兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十三回

被用者保険制度の現状と課題

─被用者保険とは何ですか。
中村 被用者保険とは事業所で働く被用者とその被扶養者等を対象とする医療保険です。ここでいう被用者とは適用事業所で働く常用労働者で、具体的には2か月以上の雇用期間、かつ原則として当該事業所において所定労働時間・所定労働日数の3/4以上就労する者を指します。被用者保険の健康保険には、主に大企業が設立する健康保険組合、中小・零細企業の労働者とその家族が加入できるよう設立された協会けんぽ、公務員とその家族を対象とした共済組合があります。協会けんぽは平成20年に旧政府管掌健康保険を国から引き継いだ独立法人です。健保組合が解散すると当該健保組合の被保険者等は協会けんぽに加入することになり、協会けんぽは被用者保険のセーフティーネットとしての役割も果たしています。

─協会けんぽの規模はどれくらいですか。

中村 現在の加入者は約3600
万人で、国民の3.6人に1人の割合です。うち従業員2名以下の事業所が約4割、9名以下が約8割と大部分を占めます。財政規模は約9兆円ですが、高齢者医療費の拠出金の支出増などが財政基盤を圧迫しています。

─被用者保険の課題について教えてください。

中村 被用者保険の現状に対する主な課題として、①協会けんぽの財政基盤の問題、②被用者保険者間の財政力格差の問題、③高齢者医療への拠出金負担の問題があげられます(表)。①については、協会けんぽの累積赤字を解消し財政基盤の強化・安定を図るため、平成22年から3年間の特例として国庫補助率を13%から16・4%へ引き上げ、後期高齢者支援金の1/3について負担能力に応じた総報酬割を導入し、平成21年度末の累積債務を3年間かけて解消するという単年度収支均衡原則の緩和措置が講じられました。しかしこうした措置にも関わらず、医療費支出と保険料収入の格差が拡大し続けることからこれらの特例措置に加えて、保険料率を8.2%から10%まで大幅に引き上げました。また、財政支援措置をさらに2年間延長するとともに、協会けんぽの準備金を取り崩すことにより、平成25、26年度の保険料率はかろうじて10%を維持しています。

─被用者保険者間にどれくらい財政力格差があるのですか。

中村 協会けんぽと健保組合との間には大きな財政力格差があり、平成26年度の被用者1人当たり標準報酬総額では健保組合542万円に対して協会けんぽは372万円です。一方、保険料率の平均は健保組合8.9%に対し協会けんぽは10%です。所得の低い中小・零細企業の被保険者の方が大企業の被保険者よりも高い保険料負担という逆進的な状況で、社会保障とは言い難い現状です。

─健保組合間で保険料率にも差があるのでしょうか。

中村 最低4.8%~最高12・1%と3倍近い多大な格差があり、協会けんぽの保険料率の10%を超えている健保組合も123組合存在します。社会保険の重要な意義は、給付と負担の決定を自律的に行うことにあり、給付額を見積もってそれに見合った保険料率を設定することは保険者機能の最も重要な要素の一つと考えられますが、3倍もの保険料率の格差があるのは、保険者機能が十分に機能している結果と言えるのか疑問です。また、高収入でも保険料率が低い優遇された組合も少なからず存在するのも問題です。一方で現在検討されている後期高齢者支援金の全面総報酬割は、この保険料負担の格差を平準化するものとして期待されます。各健保組合の1人当たりの報酬額と保険料率の関係をみても、報酬額が低く保険料率の高い財政運用の厳しい健保組合は、総報酬割導入により35%、487組合において負担減が見込まれています。

─短時間労働者へのセーフティーネットはどうなりますか。

中村 要件を満たさない非正規労働者に被用者保険を適用する施策が、平成28年10月以降に検討され、約25万人に対して適用拡大が見込まれています。しかし、対象外となる短時間労働者は全体で約400万人と推定され、自らが主たる生計維持者となっているパートタイム労働者は全体の約3割に達しています。これらの者も被用者としての保障の体系に組み入れていくべきでしょう。

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中村 陽子 先生

兵庫県医師会医政研究委員
乗金耳鼻咽喉科医院 院長


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