人にやさしい、最新の医療を

神戸市立医療センター中央市民病院
院長 北 徹さん

 

―今年7月に「神戸市立医療センター中央市民病院」が新しい場所に移り、生まれ変わります。どのような経緯で移転することになったのでしょうか。
 現病院が現在地に移転してから、すでに約30年が経過しています。昭和56年の新築当時は最新の設備でしたが、時とともに設備類の経年劣化が進行し、その対応が困難になってきました。最新の機器を導入しようとしても、医療技術の進歩にともなう医療機器の大型化が進んでいて、建物の構造上、改築ではそれに十分対応できないのです。さらに昨今ではプライバシーへの配慮や快適な療養環境の確保など、患者さんのニーズも多様化してきていますので、その声に的確に対応する必要もあります。以上のことを実現し、市民病院としてより良い医療を提供するため、このたび移転・新築をおこなうことになりました。

 

―新中央市民病院の特徴として「救急医療体制の強化」を挙げていますが、その内容をご紹介ください。
 救急医療体制の立て直しは地域医療において大きな課題となっており、救急医療の充実は市民の生命を守るために重要であることは言うまでもありません。そこで、新病院では救急医療にあたる「救命救急センター」を強化・拡充しました。EICU(救命ICU)8床、心筋梗塞など冠状動脈疾患の急性危機状態の患者を収容するCCU6床なども設置し、救急専用の病床数を従来の30床から50床へと20床増加しています。
 ほかにも、4階の「手術部門」では手術室を現在の16室から18室に増やしましたが、そのうちの1室を「救急専用の手術室」として確保し、重症・重篤な救急患者を受け入れるための機能を強化しました。また、「救命救急センター」は1階にありますが、同フロアにMRIや血管造影装置などを設置している「映像医学部門」を集約、1階の「救命救急センター」と4階の「手術部門」、屋上へリポートを繋ぐ直通・専用のエレベーターも設置しました。これらの工夫により、重症・重篤な患者が病院に到着後、〝検査・診断から治療まで〟を迅速に行うことが可能となります。

 

―「患者さんにやさしい医療の提供」も新病院のひとつの大きな特徴のようですね。
 最新医療機器の設置にともない、患者さんの精神的・肉体的な負担の少ない治療、いわゆる低侵襲治療を積極的に採用します。例えば手術室に血管造影装置を併設した「ハイブリッド手術装置」を設置することで、通常手術とカテーテル処置を同時に行うことが可能となり、心筋梗塞や脳卒中などの治療成績の向上に寄与します。
 手術ではそのほかにも、外科、呼吸器外科、産婦人科、泌尿器科などさまざまな診療科で、患者さんの身体的負担が少ない鏡視下手術に積極的に取り組みます。入院日数が短縮されることも鏡視下手術のメリットです。また、IMRT―リニアック(強度変調放射線治療装置)という最新機器も導入しました。この機器は腫瘍部分に放射線を集中して照射することが可能で、周囲の正常組織への照射を減らすことができます。副作用を増加させることなくより強い放射線を腫瘍に照射することで、がん治療に効果が期待でき、患者さんの負担の軽減にもつながります。

 

―ほかにも新しい医療機器を導入していますね。
 ハイブリッド手術装置やIMRT―リニアックのほかにも、がん細胞に目印を付けるPET検査と体の輪切り映像を撮影するCT両方の機能を併せ持ち高度ながん検診が可能なPET―CT、高画質の画像でより微細な血管の状態まで把握できる3テスラMRIなども新たに導入しました。また、アンギオ(血管造影)やCTについてもより高性能な機器に更新しており、今まで以上に正確な診断や、適切な治療を実施できるようになります。

 

―病室や待ち時間にはどのような工夫をしていますか。
 病棟ではプライバシーに配慮するとともに、すべてのベッドが窓に面した個室感覚の4床室を整備しました。各ベッドのそばには「ベッドサイド端末」を設置したことも特筆すべきことでしょう。この端末は操作も簡単で、テレビやインターネットのほか、病院食の選択、検査のスケジュールの確認なども患者さん自身で行おこなうことが可能で大変便利です。外来では電子カルテの採用で待ち時間の低減をはかるだけでなく、診察の順番を文字でお知らせする「院内呼び出し携帯端末」を導入しました。これにより、診察までの待ち時間に、屋上庭園やレストラン、市民健康ライブラリーなど、お好きな場所で過ごしていただくことができるようになります。会計では電子カルテと連動した自動支払機を多数導入し、会計の待ち時間をできるだけ短くするように工夫しています。

 

―新たに移転するポートアイランドⅡ期地域には研究機関や大学、製薬研究所などが数多く集まっていますが、それらの先端研究機関との連携や地域内連携やサポートにも具体的な方向はありますか。
 先端医療センターは本院と並んで医療産業都市構想の中核的な役割を担っており、以前より診療面で連携してきました。今後は地理的にも近くなるので、より一層連携を密にしていきたいと考えています。また、ポートアイランドには多くの大学が立地し、看護学生、薬学部の学生などの研修を受け入れてきましたが、今後は大学の研究分野でさらなる連携ができないか検討していきたいですね。

 

―環境にやさしい病院と伺いましたが、どのような点に配慮しているのでしょうか。
 CASBEE神戸(神戸市建築物総合環境評価制度)で、最高ランクの「Sランク」の評価(神戸で2例目)となりました。これは、太陽光発電、雨水利用、自然採光など、エコに配慮して自然資源を積極的に活用するとともに、屋上緑化や断熱性の高いペアガラスを採用し建物の熱負荷を抑制することで省エネルギーを目指すなど、環境に対して総合的にバランスよく配慮することで実現したものです。

 

―地方独立行政法人になって2年、だいぶ軌道に乗ってきましたか。
 平成21年4月から地方独立行政法人となりましたが、西市民病院と中央市民病院の2つの病院が1つの機構のもとで市民の生命と健康を守るという使命を果たしていると思います。また、法人化したことにより、経営に近い職員はもちろん、医師、看護師、その他の職員も、安定した医療を提供するためにはさまざまな工夫や効率化が必要だという意識が芽生えていると感じています。今後もより安定した医療サービスを市民のみなさまに提供していくために、引き続きそのような意識の浸透を図っていきたいですね。

 

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国内でも導入が稀なハイブリッド手術装置

国内でも導入が稀なハイブリッド手術装置

 

電子カルテと連動した自動支払機

電子カルテと連動した自動支払機

 

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北 徹(きた とおる)

京都大学名誉教授
神戸市立医療センター中央市民病院院長
1971年京都大学医学部卒業後、同附属病院第三内科入局。1988~1995年京都大学医学部老年内科教授、1995~2008年京都大学大学院医学研究科教授(内科系)。2005~2008年京都大学理事・副学長。2008年10月から現職。現在、日本動脈硬化学会理事長。2010年3月に開催された第74回日本循環器学会総会・学術総会会長。


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目次 2011年7月号