
絵のある風景 第2回
文・蓑豊
兵庫県立美術館 館長
オルブライト=ノックス美術館
オルブライト=ノックス美術館は、ニューヨーク州北西に位置するバッファロー市にあり、アメリカで6番目に古い美術館です。1862年12月に正式に設立され、バッファロー美術アカデミーとして出発しましたが、1900年にジョン・ジョセフ・オルブライト氏が美術館の建築費を提供することを申し出ました。オルブライト氏は実業家で、多数の企業を起こし、水力発電でニューヨーク州へ電力供給をしました。またバッファロー市初の、子どものための運動場を市に寄贈した人物でもあります。そして5年後に、エドワード・B・グリーンの設計によって、ギリシャ復古様式の建物が落成しました。
作品購入に際しては、A・コンガー・グッドイヤーが資金援助をするとともに購入基金も組織し、コレクションの充実を行いました。代表的な作品には、ダリ『偽りのイメージの透明な幻影』、エルンスト『森の時代』、ゴッホ『古い水車小屋』、セザンヌ『ジャド・ブーファンの泉水』など、そして1930年代の主な購入作品には、ブラック『マントルピースの土の静物』、シャガール『農民の生活』、マティス『音楽』などがあります。
1939年にサイマー・H・ノックスとその家族、そして支援者が「同時代美術展示購入基金」を寄付し、同館の購入基金は新たな意味を持つようになりました。それは、「同時代の美術を継続的に展示する部屋を特別に設けておく」ということと、「それらの作品は、コレクションをより良いものにするために売却ないし交換してもよい」というものでした。この結果、低価格の優れた作品が美術館に所蔵されることになりました。第二次世界大戦中の館長、アンドリュー・C・リッチーは、同館の代表作品のゴーギャン『黄色いキリスト』やドガ『ローズカロンの肖像』を購入しています。同館理事長を務めたノックス氏は、同館の最大の貢献者でした。新しいウィングを増築し、700点近くの美術品を寄贈し、同館の中興の祖と言われています。オルブライト=ノックス美術館という新たな名称がつけられたのは、アカデミー創立100周年に当たる1962年の1月1日でした。ノックス氏の理事長時代に、抽象表現主義の作品が多く収集されました。またノックス氏はドラン『樹』、マティス『夕暮れ前のノートルダム』、ニコルソン『1952年6月4日(テーブルのかたち)』、ピカビア『悲しむ人』、アンディ・ウォーホル『キャンベルスープ100缶』、ジャスパー・ジョーンズ『彩色された数字』を寄贈しました。
公園に佇む白亜の殿堂は、市民の誇りであり憩いの場になっています。収蔵作品の質の高さから、アメリカの代表的な美術館の一つに数えられています。

Paul Cézanne
《Le Bassin de Jas de Bouffan (The Pool at Jas de Bouffan)》 1878-1879年.
Collection of Albright-Knox Art Gallery, Buffalo, NY.

Paul Gauguin
《The Yellow Christ》 1889年
Collection of Albright-Knox Art Gallery, Buffalo, NY.

Vincent van Gogh
《La Maison de la Crau (The Old Mill)》
1888年.
Collection of Albright-Knox Art Gallery, Buffalo, NY.
蓑 豊 (みの ゆたか)
兵庫県立美術館 館長
1977年 米国ハーバード大学文学博士号取得
1988年 シカゴ美術館 東洋部長
1996年 大阪市立美術館 館長
2004年 金沢21世紀美術館 館長
2005年 金沢市 助役
2007年 サザビーズ北米本社 副会長
2007年 大阪市立美術館 名誉館長
2007年 金沢21世紀美術館 特任館長
2010年 兵庫県立美術館 館長