「NADABAN 神戸元町」

NADABAN神戸元町 HAL YAMASHITA東京 ~究極に幸せな時間を~

―日本人の精神と風土を生かして世界へ、と言う山下さんが提案している新和食とは?
山下 日本料理というよりは、和食に欧米文化を取り入れていこうということです。例えば日本の家庭の食卓には、ご飯とお味噌汁があり、ハンバーグにスパゲティーが添えてあります。日本人にとってはなじみのある食事です。家庭料理の延長線上にあるものが新和食といえます。
―神戸元町と東京ミッドタウンという東西2つのお店はお客さんの好みも違うと思いますが、味付けやコンセプトは違うのですか。
山下 基本的に同じです。醤油だけの味付けに慣れた東京のお客さまにとっては、みりんを使う関西の味付けが少し甘過ぎるようです。少し濃い目の味付けにしたほうが良いのかなどと、当初は試行錯誤しましたが、結局私自身の味のバランスを崩してしまいます。そこで、肉、野菜を含めほとんどのものは基本的に、西日本のものを使っています。YAMASHITAのスタイルとしてお客さまに選んでいただければ、それでいいと思っています。
―野菜も西と東では違うのですか。
山下 産地によって全く違います。例えば、関西のキャベツは甘みがありますが、石灰質の土壌で栽培された関東のキャベツは金物っぽくとんがった味がします。
―素材を提供する生産者にもこだわってらっしゃいますね。
山下 昨年10月から、社内にファーム部門をつくり、全体の約25%の野菜とお米を直接提供しています。和歌山で農業経験者を社員として雇うという形をとっていますから、プロが作る野菜です。ただし、農薬は使わず、問うのは形ではなく味だけ。固いなすび、苦みがある春菊、甘いだけじゃないトマトなど、昔ながらの味です。野菜だけでなく、醤油、味噌、酒、みりんなど、料理をする上で大切なのは素材ですから、やはり本物でなくては。技法は最先端ですが、材料は昔へ、昔へと戻っていっています。
―では、古い文献なども研究しなくてはいけませんね。
山下 伝統的な料理や伝統野菜など、図書館にこもりっきりで勉強しています。
―素材の知識はどこで仕入れるのですか。
山下 野菜は農家の人に、魚は市場の魚屋さんに、何でもその道何十年のプロに聞くのが一番です。
―オーナーシェフの考え方を全員で共有するのは難しいのでは?
山下 コミュニケーション力が低下している時代ですから難しいところですが、今はメールがありますからスタッフ全員の携帯まで一斉に送信することもあります。
―世界へも発信していますが、シンガポール・ワールド・グルメ・サミットでは日本代表として、どんなお料理を提供したのですか。
山下 海外では、いわゆる日本料理を提供すれば受けたのですが、最近は様子が変わってきています。そこで、新和食を提供しました。非常に好評で、地元で最も厳しいといわれるライターから「過去18年間で最も素晴らしい」と評価をいただきました。

―今年は中東アブダビで開催ですが、どんなお料理を提供する予定ですか。
山下 中東では、スシ、テンプラ、ヤキトリは分かっても、まだ日本料理がどういうものかが全く知られていません。イスラム教の宗教食「ハラール」で作る初めての日本料理です。もちろん豚肉は使いませんし、私たちも1カ月前から豚肉断ちをします。豚肉を切った包丁は持ち込めませんから、すべて新品を持って行きます。お酒がダメですから、醤油、みりん、酒、味噌など発酵系の調味料は使えません。何とか工夫して作りますが、多少のブレは生じると思っています。
―未知の日本食を中東でも広めてきてください。
山下 中東から日本へ観光に来られないのは、ハラールがないからだそうです。ぜひ、好評を得られるハラールを紹介したいと思っています。
―山下さんはお父さんも料理人ですが、学んだことは多いですか。
山下 父は脱サラで料理屋を始めましたから、根っからの料理人ではないんです。人として、男としての生き方については非常に多くのことを学びました。ものを真眼で見るということを教わりましたから、今、経営者として決断を迫られる場面ではとも役立っていると思います。正しいことが強いという姿勢を貫き通せたのはよかったと思います。
―マネジメントについては?
山下 それは、母に教わりました。「私がお客さまだったら…」という目線で考えるという姿勢です。
―忙しい山下さんですが、シェフと経営者の両立はどのように?
山下 オフィスでのデスクワークとレストランに入ってのシェフの仕事を完全に時間で分けています。料理をしながら経営を考えるのは不可能です。厨房に入っている時間は職人になってます。
―塩づくりなどもされていますが、始めたきっかけは?
山下 レストランで使っているものを分けてほしいというお客さまの声です。始めてみるとなかなか奥が深くて片手間ではできないと気づき、会社を作り、専属スタッフを雇いました。塩のほかにも、味噌、昆布パウダー、スイーツ、御影福寿さんとのコラボで造るオリジナルのお酒も販売しています。
―今度、東京スカイツリーには、どのようなお店を出店されるのですか。
山下 家族連れの方、外国人の観光客が多いだろうと思います。そこで、ファミリーレストランをつくろうと考えました。冷凍食品ではない、手づくりで、素材から食の安心・安全をきちんと考えたお料理を提供しますから、既存のファミリーレストランよりは少し価格は高くなると思います。それでも選んで頂けるお店にするつもりです。
―最後に、日本の食のあり方についてメッセージをお願いします。
山下 海外に行くと、自国の食文化を大切にしていると感じます。ところが日本人は豊かさを求め続け、いろいろな国から学び、フランスより美味しいフランス料理やイタリアより美味しいイタリア料理などを作ってしまいました。ところが、「日本の料理は?」と聞かれると答えられません。私は「お母さんが作ってくれた料理」を残したい、和食の原点に戻り、体にやさしく美味しくて、食べ続けられるものを伝えていきたいと思っています。
―これからも神戸から新和食を発信していってください。ありがとうございました。

雲丹に最高級神戸牛を重ねた一品。素材に徹底的にこだわり、常に革新的で和食の概念を覆す

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「ワールドグルメ サミット」に、2010年シンガポール大会、2012年アブダビ大会に日本代表として出場

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山下 春幸(やました はるゆき)

1969年神戸出身。大阪藝術大卒。「ハルヤマシタ東京」「ナダバン神戸元町」オーナー兼エグゼクティブシェフ。素材の持ち味を最大に引き出す「新和食」第一人者として、テレビ・雑誌等 で活躍中。2010年シンガポール、2012年アブダビと連続してワールドグルメ サミットに日本代表として出場。東日本大震災被災者への飲料水支援基金設立、国連WFP顧問就任など、食を通じた社会活動にも力を注いでいる。


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目次 2012年3月号