神戸市医師会公開講座 くらしと健康 49

「どこでもMY病院」構想の光と影
〝管理医療〟への足がかりになる危険性も

─「どこでもMY病院」構想とは何ですか。
村岡 日本全国のどこでも自らの医療・健康情報を電子的に管理・活用することを可能にする構想のことで、政府はその実現に向けて遅くとも2013年までに一部のサービス(調剤情報管理など)を開始する予定です。医療情報にとどまらず健康関連情報、健診情報なども含めた医療・健康情報を各個人が一元管理し、これを全国の医療機関が活用することでどこでも適切な医療を受けることができるということが構想の目的です。
─データ入力は医療機関でおこなうのですか。
村岡 いいえ、医療・健康情報に関する一連のデータは、各個人が自らサーバなどに入力した上で、後日、必要な際に自らのデータを利活用することになります。ですから、この「どこでもMY病院」構想に参加するための第一歩として、パソコンやインターネット等に関するある程度の知識や経験が必要となります。また自らが〝大酒呑み〟や〝ヘビースモーカー〟であったとしても、あるいは中性脂肪値やコレステロール値などが目を疑うほど高かったとしても、自分自身にとって不利になるような健康情報や現在の主治医以外にはあまり知られたくないような医療情報でも正確に入力する正直さが前提となります。
また、自分では自らの医療情報等を正確に入力したつもりでも、当然、入力ミスやデータの解釈自体に関する誤解もあるでしょうから、「どこでもMY病院」のサーバに登録された各個人の医療情報などを、次に受診する医療機関がどこまで無条件に信頼して良いのかという問題にもつながります。

─データは個人情報になるわけですが、サーバはどこが運営するのでしょうか。

村岡 各個人の医療情報等を登録するサーバとしては民間事業者などが想定されており、データ流出といった個人情報保護対策への不安はもとより、その民間事業者の経営上の理由によって突然のサービス中止という状況もあり得ます。そのため長期的なデータの継続性をどう担保していくのかという問題も今後の検討課題です。また、各個人が自らの医療情報等を管理するとは言え、〝癌〟などの疾患で医療機関から各個人へ提供されていない医療情報が存在する場合もあるため、医療機関から各個人へ提供する情報の範囲・内容を特定する事も今後の課題です。

─構想の利点と懸念について教えてください。

村岡 政府はこの構想の長所として、出張、旅行、転居した場合でも過去の健康情報、診療履歴に応じて適切な医療が日本全国のどこでも受診可能な点を挙げています。また、東日本大震災による津波でかかりつけの医療機関が被災したことにより各個人の医療情報が消失し適切な医療サービスを受ける事が困難になった患者さんが多数発生しましたが、確かにこのような場合、携帯電話やICカードなどに患者自身が服薬情報を保存しておく「どこでもMY病院」構想の「電子版お薬手帳/カード」については、かかりつけ医療機関からの情報がない場合でも適切な診療を受けるための参考となり得るものです。
 しかし、東日本大震災を絶好の好機として、国が各個人の嗜好や医療情報等を完全に掌握して、国の思うがままに医療費抑制策を実施できる〝管理医療〟への扉を押し開くことは絶対に阻止しなければなりません。各個人のデータが〝管理医療〟に使われることは、守られるべき個人情報が治療や健康管理という本来の目的以外に流用されることであり、そうなればもはや医療だけの問題ではありません。災害時の対策をしっかりと立て、些細な事でもすぐに相談に乗ってもらえる〝かかりつけ医〟が身近にいる状況を守り、自分の希望する医療機関にどこでも自由に受診できる〝フリーアクセス制度〟を保持すれば、日本全国の医療機関があえて「MY病院」である必要性はないのです。

20110808501

20110808401

村岡 章弘 先生

神戸市医師会理事
村岡内科クリニック院長


ページのトップへ

目次 2011年8月号