
兵庫県立大学
University of Hyogo
地域の未来を見つめて
―2004年に「神戸商科大学」「姫路工業大学」「県立看護大学」が統合されてできた「兵庫県立大学」ですが、その特徴や魅力は?
清原 兵庫県が設置した大学ですから県と同じ方向を目指すことを基本として、地域との連携や地元企業との協力関係を重視しています。大学には国際的に通用する研究という使命もあり、当大学でも理学部、高度産業科学技術研究所、工学部など理工系の部局は世界的にも通用する研究拠点になっています。全国81公立大学の中で、学生数と予算では、首都大学東京、大阪府立大・大阪市立大に続く4番目の規模です。総合大学ですから存在感が大きく、国立大学法人と比べても中規模以上の位置づけです。それに見合う全国展開と国際的な発信にも重点を置いています。
―全県に施設が点在していますが、連携と意思の疎通はどのようにされていますか。
清原 大学の学部、大学院の研究科、附置研究所、附属中学・高等学校などの施設が、北は豊岡から南は淡路、東は三田から西は佐用まで点在しています。学生がいるキャンパスだけで7カ所はあります。月2回の会議のために本部まで遠くから来なくてはならない点など考えると、大学運営の観点からは効率が悪いのは確かです。今さら1カ所に集めるのは難しいですから、点在していることを生かして地域に密着した研究教育機関を目指すという逆転の発想で「全県がキャンパス」ととらえています。学生は県下いろいろな所で学び、また地域の人たちにはキャンパスに来てもらい、大学をまちづくりや地域の活性化に結びつけようと試みています。
―兵庫県だからできることですね。
清原 兵庫県には多様な教育研究機関が集積しています。例えば、次世代スパコンが運用開始される神戸ポートアイランドでは、応用情報科学研究科を移転するのと併せて、シミュレーション学研究科を新設しました。神戸市をはじめ、神戸大や甲南大とも連携して、医療産業都市構想にも貢献できるのではないかと思っています。
―SPring8付近には理学部関連施設が集まっていますが、その経緯は?
清原 約20年前に理学部をつくる時点で、大型放射光施設を使った先端研究が必要になってくると考えたのが大きな動機でした。また、播磨地域の科学公園都市構想との関係もありました。戦後に新設された理学部は県立大学(当時の姫路工業大学)だけです。生命理学と物質理学という2つの研究領域の理学部は、それまでの理学部のイメージとは全く違うものでした。生命理学研究科では、たんぱく質の解明などで国際的な研究成果を上げています。公立大学理学部としては全国で唯一、文部科学省のグローバルCOEプログラムに採択されています。
また、隣接の高度産業科学技術研究所が持っている中型の放射光施設は産業利用に適した規模ですので、企業と連携して研究開発を行っています。
―産学連携ですね。各大学では産官学連携に力を入れていますが、県立大ではどのように進めているのですか。
清原 従来は、大学本部にあった産学連携センターと姫路工大当時から書写キャンパスにあった姫路産学連携センターという2拠点で進めていました。過去に多くの成果を上げてきましたが、情報交換や交流での利便性を考えて統合し、姫路駅前という交通至便の地に拠点を置いて新たにスタートしました。従来の物づくりでの産学連携に加えて、ビジネスづくりの連携も進めようと、「テクノロジーサポートセンター」「ビジネスサポートセンター」を核とした仕組みをつくりました。将来的には健康、医療、工学、テクノロジー・ビジネスをミックスした領域での産学連携を進めたいと考えています。先程触れたように今回新たに「産学連携機構」をつくり、姫路市の協力を得て駅前の「じばさんびる」のワンフロアに拠点を置きました。神戸方面での活動も積極的に進めようと、須磨区の鷹取にある県立工業技術センターに支援室を置いていただき、神戸阪神地区の拠点にする予定です。また豊岡市とも協定を結び連携を進めています。
―県立大学では生涯学習にも力を入れていますね?
清原 最も力を入れているのが単発やシリーズでの公開講座です。すぐれた研究を市民に解説する「知の創造フォーラム」や各学部の公開講座を社会人向けに開催しています。食や子育てに関する講座が好評です。また4月に県立大学内に拠点を移設された地域の団体である播磨学研究所の「播磨学講座」第一回目では200人ほどの方が熱心に聴講されていました。私もびっくりしています。
―国際交流センターではどういう活動を行っていますか。
清原 海外の大学と学術交流協定を結び、教員や学生の交流、共同研究を行っています。特に当大学では、兵庫県と姉妹関係にある西オーストラリア州のカーティン大学と交流しており、今年8月には兵庫県と西オーストラリア州の姉妹交流30周年の記念行事にも参加する予定です。同じく友好関係にある中国広東省広州市の曁南大学や韓国釜山市にある東亜大学校とも長く連携を続けています。ハワイ大学では学生が語学研修を行っています。また当大学では、主に中国からの留学生180人程度を受け入れています。留学生の受け入れは拡大したいと思っていますが、受け入れ体制や卒業後の進路支援の確立が課題です。
―県立大学のこれからについてお話しください。
清原 少子化が進み、これから18歳人口は増えることが考えられない状況下で、4年制大学が全国に700校以上あり、いい意味での競争、大学サバイバルが始まっています。
県立大学は3大学が統合されましたから、その成果は何かを問われます。統合効果を県民の皆さんに分かるように示さなくてはなりません。そこで昨年から、新しい全学センターの立ち上げを進めています。一つが「キャリアセンター」です。当大学の就職率は95%を超え、全国平均を上回っています。学生の進路保障、キャリアサポートを更に充実させるためのセンターです。昨年10月に第一回の合同業界説明会を開催し、100社以上の企業と1100人程度の学生が集まりました。更に積極的に展開し、「就職に強い大学」を目指そうと考えています。
また昨年から阪神・淡路大震災の経験をもとにした「防災教育センター」を計画し、今年4月に開設しました。全学共通科目として防災関連科目を設け、更に来年度からは防災ユニットをつくり副専攻として学ぶ学生を募る予定です。
そんな折りに、東日本大震災が起きました。兵庫県は関西広域連合の中でも防災担当、その中でも宮城県担当です。当大学も直ちに支援本部を置き、宮城大学と連携してボランティアを派遣しました。今後も計画的に支援活動を進めていく予定です。また、シミュレーション学研究科では防災分野のシミュレーションも行います。応用情報科学研究科でも、被災地ケアのための情報システム構築を地域ケア開発研究所や看護学部と共同で始めようという計画もあります。これらは統合のメリットをフルに活用した戦略といえます。
当大学は理系から文系まで、6学部、12大学院研究科があります。理工系では先端研究の拠点づくりを、経済・経営や看護では高度職業人養成を、環境や人間科学関連では環境問題や地域連携に重点を置くという3つの戦略目標でそれぞれに特色を持たせようとしています。さらに平成25年度法人化移行を目標に、今秋に方針を決定したいと思っています。
―目に見える結果を出す必要があり、県の協力も必要ですね。
清原 兵庫県は県立大学に非常に力を入れています。感謝するとともに、私たちも県民の皆さんに県立大学をもっと広く知っていただく努力が大切だと思っています。
―今後もユニークな大学として地域の発展にも寄与していただけるものと期待しています。
①神戸学園都市キャンパス・政策科学研究所 ②姫路書写キャンパス ③播磨光都キャンパス・高度産業科学技術研究所・附属高等学校・中学校 ④姫路新在家キャンパス ⑤明石キャンパス・地域ケア開発研究所 ⑥神戸ポートアイランドキャンパス ⑦淡路キャンパス ⑧産学連携機構
〈自然・環境科学研究所〉
⑨自然環境系
⑦景観園芸系
⑩田園生態系
⑪宇宙天文系
⑫森林・動物系
地球資源衛星1号(ふよう1号)から見た兵庫県
〈宇宙航空研究開発機構地球観測センター提供〉

SPring8のある播磨科学公園都市との連携を図る

兵庫県の姉妹関係にある西オーストラリア州カーティン大学との交流を図る
清原正義(きよはら まさよし)さん
兵庫県立大学 学長
1947年生まれ。1969年京都大学教育学部卒業。1974年東京大学大学院教育学研究科博士課程(教育行政専攻)進学(昭和54年3月満期退学)。1998年姫路工業大学環境人間学部教授。2004年兵庫県立大学環境人間学部長。2010年兵庫県立大学学長