特集「選ぶ楽しさ」 自分の生きかたを選びとる女性に

親和中学校・親和女子高等学校
校長
植野 直正さん

 

―現代の子どもをとり巻く社会環境はどのようなものであると考えておられますか。
植野 現代は「自分らしさ」の追求が謳われ、情報媒体の多様化が進んでいます。その環境下で生きている子どもたちは、自由に自分らしさを発揮できるかのように見えますが、実際は消極的な生きかたに傾きやすい状態にあります。経済状況や情報ソースの偏り、それらに対する依存などが、画一化を促す結果となっています。社会全体のありかたではないでしょうか。いつの時代においても、その時の社会のありかた―価値観が子どものありかたに大きな影響を与えます。求められるものと現実の環境の矛盾に板ばさみになり、苦しんでいるのは大人も同様でしょう。
―そのような状態が子どもの生き方にどんな影響を与えるのでしょう。
植野 自ら決定することに対し、より消極的になり、生きかたの選択においても、受動型になりやすいと思われます。「指示待ち」や「レールにのっかった」生きかたに疑問すら抱かなくなるかもしれません。それが生きる意欲や喜びを味わいにくい状態に陥ることにつながるのではないかと危惧します。また、次世代を担うのは今の子どもたちですから、社会全体にも影響を与えていくことは必至であると思います。
―現状を踏まえ、親和では、どのような教育内容を。
植野 「今の子どもたち」は、その時代の価値観が映し出されており、それらは我々大人が生み出していることの自覚を持たなくてはいけません。子どもは大人が持つ価値観をそのまま受け止めざるを得ない存在なのです。教育は、時代の価値観がどのように変遷しても、普遍的に行うべきことはもちろんあります。が、それだけではなく、その時代が子どもたちにどのような影響を与え、それらが彼らをどのように形成していくのかを見極めた上で、自発的にバランス良く生きられるような、教育内容を考案し、実施していくことが求められます。
―消極的姿勢の傾向にある現代の子どもに、自発性を引き出すためにはどのような取り組みがありますか。
植野 「子どもの思うようにさせる」と「子どもに考えさせて行動させる」とは違います。「考える」力を養うためには、生徒たちから生まれてくる関心を満足させることが必要です。
 ひとつは、興味や関心を湧かせる人的環境。教員はもちろん同級生、上下級生、そして卒業生もそうです。例えば文化祭では同窓会が協賛し、卒業生が持ち回りで協力するバザーがあります。また体育祭では伝統的なダンスがあり、卒業生も参加します。在校生が卒業生と交流することで、新たな学びのチャンスがあるでしょう。
 もうひとつは、カリキュラム、授業内容、各研修制度、施設といった生徒の活動を促し、意欲を高める物理的環境です。
―先生方が果たす役割は?
植野 生徒それぞれに適したタイミングを見計らったり、表現方法を工夫したりしています。時には少し前に立って導いたり、すぐ横で伴走したり、時には後ろから少し押してみたり。学年担任をはじめ、教科担当者、クラブ顧問とさまざな立場で、またあらゆる場で生徒を見守っています。
―そういった教育が可能であるのは、やはり中高一貫、六年間だからでしょうか。
植野 ゆったりした環境の中で自分を見つめる時間が持てることは、大変意義のあることであり、その後の生きかたにも影響を与えていくでしょう。自己と対峙することで、次の一歩の踏み出しかたが見つかります。それを学校生活の中で身につけることが大切です。
―親和は来年で創立百二十五年になりますね。
植野 校訓「誠実」「堅忍不抜」「忠恕温和」を礎に、自ら選び、実行していく経験を積ませることで、潜在している自発性を引き出し、育てることを旨とし、実践して参りました。また今後もそれは変わることがありません。生徒たちはそれを身につけ、あらゆる分野でその力を発揮できる、芯の強い女性になってくれていると自負しています。
―生徒たちはどのような場で、「自ら選ぶ」ことを実践するのでしょうか。
植野 それが顕著なのが、進路選択の場です。本校は中学入学時にコース制を採っていない数少ない学校の一つです。そこには意義があります。小学校卒業時点では、まだ自分についてわからないことばかりです。考える機会も少なく、まだ自己と向き合うには適確な時期とは言えないでしょう。中学校生活を送り、少し自分の将来が気になり、具体化し始める頃に、自分の将来像に向け、少しずつ、小さな選択を重ねさせていきます。事前に必要に応じた適確な情報や助言を与えるのは、教員の大切な役割です。このときも生徒ひとり一人のペースやそれにともなうタイミングがありますが、経験豊富な教員陣によってうまく対応しています。文・理クラスの選択も生徒の意志で決定します。目標と現実の差がある生徒はいますが、その次の課題として、その差から目をそらさず、具体的に何をしていくべきかを辛抱強く指導していきます。
―非常に手間と時間がかかりますね。
植野 これは、進路選択だけの問題ではなく、思考の習慣をつけることにつながります。目標を持てば、必然的に今の自分との差が生じます。それから逃げることなく、過信することもなく、近づいていくための具体的方法を考える姿勢を持つこと。これは将来、彼女たちには絶対的に必要な思考経路なのです。それを養わせるのが学校であり、そのためにも進路指導があると考えています。ですから、自ら選ぶ機会を、六年の間にできるだけ多く設けるようにしています。
―小さな選択の繰り返しが、選ぶことへの姿勢を作るということでしょうか。
植野 そういうことです。自分の考えかたの主軸ができるのは十代です。この時期に、自ら「選ぶ」習慣をつけさせることは肝要です。先のわからないことを、わからないまま選択することは、難しい。現代の若者が一番怖がる「傷つく」ことが待ち受けている可能性が高いからです。だからこそ、ささやかなことからでも選択体験をさせるべきです。その選択の結果を受け取ることが、それらがどのような結果であったとしても、決しておそろしいものではなく、むしろ自分を信頼することの証であるという、実感に結びついていくはずです。
 選択するために、自己と対峙する。そしてひとつの方法を選び、結果を享受する。このことで「自己信頼」を形成していくのです。自分の生きかたを選びとることは、自らを「プロデュース」することであり、将来の自分に責任を持つことです。未来の自分に責任を持つ。これが「自己信頼」の源だと思うのです。
―人生の中で最も多感な時期を過ごす場である学校として、心がけていることは。
植野 人間には生来、対応力が備わっています。その時代における見えない力によって、堅く閉ざされたそれぞれの能力の「蓋」を、早いうちに開けやすくしておくことは大切です。またこれは、意識的にひとつのシステムとして、全人に実施すべきことと思われます。そうすることで若者たちは、どのような社会状況になっても自分を保ち、バランスよく安定した心を持って生きることができるのではないでしょうか。
 創造性に富む、真に豊かな社会をつくるのは人です。その人を導くという意識を忘れてはいけないと思います。

 

植野 直正(うえの なおまさ)

1951年生まれ。1976年神戸大学大学院理学研究科修士課程修了。1976年より親和中学校・親和女子高等学校教諭。2005年親和中学校教頭、2008年親和女子高等学校教頭、2009年より親和中学校・親和女子高等学校校長に就任。


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目次 2011年11月号