
First in Classに挑戦
アスビオファーマ株式会社
代表取締役社長 横山誠一さん
―昨年、アスビオファーマとしてポートアイランドで新たなスタートを切りましたが、その経緯は?
横山 親会社の第一製薬株式会社が、三共株式会社と統合されて以来、第一三共グループの中でアスビオがどう生きていくかを検討してきました。その結果、得意な部分をより強めようと、組織を大きく変え、昨年4月に研究開発特化型の会社としてスタートしました。
―昨年10月、国内3カ所の研究拠点をここに集約した理由は?
横山 東京本社と、2カ所の研究所があり、テレビ会議などでコミュニケーションを取っていました。1カ所にまとめて、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを取りたいというのが念願でした。半年経ちましたが、集約の効果は大いに出ていると感じています。
―神戸ポーアイでの研究環境はどうですか。
横山 薬を一社だけで開発できる時代ではありません。アスビオの規模では、全ての技術を持つことも不可能です。ポーアイは、医療産業に携わる企業と一緒に、また大学や研究機関とアイデアを出し合いながら薬を創っていける非常に魅力的な環境です。既に、一緒に取り組んでいるテーマがたくさんあります。ここ以外の場所ならこれほど緊密に連携をとることはできなかったでしょう。ポーアイにおけるクラスターの仕組みがこういった協力関係を可能にしてくれています。
神戸で働く人は神戸が大好き。そこへ、社運をかけて会社まるごとやってきたアスビオですから信頼もいただいているのでしょうね。
―新しい中央市民病院も近くにできますね。
横山 会社として直接関わることはありません。しかし、製薬会社にいても患者さんと接する機会は意外と持てませんから、近くに病院があることで、「患者さんのために」という、社員のモチベーションにつながると思います。
―炎症・再生現象に焦点を当てて研究するそうですが。
横山 ある種の病気になると体の中で炎症が起き、次第に治っていきます。傷害を受けたときには、体自身が再生して元の状態に戻っていきます。体が本来持っている病気への対処方法です。そういう考え方で薬を作れないか?という発想です。薬へのアプローチを変え、私たちが得意とする炎症や再生の領域で創薬にチャレンジしてみようというものです。
―ファースト・イン・クラスとは?
横山 既にある薬の有効性や安全性をさらに高めることは素晴らしいことで、患者さんにもメリットがあります。これがベスト・イン・クラスです。
一方、従来は薬がなかった病気にチャレンジしたり、また同じ病気でも狙い方を全く変えて新しい薬を創るのがファースト・イン・クラス。アスビオは、このファースト・イン・クラスに特化して研究開発を進めています。既にいくつかの成果を上げ、直近ではアルツハイマー型認知症の治療薬を開発しました。進行を抑えるレベルですが、困っている多くの患者さんのお役に立てたと思っています。
―約200人のアスビオ社員は全員が研究者ですか。
横山 管理部門を除けば、全員が研究者です。薬学部も非常に多いのですが、それでは研究が偏ってしまいますから、理学部、工学部、農学部などの出身者もたくさん採用しています。
―第一三共グループの一員であるアスビオですが、そのメリットは?
横山 まず、資金面で安定していることです。また常時必要ではない部門は、第一三共にカバーしてもらっています。アスビオには製造工場がありませんので、原薬を作ることや製剤でも全面的にバックアップしていただき、良い形での役割分担をさせてもらっています。
―開発された薬は第一三共から発売されるのですか。
横山 第一三共も全ての分野をカバーしているわけではありせんから、他の企業とパートナーシップをとったほうが有利な場合もあります。そういったマーケティング戦略については、第一三共にお任せしています。私たちは患者さんにとって安全で有効な新しい薬の研究開発に専念しています。
―今後の抱負、アスビオへの思いをお聞かせください。
横山 製薬企業の使命は、いろいろな病気で困っておられる多くの患者さんに、本当に欲しいと思っている薬を提供していくことです。これは、入社以来ずっと考えていたことですが、現在の立場になり改めて強く感じています。アスビオはそれに加え、ファースト・イン・クラスに焦点を合わせていますから非常にハードルは高いです。それだけに、良い薬ができれば多くの患者さんとお医者さんに喜んでいただけると思います。ぜひ、神戸発の画期的新薬を世に出していきたいと願っています。
―これからも、私たちの役に立つ薬の開発をよろしくお願いします。
横山 誠一(よこやま せいいち)
アスビオファーマ株式会社 代表取締役社長
東京都出身。1975年東京大学薬学部を卒業、第一製薬(現第一三共)株式会社に入社。2002年に第一サントリーファーマ(現アスビオファーマ)株式会社経営企画室長を経て、2006年より代表取締役社長に就任。

アスビオファーマ(株)では、約200名の研究者が新薬の開発を行う

最近では、アルツハイマー型認知症の進行を抑える治療薬を開発した

1階は、ラウンジになっており、一般にも開放している