神戸市医師会公開講座 くらしと健康 53

市民へも影響を与える勤務医の負担増
その背景にある医師不足の改善を

 

神戸市医師会理事
洪南クリニック院長
生方 享司 先生

 

─医師のうち勤務医はどれくらいの人数がいるのでしょうか。
生方 平成20年度の日本の医師数は約28万6千人、実際に医療に従事しているのは約21万人ですが、勤務医はそのうち60%以上で、非常に多い割合です。神戸市医師会では全会員約2700名のうち1240名が勤務です。勤務医は主に大学病院や総合病院などの大病院や地域医療を支える拠点病院、一般病院などに勤務しています。
─勤務医の労働環境は厳しいそうですが、その原因は何ですか。
生方 勤務医問題の背景には、医師不足の問題があります。日本における人口10万人あたりの医師数は225.4名で、OECD30か国中27位です。しかもその数は医師免許保有者ですので、引退・休業など現在働いていない医師も含まれており、実勢はもっと少ないのが現状です。
─医師不足の原因は。
生方 1982年から2006年まで、行政改革のもと医師抑制政策が続けられてきたことが大きな要素です。厚生労働省は、かつては「医師不足ではなく偏在しているだけ」という見解を続けていましたが、2007年にやっと医師の絶対数が不足しているという認識に変えました。また、2002年度からの新しい研修医制度により、大学に残る研修医の数が少なくなって人手が不足し各地に派遣している医師を引き上げるようになり、残された勤務医に負担がのしかかるようになってきています。
─勤務医の労働環境の現状について教えてください。
生方 図1のとおり、病院に常勤する若い勤務医の労働時間は平均で週50時間以上にもなります。平成21年に京都府医師会が勤務医へおこなったアンケート調査によれば、100時間以上の時間外勤務を約12%の勤務医が経験と回答しており、過労死の認定条件にもなってしまう過酷な労働を強いられている医師がいるということになります。また、宿直明け連続勤務についても70%以上の勤務医が経験しているという結果も出ています。病院の宿直ではまず眠ることはできないので、一睡もせずに翌日の診療にあたっていることになるでしょう。有給休暇も取れず不眠不休で働いている勤務医も存在しているのが現状です。
─勤務医の負担増は、市民にどのような影響を与えますか。
生方 勤務医も人間ですので、過労や不眠の状態であれば集中力を欠くのは当然です。あってはならないことですが、結果的に診断ミスや医療事故などのリスクが高まります。また、地域医療を支える地方の病院では医師不足で労働環境が悪化した結果、残された医師も退職し病院の機能縮小や閉鎖など地域医療の崩壊につながりかねない深刻な事態もおきてしまいます。
─労働環境の改善には、どのような対策が必要でしょうか。
生方 まずは医師数を増やすことです。ここ数年医学部の入学定員を増やすなど改善はしているようですが、すぐには改善できません。医師以外の職員へ業務を移行することも解決策のひとつです。京都府医師会のアンケートでも、医療行為よりも文書作成が医師の手を煩わせているという結果が出ましたが、クラークなど事務的な作業を請け負うスタッフがいれば負担は軽減されるでしょう。地域医療を支える病院、特に自治体病院へは財政支援を充実させ、勤務医の待遇改善に結びつけることもひとつの方法です。また、女性医師に関しては託児所などの充実や、出産・育児後の復職のサポートも大切です。
─神戸市医師会はどのように取り組みをおこなっていますか。
生方 神戸市医師会では勤務医部会を設け、医療安全の問題や開業医との連携など毎年テーマを決め学術集団会をおこなっています。勤務医の負担が特に大きい救急では、一次救急や小児救急において開業医が積極的に関与することで負担の軽減に努めています。また、慢性疾患についても逆紹介システムを整備し、病院から診療所、つまり勤務医から開業医への連携を強化しています。女性医師に関しては、県医師会が女性医師バンクを実施し、女性医師の復職の手助けをしています。しかし、根本的な医師不足については医師会の力では限界があり、国による対策が望まれるところです。

 

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