
国際性と総合性を発信!
国立大学法人 神戸大学
学長 福田秀樹さん
神戸っ子の誇り「神戸大学」。
伝統が育んできた「国際性」をさらに発展させ、専門分野の枠を越えた「総合性」を持つ大学へと進化しています。新しい取り組みについて、福田秀樹学長にお聞きしました。
国際人を育てるにはまず、教員が国際性を持とう
―国際性とは具体的にどうことでしょうか。
福田 神戸の町そのものには、昔から国際的でハイカラなイメージがあります。そんな中にある大学です。近所には京都大学、大阪大学がありますので、規模は小さいながらも特徴を出さなければいけません。まず国際性です。町が歴史的に持っている特徴ですから、国際文化も育まれてきました。今後はどう国際性を発展させていくかが課題です。若い人たちは必ずグローバリゼーションが進む社会や世界に出て仕事をすることになりますし、そういう人材を育てなくてはいけません。
そこで私が、2009年4月に学長に就任以来ずっと考えてきたのが、まず教員が国際性を持つことです。海外に1年間、15名の教員を長期派遣しています。私の任期4年間で60名の予定で、年齢制限を45歳以下としていますから、若手教員の約1割が海外での経験を持つことになります。十分に学内全体への波及効果が期待できると思っています。6月には2年分をまとめて、初めての報告シンポジウムを開きました。派遣先は分野によって様々ですが、8割程度がヨーロッパ、その他アメリカ、オーストラリアなどとなっております。2年先まで派遣希望者は満杯です。積極的ではないと言われる若手研究者ですが、制度さえきちんと整えれば、出て行こうという意欲は十分に持っているということがわかりました。
もう一つ、グローバルネットワークづくりのために、海外に拠点となるオフィスを設置したいという思いがありました。アジアでは既に中国にオフィスを置いていましたので、「EUに是非オフィスを」と、本部があるベルギーのブリュッセルに開設しました。人や情報が多く集まる都市です。また、日本人があまり利用していないEUが持つ教育・研究の組織を活用できます。今後は、日本、アジア、ヨーロッパ、北米、オーストラリアのグローバルネットワークが構築できるでしょう。次の世代には是非、受け継いでもらいたいと思っています。
専門分野の枠を越えて集まる先端融合研究環
―次に、総合性についてご紹介下さい。
福田 神戸大学には、自然科学研究科という組織がありました。一つの建物に入っていたのですが、外部から、また学生ですら、専門分野の内容がよくわからないという難点がありました。それぞれの分野の発展のため、理学研究科、工学研究科、農学研究科を独立させたいものの、一つのビルに入っているので共同研究には好都合というメリットも生かしたいという思いがありました。
そこで3年前に、それぞれの研究科を独立させるとともに、最先端の研究を融合させるために「先端融合研究環」を組織しました。学際性・総合性という特徴を持たせて発展させようというものです。それが、ポートアイランドの「統合研究拠点」につながっています。学長就任当時から「フラッグシッププロジェクト」と名付けて提唱してきました。自然科学系からスタートしましたが、将来的には人文・人間科学系、社会科学系、生命・医学系、それぞれの組織が集まり、全学で総合性を発揮していこうと考えています。中堅規模の大学だからこそ出来るメリットだと思います。
―統合研究拠点の今後の構想は?
福田 世界へ向けてトップレベルの研究成果を発信しなくてはいけません。世界中の研究者や学生が集まって、一緒に研究し、教育する拠点にしたいと思っています。幸い、隣に次世代スパコンがあり、他大学のキャンパスや研究所もあるという素晴らしい環境に恵まれています。更に、当大学の国際コンベンションホールも完成します。先端医療都市構想の中核エリアですから、医療系の企業、研究者、財団の研究室、病院などもあり、人が集まる条件が整ってきています。環境とタイミングを考えると、神戸大学から研究成果を発信できる場所に必ずなると期待しています。
―発想には学長の長い間の民間企業での経験が生きているのですか。
福田 私は、民間企業に在籍した24年間のほとんどを研究所で過ごしましたが、そのときに「プロジェクトを立ち上げる際、どういう人材を集めるか」ということが大変重要であることを会得しました。専門分野が理工系の人材だけでは製品はできません。経済的な観点も必要ですし営業などの力も集めなくてはならないのは当たり前と考えるようになっていましたので、大学においても、総合性や統合性を重視することに何の違和感もありませんでした。それゆえ肩に力を入れずに分野を越えた統合について自然に話をすることができたのだと思います。
世界の〝現場〟に接してアクティブに!
―あまり外へ出たがらないという、今の学生気質をやる気にさせる方法はありますか。
福田 先日、EUのヴァン・ロンプイ大統領にも、「ヨーロッパには日本の学生が少ない」と言われました。アジアで多いのは中国の学生だそうです。日本も高度成長期にはどんどん若者が海外に出ていきました。その後、社会が成熟して落ち着いてくると、日本の中に居て満足してしまうようになってきたのだと思います。中国はどんどん海外へ出て行っていますし、ヨーロッパ諸国にとっては海外に出て行くことなど歴史的にも当たり前になっています。私には、このままでは日本は大変なことになるという危機感があります。日本人も意外と海外に居るのですが、もっと積極的にアピールするべきです。
学生も留学基金や派遣制度などを利用して出て行くべきです。また、日本にいるときは、海外からきた人たちと競争させることが必要です。その意味もあり、当大学では文学部がオックスフォード大学と協定を結びました。12人ほどの学生さんが勉強に来る予定ですが、学生は大変刺激を受けています。また当大学には千人以上の留学生もいますから、彼らと接している学生はアクティブです。いわゆる〝現場〟に接してこそ、危機感を持てます。
また、海外でできたネットワークは一生の財産です。私自身が実感していることです。
―学長ご自身は、どういう研究をされてきたのですか。
福田 生物化学工学分野の研究です。微生物や酵素を使って、燃料をはじめとする有用な物質をつくろうというものです。現在も、産官学共同のプロジェクトリーダーを務めています。学生も関わってきますから、彼らにとっては将来の仕事についての勉強にもなっています。
あらゆる場面でスパコンをフルに生かそう!
―大きな震災が起きましたが、神戸大学での防災・減災の研究・教育はどのような状況ですか。
福田 阪神・淡路大震災後、大学としても復興への役割りを果たすために「都市安全研究センター」を設置しました。部局横断型の先端融合研究環の一つのセンターとして、工学系を中心に、理学系、医学系、社会科学系の先生方も加わり、研究と教育の大きな組織になっています。この度の東日本大震災でも、一つの核となって他の組織や大学と連携を取りながら活動しています。
東北大学も同じような組織を立ち上げたということです。お互いに協力していこうと学長さんとお話ししたところです。
―自然災害もあり、大きく変化する時代。スパコンの供用も開始されます。これからはシミュレーションが重要ですね。
福田 昨年から大学院でスタートした「システム情報学研究科」は、スパコンを駆使できる人材を育成することを目的としています。大きな研究テーマは、スパコンを使う大型で複雑なシミュレーションを短時間で行うことです。例えば、津波や台風を予測するには、何通りものシミュレーションを考えなくてはなりませんが、それが瞬時で可能になります。人間の体や、地球の内部、宇宙などの変化を予測して影響を調べることもできます。生命からナノテクノロジーまでとらえることができるのです。しかし、使いこなせなければ意味がありません。期待は非常に大きいのですが、何にどう使うかが今後の課題だと思っています。
魅力的な街・神戸にある大学
―国立大学が国立大学法人となりましたが、そのメリットは感じられますか。
福田 「たが」が外れて自由になったとも言われていますが、仕事の量は増えたようです。どこの大学でも悩みの種だと思います。論文数が減ってきているというデータもあります。本業に専念できる余裕を持てるような改善が必要だと思います。
―お隣の岡山大学の学長さんが「町のイメージがいいので高校生が神戸大学へ行きたがる」と嘆いておられましたよ。
福田 京阪神を控えている立地は、人が集まりやすいのでしょうか…、申し訳ないですね(笑)。
私も実は京都出身ですが、神戸での生活も長く、今では家族皆すっかり〝神戸っ子〟です。おいしいものが多くて、気候も温暖。空間にゆとりがあり、明るくて、落ち着きますね。ハイカラ神戸での生活をエンジョイさせていただいています。学生もこういう環境で学びたがるのでしょうね。
インタビュアー本誌・森岡一孝
福田 秀樹(ふくだ ひでき)
神戸大学学長
1947年京都府生まれ。1970年京都大学工学部卒業。鐘淵化学工業株式会社(現株式会社カネカ)入社。1994年神戸大学工学部教授、大学院自然科学研究科教授。2003年~09年大学院自然科学研究科長。2004年国立大学法人神戸大学大学院自然科学研究科教授。2009年神戸大学学長。神戸大学初の一般企業出身の学長。専門は生物化学工学。

神戸大学ブリュッセルオフィスでオックスフォード大学と締結した
大学間学術交流協定の調印式

緑に包まれる神戸大学六甲台本館