みんなの医療社会学 第三十回

社会保障推進改革法とその注意点

─社会保障制度改革推進法(以下:推進法)とはどのような法律ですか。
安田 民主党政権時代に制定された、社会保障の充実・安定化、財政健全化を目的とした社会保障と税の一体改革の中核をなす法律です。平成19年、自民・公明政権時代にすでに社会保障推進のため消費税を含む税制改正が必要であると法律にて制定されていましたが、平成21年9月に民主党政権が発足して保障改革検討本部が設置され、昨年2月に社会保障・税一体改革大綱という法案が閣議決定されました。ところがねじれ国会のためにこの法案の成立が困難だったので、任期中に消費税増税を決意していた野田前首相率いる民主党と自民党、公明党の間で三党合意がなされます。これにより成立した推進法は、自民党の代替法案である社会保障制度改革基本法案の影響を強く受けることになりました。

─推進法の目的について教えてください。
安田 第一条で、国の財政状況が社会保障制度に係る負担の増大により悪化していることに鑑み、安定した財源を確保しつつ受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度の確立を図るとしています。受益と負担の均衡とは、負担した分、受ける利益が大きいことを意味していますが、社会保障とは本来、社会的に弱い方を守るための利益の再分配という意味合いがあります。保険料が少ない方は少ない保障しか受けられないということになると、民間保険に近い考え方で社会保障にふさわしくありません。そもそも、社会保障では保険料とそれにより受けることのできる保障が均衡である必要はないのです。

─推進法は社会保障に対してどのようなスタンスですか。
安田 第二条では社会保障の基本的な考え方が示されており、自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくとしています。つまり、共助や公助よりも自分でなんとかするという自助が強調されており、社会保障の充実としてはやや逆行しているような印象を受けます。また今後、家族を自助に含んで議論される可能性があります。家族同士で助け合うことは当たり前なのですが、それを前提とすると保障から外れてしまう方が多くおられます。また、国は社会保障の主体となるべきで、「支援していく」という表現も疑問です。

─年金や医療、介護はどう変わりますか。
安田 年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本とし、国及び地方公共団体の負担は、社会保険料に係る国民の負担の適正化に限定すると削減が明言されています。また、公的負担の主要な財源には消費税を充当するとしています。しかし実は、消費税増税だけでは社会保障費は足りないのです。消費税が目的税化されることで、国民は現状の社会保障を選ぶか、さらに重い消費税を選ぶかの選択を迫るというシナリオが見え隠れしています。

─医療保険制度はどうなるのですか。
安田 原則として全ての国民が加入する仕組みを維持するとしています。ところが変更前の大綱では国民皆保険と皆年金を堅持すると記載されていたのにも関わらず、皆保険も消え、堅持が無くなり、原則加入に変更されています。これは例外を容認するということであり、国の方針の大転換です。私たちは皆保険制度の形骸化につながるのではないかと、この部分に大きな懸念を抱いています。さらに保険給付の対象となる療養の範囲の適正化を行うとしており、軽症診療や高額医療を保険診療から外すことを意味している可能性が高いと考えられます。

─兵庫県医師会は推進法にどのように対処していきますか。
安田 推進法はかなり厳しい内容で、医療の高度化や少子高齢化などによる厳しい財源状況に伴い、社会保障を削減していくことが明記されているといっても過言ではありません。財源の確保は重要な命題ですが、現在の皆保険制度はいくつかの問題を抱えながらも、すべての方が平等に医療を受けることができる世界的にも優秀な保険制度ですので、医師会はこの皆保険制度を守らなければならないと考えています。現在、この法律に定められた国民会議という有識者による社会保障制度改革国民会議で具体的な方針が決定されつつありますが、何が決められているのか注意深く観察し、意見を発信していきます。

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安田 和人 先生

兵庫県医師会医政研究委員会委員
やすだ内科クリニック 院長


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目次 2013年6月号