神戸市外国語大学

Kobe City University of Foreign Studies

 

グローバル時代に役立つ国際人を

 

―新学長になられて責任も増えたと思いますが、新しい教育方針はありますか。
船山 大学として6カ年計画を立てているのですが、いま4年が経過しました。いまは2013年からはじまる次の中期計画の作成に取り組もうとしています。その中でいま考えていることは、教室と社会との結びつきを強くすることです。本学では言語やコミュニケーションを扱っており、また学生の卒業後の仕事を考えると、早い段階で実際の社会を間近で感じ取ってもらいたいと思っています。大学そのものをもっと開かれたものにして、大学と社会との交流をもっと増やしていくことを考えています。また、大学院を取り巻く状況も変わってきています。大学院の独自の魅力づくりのため、組織やカリキュラムを再検討し、従来の研究者の育成だけでなく、多彩なプログラムを用意し、研究者以外の道を志す学生や社会人、留学生にも開かれた大学院に変えようとしています。

 

―先生は、言語は意思を伝える道具だけではないとおっしゃってますが・・・・。
船山 言葉とは手垢が付いているものです。人が関わり、歴史の営みが作り上げてきたものなのです。また、言葉そのものは変化していくものです。日本語でも現代の言葉と古文では大きく違いますよね。コミュニケーションとは人と人との関わり合いです。人類は言語というツールを作り上げてきましたが、重要なのはコミュニケーションです。それは、単に覚えた記号をやりとりする行為ではありません。頭の中にあるものを伝え、考えながら聞くことです。いまの文化には歴史があり、言語を学ぶ人はそれを常に意識してほしいと思います。

 

―神戸で開学して65年。最初の頃に比べると、卒業生の活躍の場も広がっているでしょうね。
船山 開学当初は、卒業生は商社などに就職し、海外に赴任するのが主流でした。しかし、いまは女子学生の比率も増えており、旅行関係、ホテル、観光ビジネス、キャビンアテンダントなど多様化してきています。それと、学校の先生になる卒業生は昔から多いですね。今年度から小学校で外国語活動が必須となり、語学教員のニーズや社会的な意義はさらに重要になっていると感じています。

 

―船山先生は元々ロシア語専攻でしたが、最初にロシア語を選ばれた理由は?
船山 実は深い理由はないんですよ。世界中のメジャーな言語を比べた時に、ロシア語が一番変わっているように思えて興味を持ったんです。当時は生意気だったので「英語はもう十分習得した」なんて思っていたんですね(笑)。

 

―京都大学大学院では言語学研究をされていました。言語学の面白さとは何でしょう。
船山 私の場合、理論的なものが好きなんです。例えば文法にしても、もっと完璧な文法を求めるんですね(笑)。ですから文法研究から入りました。卒業論文は当時のソ連の言語学者シャウミャンの文法理論でした。その後は文法よりも、さらに広い言語学的アプローチに興味を持ち続けてきました。これまでにいろいろな理論が登場してきて、言語学者の考え方も新しくなっています。私自身の関心も文法理論から発話理解へと変わってきました。現在行っている具体的な研究としては、同時通訳の記録データを調べています。人が言葉を理解するプロセスが読み取れればと考えています。やっぱり研究や教育現場が好きなので、学長になったいまでも、教壇には立つようにしています。

 

―多数の国際会議の通訳もされてきましたが、通訳に必要な能力、大切なこととは何でしょう。
船山 通訳にとって必要なのは、基本的には理解力です。特に同時通訳では1を聞いて10を知ることが必要です。自分がわかっていても、伝えられなければ意味がありません。英語圏なら英語力、日本なら日本語力が必要です。知識に支えられた理解力と、それをベースに別の言語で伝える表現力が必須だと言えます。

 

―神戸の大学であるメリット、他大学との交流などは?
船山 神戸には歴史的に国際都市としての土壌があると感じています。神戸では実際に多数の外国人が活躍しており、生の外国語に触れる機会も多いと思います。国内的にも神戸の魅力故か、本学の学生は、全国から集ってきています。神戸出身の学生は1〜2割ほどです。また様々な分野で活躍している卒業生を通して、神戸の土地が持つ息吹が、脈々と続いている感じがします。他大学との交流例としては、国公立の外国語大学は本学と東京外国語大学のみであることもあり、大学院レベルでつながりを深めています。さらに海外の大学とも、英語圏の国々はもちろんのことですが、ロシア、中国、スペイン語圏などとの交流、教員の交換などをもっと増やしていきたいと考えています。

 

―大学運営の難しさもあると思いますが、これから神戸市外国語大学が目指すものを教えて下さい。
船山 今後も、グローバル時代に役立つ国際人を育てていきたいと思います。現状を考えると大学予算に限りはありますが、工夫と知恵でできることはたくさんあります。おかげさまで就職率の高さは保ってきていますが、競争も高まっている昨今、現状が安泰だとは考えていません。同窓会組織である「楠ヶ丘会」とのつながりももっと深めようと思っています。今後は卒業生とのネットワークも重要だと思うからです。

 

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船山仲他(ふなやま ちゅうた)さん

神戸市外国語大学 学長
1950年まれ。大阪外国語大学外国語学部卒業。京都大学大学院文学研究科博士課程言語学専攻単位取得。2003年4月より神戸市外国語大学外国語学部教授。2011年4月、理事長・学長に就任。専門は言語学、通訳理論。

 

授業では、船山学長自らが教壇に立つ

授業では、船山学長自らが教壇に立つ


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目次 2011年7月号