10月10日にオープンした東大寺ミュージアム

東大寺ミュージアムから発信

東大寺総合文化センター
東大寺ミュージアム 館長
梶谷 亮治さん

 

―東大寺ミュージアムが総合文化センターにオープンするまでの経緯とは?
梶谷 明治時代以降、奈良の大寺の仏像の多くは保存上の理由から国立博物館に預けられていました。ところが最近は、所有者であるお寺でそれぞれに安置しようという流れがあり、収蔵庫が造られています。文化財の保存という観点から見れば東大寺ミュージアムも収蔵庫の一つであり、同時に拝観できるように配慮されています。本来は収蔵庫ですから、ガラスケースの中に入っていて露出しているものは一つもなく、空調を完備、温度・湿度にも気を配っています。さらに信仰上の観点から見れば、お堂の一つでもあります。
―不空羂索観音立像などを改修中の法華堂から移そうという計画だったのですか。
梶谷 初めからそういう予定だったわけではなく、たまたま法華堂修理事業とミュージアム開設、2つの計画の時期が重なり、一度美術院に移し修理を終えた不空羂索観音立像をこちらに安置することになりました。平成25年3月に法華堂修理が終わるタイミングで、その少し前に戻られる予定です。法華堂修理にあたっては日光・月光菩薩立像も移し、この2体は地震に弱い塑像ですから、今後もずっとこちらに安置される予定です。ほかにも、法華堂にあった弁財天像と吉祥天像も順次展示予定です。
―大仏殿とセット入場の見学者が多いのですか。
梶谷 半数ほどのお客さまがそうだと思います。多い時は、1日3千人を超えるお客さまに拝観してもらえる良い機会になりました。
―東大寺には数え切れないほどの国宝、重要文化財などがありますが、保存維持が難しいのでは?
梶谷 ミュージアムとは違い、仏さまのほとんどが露出のままです。現場で常に目視・観察し、傷みが見つかれば修理するという従来の方法しかありません。法華堂も傷みが目立ってきたので修理をすることになったのです。
―お寺の方は皆、美術工芸にも詳しいということですね。
梶谷 お堂につめている役割の方は、毎日、毎日、仏さまを見ていますから、「おかしいな」と気づきます。雨風の被害だけでなく、例えば、虫害などが見つかることもあります。
―一方、東大寺ミュージアムには保存のために最新技術が使われているそうですね。どういうところですか。
梶谷 一つは免震装置でしょうか。以前は免震台をケースの中に置き、上に文化財を置く方法でしたが、東大寺ミュージアムでは、ギャラリー全体、約550平方メートル、そして収蔵庫の一室に部屋全体の免震装置が設置されています。
―照明はLED?
梶谷 最新の技術という意味ではLEDを使っています。まだ前例があまりありませんので、照明設計の専門家がかなり苦労したようですが、コストなどの面から今後の主流になると思います。
―東大寺ミュージアムでは、どんなところを見てほしいですか。
梶谷 展示物はほとんどが8世紀に造られたものです。まず、そういった古い時代のものの美しさを見ていただきたいですね。時代は変わっても、美しいと思う人間の感覚や心は変わっていないはずです。ですから、本当にいいものを見ていただき、感じていただきたい。非常に大事なことだと思います。
―例えば、大きすぎる大仏様はどう見たらいいのでしょうか。
梶谷 大仏様は、台座などは8世紀に造られたそのままですが、その他の部分は火災にあうたびに、鎌倉時代、江戸時代と重ねて修理されてきています。大仏様の場合は、そうした大事なものを後世に伝えるという、先人の強い意志の力を学ぶことができると思います。それに対して、不空羂索観音像は8世紀のものがそのまま伝わっています。長時間じっと見て、いいところを見つけていただきたいですね。
―東大寺にはほかにも8世紀のものがあるのですか。
梶谷 例えば、大仏殿前の八角灯篭、誕生仏などたくさんありますよ!伎楽面は、大仏様の開眼法要で使われたものです。
 伎楽面は、現在は宮内庁管轄になっている正倉院にも多く残っています。また、733年にできた法華堂(三月堂)は、東大寺の境内に現存する建物の中で最も古く、安置されている不空羂索観音立像・執金剛神立像・梵天・帝釈天・四天王立像・金剛力士立像など全て8世紀のものです。法華堂の修理が終われば、東大寺に来られた折には、是非立ち寄ってください。
―梶谷館長はいつごろから古くて美しいものに興味を持たれたのですか。
梶谷 大学で日本美術史を学びましたが、たまたま「十王図」という閻魔様の絵を見ました。地獄の様子などが描かれたちょっと恐い絵なんですが、その内容と描き方のテクニックに引き込まれ深い興味を持ちました。
―古いものを研究されてきた梶谷館長にとって未来とは?
梶谷 古くて美しいほんものを見る目を開発すれば未来も見えてくるんじゃないでしょうか。ところが、現代人は忙しすぎて見るということを放棄しているようです。時には立ち止まり、ゆっくりと美しいものを鑑賞することも必要だと思います。それが未来への思考やエネルギーにつながるのではないでしょうか。
―今後の東大寺ミュージアムについて。
梶谷 お寺に伝わっているものをきちんと後世に残し伝えることが役割だと思っています。さらに、多くの方々に見てもらうこと。今は「奈良時代の東大寺」をテーマにしていますが、東大寺が持ついろいろな顔を、今後はテーマを変えて徐々に展示していきたいと思っています。
―館長お勧めの初詣コースは?
梶谷 東大寺から春日大社、興福寺もあります。東大寺ミュージアムもセットで訪ねていただき、初詣と併せて多くの古くて美しいものに触れていただければと思います。
―ありがとうございました。
インタビュー 本誌・森岡一孝

 

東大寺山堺四至図(パネル)を説明する梶谷館長

東大寺山堺四至図(パネル)を説明する梶谷館長

 

不空羂索観音立像(国宝)

不空羂索観音立像(国宝)

 

日光菩薩立像(国宝)

日光菩薩立像(国宝)

 

月光菩薩立像(国宝)

月光菩薩立像(国宝)

 

(左)「奈良の大仏」で知られる東大寺盧舎那仏像 (右)倶舎曼荼羅(国宝)

(左)「奈良の大仏」で知られる東大寺盧舎那仏像
(右)倶舎曼荼羅(国宝)

 

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梶谷 亮治(かじたに りょうじ)

東大寺総合文化センター 
東大寺ミュージアム 館長
1947年島根県生まれ。九州大学文学部卒業。熊本県立美術館学芸員を経て、1981年に奈良国立博物館研究員に。2008年退職し、現在は東大寺総合文化センター東大寺ミュージアム館長。

 

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