愛の物語 アイーダを演じる 劇団四季 井上智恵さん

―「アイーダ」は音楽がエルトン・ジョンですが、今まで多かったアンドリュー・ロイド=ウェバーの作品と比べてどうですか。
井上 ロイド=ウェバーは緻密に曲を作ります。楽譜と一音たりとも違うことが許されません。エルトン・ジョンの場合は、ジャズのようにその場の雰囲気や役者によって、フェイクやアレンジを要求されるので、楽譜があっても無いようなもの。五線譜には書けない微妙な音もあります。

 

―楽しく歌えたのでは?
井上 オペラ座の怪人はクラシック、アイーダはロック、マンマミーアはポップスなど、今までいろいろなジャンルの曲を歌わせていただきました。それぞれに楽しさがあり、難しさがあります。
 私は、子どもの頃は民謡も歌っていました。テレビの「ザ・ベストテン」を見て育った世代なので、歌謡曲など、どんなジャンルの曲でも大好きです。

 

―そして芸大の声楽科に進まれたのですが、パートは?
井上 ソプラノです。けっこう音域が広いので「メゾソプラノじゃないの?」とよく言われますが、芸大時代、先生に「低い音域も出るから声はメゾだけど、顔がソプラノ顔だからソプラノね。」と言われました。「どういう意味?」と思っちゃいましたが(笑)ある時、耳鼻科で声帯を調べてもらったら、長くて厚い声帯でした。発声のウォームアップは時間がかかりますが長時間歌えます。「長距離ランナータイプ」なんです。だから喉は強いんですよ。

 

―だから〝ドス〟の効いた声もお上手なんですね(笑)。
井上 そうですか(笑)?ありがとうございます。声を作っているつもりはないんですが、役によって声が変わると言われることは多いです。例えば「サウンド・オブ・ミュージック」のマリアなら強くて明るい女性ですから解放的な声になります。アイーダなら、一国の王女としての試練や葛藤がありますから、それを反映した声になります。だからドスが効くのでしょうか?「発声と発想は同じ」なんですね。

 

「ゴッズ・ラブ・ジャパン」の祈りを込めて

 

―歌の中で「神の愛するヌビア(ゴッズ・ラブ ヌビア)」が一番、井上さんに合っていたような…。
井上 ありがとうございます。一幕ラストの曲ですね。心身ともにとても大変な曲で、歌い終えて緞帳が下りた途端倒れ込んでいます。 私自身、今の日本の状況と重なるシーンでもあり、「ゴッズ・ラブ・ジャパン」という想いがこの曲を通して被災地の方々へ届くよう、毎回祈りを込めて歌っています。

 

―東日本大震災の時は?
井上 東京で「サウンド・オブ・ミュージック」の本番真っ最中で、修道院長に「試練を乗り越え、自分自身で自分の道を見つけ歩き出しなさい。」と諭される一幕ラストのシーンで突然揺れ始め、大きな揺れの中二人でずっとそのまま演じていました。頭上にあるたくさんの照明が「ガチャガチャ」と物凄い音を立てて今にも落ちてきそうで、あの恐怖は今でも忘れることができません。四季の作品には、一つ一つの作品に祈りがあり「生きることの素晴らしさ」そして「人生讃歌」というテーマを持っています。今、日本は大変な時期です。だからこそ今私たちは公演すべきだと思っています。

―マリアから、続いてアイーダへ。今回のように、途中から主役を演じる難しさはありますか。
井上 出来上がっているものの中に入るのはすごく大変で、緊張します。全く違うキャラクターにチェンジするために「全身の血液を入れ替える」という気持ちで取り組んでいます。  アイーダは一国の王女として葛藤しながら、最後は自分の意思で「一人の人間としての道」を歩みます。彼女は強さも弱さもある人間らしい人間ではないでしょうか。「自由」とは何ともない所にあるものではなく、様々な困難や束縛の中からこそ見出されるものだと思います。

 

―井上さんは何故、劇団四季に入ろうと思われたのですか。
井上 小学生の頃に、劇団四季がやっているとは知らずに観たファミリーミュージカルが、ずっと心に残っていました。ちょっと不思議な話なのですが、高校生の時、福岡で「キャッツ」を観た時、「シラバブをやりたい」ではなく、「私はシラバブをやるんだな」という直感めいたものを感じたんです。

 

―オーディションは大学生時代に受けたのですか。
井上 芸大時代では音楽だけでなく美術など様々な芸術に携わる友達たちと関わりながら「自分というものを表現できるものは何だろう?」と考えていました。それまでは声だけで表現していましたが、「もっと自分の体のすべてを使い表現したい」と思い始めました。オペラも大好きですが、私はジャンル問わず音楽のすべてが大好きです。芸大時代のある時、四季の「クレイジー・フォー・ユー」を観に言ったんです。隣の席のサラリーマン風の男性が一人で観劇されていて、とても素直に楽しんでいらっしゃる姿を見た時「老若男女問わず素直に楽しめる舞台をやりたい。私は四季に入ろう!」と決めました。

 

―実際に入団してどうでしたか?
井上 観る天国、演る地獄(笑)。でも、私は舞台が大好きですから、どんなことがあっても頑張れます。「今日は100%の最高の舞台ができた!」と思ったら、辞めるかもしれませんけど(笑)。きっと一生ないのではないかと思います。

 

―今までで一番好きな役は?
井上 よくインタビューで聞かれるのですが、いつも「今やっている役が一番好き」なんですよ。どの役も稽古中には「私にこの役ができるのか、本当に開幕できるの?」という崖っぷちに立たされます。ところが演じていくうちに、その作品が大好きになり「今演じている役を何度でもやりたい」と思うようになるんです。毎回自分の100%の演技を目指して演じますがなかなか達成できませんね。何年か経って再び演じると、自分がいろんな人生経験を経て成長したぶん、人間の深みが増し、演じる役も成長していくのではないでしょうか。

 

プロレス好きの体育会系

 

―体力勝負の舞台ですが、日頃の健康法は?
井上 私に今一番合っているのは体を鍛えること。東京ではもちろん、大阪でもトレーナーのもと筋トレしています。トレーナーの話では、私は普通の人よりも常にテンションが高いらしく(笑)、日常生活のまま舞台に入るぐらいがちょうど良いそうです。元気があり余っているのかな(笑)、もっと鍛えて体を疲れさせると、逆にゆっくり休めるんです。

 

―体育会系ですね。だからプロレスも好きなんですね。
井上 元々は、アンディ・フグが大好きでK1ファンでした。ある時知り合いに誘われてプロレスを観に行き、それ以来プロレスも好きになりました。その時、レスラーの選手たちも「プロレスを通して、皆に元気と生きる勇気を届けたい!」と思っていることを知り、「舞台をやっている私たちと同じ思いなんだ!」と共感したんです。現在、私の友達レスラーはプロレスを通して「いじめ撲滅」を訴えていて、そういう面でも私たち四季と通じるものがあります。レスラーの友人たちもよく舞台を観に来てくれて仲良くさせていただいているんですよ。

 

―神戸はどうですか?
井上 大好きな街です。先日も行ったんですよ。でもその時は時間がなくて神戸牛は食べられなかったので、美味しそうなソーセージを見つけて買って帰りました。美味しいパンやお菓子もたくさんありますよね。私の祖母は長崎に住んでいますが、どちらも異国情緒に溢れ雰囲気が似ているので神戸にいると、とても懐かしい感じがします。

 

―さて、ロングランのアイーダですが、お客さんにはどういうところを観て欲しいですか。
井上 アイーダに限らず、ラダメス、アムネリス…、皆が様々な苦難や葛藤、そして死に直面しつつ自分の意思で自分の人生を歩んでいきます。アイーダを通してこの作品の持つパワーを存分に感じていただきたいです。
 エジプトの国花は蓮の花だそうです。仏教の教えの中に「一蓮托生」という仏語があります。「物事の善悪に関わらず、行動や運命をともにすること。死後は極楽の同じ蓮の花の上に生まれる。」ナイル川の辺りに咲く蓮の花。アイーダとラダメスはきっと、同じ蓮の花の上にいます。「アイーダ」のオペラとミュージカルの違いは「ミュージカルの『アイーダ』はハッピーエンドだ。」ということ。「アイーダ」の最初と最後、メトロポリタン博物館のシーンでの〝思いっきりハッピーな笑顔〟にも注目してください。

 

―ありがとうございました。

 

古代エジプトを舞台に愛を描く「アイーダ」ⒸDisney 撮影者:中島仁實

古代エジプトを舞台に愛を描く「アイーダ」ⒸDisney 撮影者:中島仁實

 

「アイーダ」舞台よりⒸDisney 撮影者:中島仁實

「アイーダ」舞台よりⒸDisney 撮影者:中島仁實

 

四季劇場にて

四季劇場にて

 

井上智恵

東京芸術大学声楽科卒業後、1994年に劇団四季付属研究所(32期)入所、翌年1月からの『キャッツ』では四季のソプラノの登竜門といわれるシラバブ役でデビュー。同年『オペラ座の怪人』東京公演ではヒロイン、クリスティーヌ役に大抜擢された。2005年1月には『エビータ』タイトルロールとして出演、同年8月からは『アイーダ』アイーダ役としても出演。2010年4月『サウンド・オブ・ミュージック』では主人公マリア役を好演、今もっとも注目される俳優の一人である。

 

「アイーダ」大阪公演
公演期間:8月21日(日)千秋楽
場所:大阪四季劇場
料金:S席9,800円/A席8,000円/B席6,000円/C席3,000円 (税込)
※追加公演(8月2日〜21日)の
 チケット発売日:6月19日(日)
インターネット予約:
SHIKI ONLINE TICKET
http://489444.com
電話予約:劇団四季予約センター0120-489-444
(午前10時~午後6時)


ページのトップへ

目次 2011年6月号