教授である。


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