兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十二回

国民保険制度の現状・問題点と都道府県への移管

─国民健康保険の位置づけと状況について教えてください。
荒木 保健医療制度の体系は国民健康保険(国保)、協会けんぽ、健康保険組合、共済組合から成り立っていますが、国保は自営業者、年金生活者、非正規労働者などを対象としています。国保は市町村国保、国保組合から成り立っており、加入者数は約3800万人、保険者数は約千9百、医療給付費は年間で総額約11兆4100億円となっています。国保は他の保険を比較すると、加入者数こそ協会けんぽと大差ありませんが、加入者の平均年齢は約15歳も高く、加入者1人あたりの医療費も31・6万円と組合健保や共済組合の倍以上で、加入者の平均所得も低くなっています。一方で加入者の保険料負担率は約10%と高く、公費負担は給付費等の約半分の3兆5006億円にものぼっています。

─なぜそのような苦しい状況になっているのでしょうか。

荒木 国保加入者の世帯主の職業をみてみると、昭和40年代は自営業や農林水産業が約6割を占めていましたが、現在は約15%にまで減少しています。一方で年金生活者など無職者、パート労働者など非正規雇用者の割合が増加しています。所得階層でも加入者の約24%が所得なし、約27%が0円~100万円未満という低水準で、低所得者世帯の割合が次第に増加しています。さらに高齢化も進行し、現在被保険者の約1/3が65歳以上になっています。

─国保はさまざまな問題を抱えているのですね。

荒木 市町村国保の構造的な問題をまとめると、①年齢構成が高く医療費水準が高い②所得水準が低い③保険料負担が重い④保険料収納率低下⑤一般会計からの編入による決算補填・繰上充用、⑥財政基盤が不安定になるリスクの高い、小規模保険者の存在⑦市町村間の格差が挙げられます。これらの対応策として、年齢構成に関しては高齢者医療制度への移行、財政基盤に関しては財政基盤強化策の恒久化など、財政の安定性や市町村間の格差に関しては財政運営の都道府県単位化の推進などが挙げられます(表)。実際にこの5月、医療保険改革法案が成立し、平成30年度に国保の運営主体を市町村から都道府県に移管することが決まりました。

─都道府県への移管に関して問題点はありますか。

荒木 都道府県への移管は、制度の安定化や財政基盤の強化を目的におこなわれるとされていますが、さまざまな問題をはらんでいます。まず、財政の安定化に結びつくかが問題です。国保保険料の統一が地域の不公平感の解消に繋がるのかということや、国保全体の3000億円の赤字をどうするのか、医療費や保険料の市町村格差を埋めることができるのか、加入者側要因に起因する保険料負担の格差をどうするのかなどの問題もあります。また、事務における都道府県と市町村の役割分担をどうするのかなど、実務的な課題もあります。提供者側での医療提供の問題、医療圏の問題なども出てきます。さらに統合をおこなう際に賦課方式をどうするかも大きな問題で、特に国保の賦課方式では応能割における所得・資産のうち、所得に関しては年金受給者、特に遺族年金受給者が優遇されるなど、問題点が多いと思います。国保の賦課上限額の見直しなども必要なのではないでしょうか。市町村国保の都道府県単位への移管は、国保の構造的問題解決の糸口となるのか、今後の経過を注視していく必要があるでしょう。

─国保のさまざまな問題に対し、どう対処していくべきでしょうか。

荒木 収納率の低下に関しては、低所得者への財政支援のみならず、納付方法の改善や徴収員の確保なども重要です。非正規雇用者の加入については、組合健保や協会けんぽへの適応強化も必要です。都道府県単位に移管する際は、国保では応益割・応能割の変則的な負担となっていますが、賦課の対象を世帯の総収入だけに改めるべきではないでしょうか。定率補助の廃止は赤字の国保組合の解散に繋がり、そうなることで市町村国保や協会けんぽに加入することとなりますが、それが結果的に国庫補助の増加になる可能性があるので検討すべきでしょう。ほかにも市町村国保の財政悪化の阻止、保険料の地域格差解消、運営上の問題はどうするのかなど、問題は山積しています。

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荒木 邦公 先生

兵庫県医師会医政研究委員
あらき整形外科 院長


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