触媒のうた 4

―宮崎修二朗翁の話をもとに―

出石アカル
題字・六車明峰

「のじぎく文庫」発刊に先立ちロゴマークが公募されたという。

「新聞に何度か募集広告を載せれば、周知を図るのにもってこいでしょ」
なるほど、これも宮翁さんこと宮崎修二朗氏の戦略だったのだ。
採用されたのは、米田透という人の作品。今も使われているので知る人も多いでしょう。
この名前を聞いて、わたし驚きました。
「えっ?もしかして、あの米田透さんですか?」
「そうです。足立巻一さんの幼友達のね」
米田さんならわたしには印象的な思い出がある。足立先生(足立巻一氏をわたしは先生としか呼べない。読者は煩わしく思われるかもしれないが、お許しを)の『親友記』の出版記念会でのことだ。
その前に、その『親友記』に書かれたあとがきを紹介したい。
―(略)思えば、わたしはそれぞれの時期において相交わった少なからぬ師友の人生を、こうして断続する一連の作品の流れのなかに書きこめてきた。それはまた、自分自身の歴史を、生を告白することでもあった。そうしてどうやらわたしは終点にたどりついたらしい。この『親友記』はその終点にあたる作品のつもりである。ここに去来する何人かの友は、文学によって結ばれた生涯にわたる親友であり、すでに前記『鏡』において登場し、『やちまた』『夕暮れに苺を植えて』にも一部を触れたが、かれらの全人生とその友情とは本編でほぼ完稿し得たと思っている。―
足立先生らしい情のこもった文章である。
先生がどこかに書かれていたものに、「本を出す楽しみのひとつにあとがきを書くことがあります。あとがきを書くために本を出すようなことも」という意味の文章があったと記憶している。
話、ちょっとそれてます。わたし、足立先生のことになると平静ではいられないのです。生涯尊敬してやまない人なのでこれもお許しを。
そう、米田透さんのことだった。
『親友記』の出版記念会で足立先生の講演があった。詳しい内容は忘れたが、親友のことを心をこめて語られた。それをわたしのそばで聞いておられたのが米田透さんだった。その時、わたし見たのです。米田さんの眼からすーーっと一筋二筋涙が流れ落ちるのを。
その『親友記』の書き起こし。
―親友と呼べる友を持ったのは、川崎藤吉が最初であった。孤児同様のわたしには、それまでひとりの友もなかった。―
ここでいう川崎藤吉が米田透さんのことである。
また、先生が生前、神戸新聞に連載された「わがこころの自叙伝」にはこうある。
―わたしは諏訪山小学校で、ふたりの親友を得た。米田透といい、吉田鶴夫という。
米田は家がすぐ近かったので神戸に移るとすぐ知り、吉田は少し遅れた。米田は絵と音楽のうまい早熟の少年であり、(略)なお、米田・亜騎・冬木とはいまも親交をつづけ、ことに米田にはいつも著書の校正をお願いしている。実に長い交友である。―
その人、米田透さんが「のじぎく文庫」のロゴマークに当選。足立先生が、絵がうまかったというのは本当だったのだ。
ところが、である。採用されたロゴマークを見た植物学者の室井綽さんが「これは間違ってます」と。
葉の形が間違っていたのだ。室井博士は日本を代表する植物学者であり、「兵庫県生物学会」「のじぎく保存協会」の会長でもあった人。
「良かったんですよ。発表する前に訂正できたので。そうでなければ恥をかくところでした」
わたし、翁に聞いてみました。
「室井博士は今もご健在ですか?」と。すると、
「分かりません。実は何年か前に博士から書状が届きました。『今後、世間には出ません。交渉を断ちます』というような内容でした。いわば引退宣言ですね。そのような人でした。だから今、どうしておられるのか全く分かりません」
博士は1914年生まれ。ご健在なら96歳ぐらいになられる。この人のことは又稿を改めて書きたい。
米田透さんについての情報をもう一つ。
宮翁さんが編まれた、「日本の旅・名詩集 ふるさとの詩」《全五巻》の中の『瀬戸内から九州へ』(三笠書房・1969年刊)に米田さんの詩が紹介されている。
ちょっと長いので詩は省くが、「奄美からの絵はがき」という題で、父祖の地を豊かな方言を交えて描いている。宮翁さんは、こう解説する。
―鮮やかなカラー映画を見ているような気がする。奄美の風物が目をみはらせる。帰郷者の甘く懐かしい心情が、スクリーンのバックグランドに奏でられる(略)本籍奄美大島。神戸に生れた。「天秤」同人。詩集「色彩風琴」―。
宮翁さん、この時46歳。触媒仕事真っ最中だ。

※足立巻一―詩人・作家。『やちまた』で第20回 芸術選奨文部大臣賞。『虹滅記』で第30回日本エッセイストクラブ賞。

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出石アカル(いずし・あかる)

一九四三年兵庫県生まれ。「風媒花」「火曜日」同人。兵庫県現代詩協会会員。詩集「コーヒーカップの耳」(編集工房ノア刊)にて、二〇〇二年度第三十一回ブルーメール賞文学部門受賞。喫茶店《輪》のマスター。

出石アカルブログ http://akaru.mo-blog.jp/akarublog


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目次 2011年6月号