[海船港(ウミ フネ ミナト)] グリーンランドは緑の大地に?グリーンランド探訪①

文・写真 上川庄二郎

【あなたが世界中を旅し尽したというなら、じゃあ、最後はグリーンランドです】

こんな言葉が、古い旅人の諺にあるという、不思議で魅力的な世界最大の島・グリーンランド。
2006年1月11日、神戸港からラストクルーズに出て、再び神戸に戻ることなくドイツの船会社に売却された《飛鳥》が、《アマデア》として再デビューした。その処女航海先がグリーンランドだという。
この話を聞いただけで、《飛鳥》がどんな船に変身したのか、はたまた未知の国・グリーンランドとは如何なる国なのか、興味は尽きない。
また悪い虫が起きてきて、無性に行ってみたくなるではないか。北極も南極も既に訪ねているお前が、何故グリーンランドに行かないんだ、と催促されているような気になってきた。「よしっ! 行かずばなるまい」と家内を口説き行くと決めた。
2006年8月11日、行きはフランクフルトからチャーター便でグリーンランドのカンゲルルススアークまで飛ぶ。到着は真夜中の0時55分。ここからバスでセレン・ストレーム・フィヨルドの最奥部に送られ、そこから迎えのテンダーボートに乗り、久し振りに再会する《飛鳥》。その《飛鳥》改め《アマデア》に乗船したのは明け方の4時10分。胸の高まるのを抑えることができない。まさに徹夜の強行軍。日本からの時差は11時間。時差ぼけなのか何だか身体がだるい。早くキャビンに入りたい。一休みしてから船内探検に出掛けることにしよう。
ところが、船内探検もできないうちに、この最奥部から150㎞、5時間のセレン・ストレーム・フィヨルド・クルーズが始まった。その壮大な景観に圧倒され、眠いなんて言っておれない。いよいよグリーンランド探訪のクルーズが始まる。

【グリーンランドってどんなとこ?】

グリーンランドといっても余り詳しく知られていない。まずはその概要から紹介しよう。
位置・面積・気候等― 位置としては、アメリカ大陸北東部にある世界最大の島。面積は、217万㎢、日本の凡そ6倍。北は北極海、東はグリーンランド海、西はカナダ東北部、南は大西洋と向き合っている。そして、その面積の90%が北極圏内にある典型的な極地気候の島。冬の最低気温は、マイナス60℃を下回ることもある。
島の85%は氷に覆われていて、最も厚いところで3000m、平均で1500mもあるという。
自治政府― この大きな島を、1605年にデンマークが領有宣言し植民地とした。1953年に正式にデンマーク領となり、1979年にグリーンランドは自治政府となった。警察・司法、外交、防衛は本国の権限。それ以外は自治政府の役割。デンマーク国会にも議員を送り込んでいる。
住民― 人口は6万人弱。そのうちグリーンランダー(イヌイット人とデンマーク人の混血)が3/4、白人移住者が1/6、純粋のイヌイット人はグリーンランド北端部にごく僅かのみ。総人口の80%が都市部に住んでいる。
教育・文化・宗教等― 子どもたちは、10年制の学校教育を受けており、母国語のグリーンランド語の他デンマーク語、英語も習っている。高校は三つの町にあるが遠隔のため寮生活となる。首都ヌークには大学もあるが、ほとんどが本国に依存している。北欧の国々と同じく学力のあるものはデンマークの大学に進むが学費は無料。競争試験ではないから日本のような受験競争はない。
第二次大戦中アメリカの軍事基地が建設され、その結果、1950年以降、西洋的な現代文化・文明が、急速にグリーンランド全土に普及し、古いイヌイットの文化はほとんど消滅したに近い。
テレビ、ラジオも全土に普及しており、ラジオはグリーンランド語で放送、テレビはデンマーク語で放映されている。新聞は全国紙2紙で、グリーンランド語とデンマーク語を併記している。
世界の植民地で行われてきたと同じように、ここでも強圧的にキリスト教が導入されて300年。今では99%がルター派のクリスチャンである。イヌイットの信仰していたシャーマニズムが消滅して久しい。と同時に、イヌイット独自の精神文化も失われた。
生活― 鯨やアザラシを主とした伝統的な自給自足の食生活にも、ここ数10年の間に急速に西欧化が進んだ。デンマークの経済支援によってほとんどすべてのものが輸入され、スーパーマーケットに並んでいる。焼きたてのパンや菓子類も買うことができる。
経済・産業― 1950年頃までのグリーンランドは、自給自足経済で生活水準も非常に低かった。第二次大戦後、社会・経済面で近代化が進んだが、依然としてグリーンランダーと白人移住者との間には従事する職業や所得に格差があり、社会問題化しつつある。
一方、1930年頃までは、大部分のグリーンランダーは狩猟で生活していた。ところが、1950年以降は、建設事業に従事するグリーンランダーの人口が急増した。その後、建設工事の減少とともに、近代的な福祉国家を目指すサービス関係が成長してきた。しかし、グリーンランダーは専門的な教育を十分受けていないため、これらの職業に従事するのはほとんどがデンマーク人である。グリーンランダーには仕事は回ってこない。
漁業― グリーンランドは、沿岸700万㎢を超える漁業権水域を持っており、自治政府の最重要産業になっている。特にエビ漁の約80%は日本向けということである。この漁業権をEU諸国に売却して収入を得ている他、自治政府直轄の漁労船を持ち、水産加工工場等も経営している。
交通― 世界最大の島に61の集落が点在し、6万人余りが住む超過疎のため、交通・流通には大きな問題を抱えている。国際便としては、デンマーク、カナダ、アイスランドに定期便が就航しているが、国内には、高速道路もなく鉄道もない。そのため遠距離はすべて航空機か船便になる。
都市部では、自動車が普及していて日本の中古車も大活躍しているが、冬場は今も犬橇が交通手段として欠かせない。
観光― 初めの書き出しにもあるように、手付かずの壮大で美しい自然を抱えるグリーンランドは、観光投資と観光客受け入れ態勢に力を入れている。最近は大型のクルーズ船の来航が増えているという。
保健・社会福祉― 1950年代に、デンマーク並みの福祉サービスが実施され、グリーンランダーの平均寿命は2倍になったという。医療についてもデンマークの病院で入院治療を受けても医療費の負担はない。まさに福祉国家である。
デンマークとグリーンランドの複雑な関係― 人口1千万人にも満たない小国・デンマークが、どうしてこのような広大な島を領有しグリーンランダーたちに自国並みの福祉サービスを提供できる(している)のか。それは、一言で言えば、巨大な氷床の下に眠る石油など地下資源の魅力である。現状では採算に乗らないが、何れ可能になると期待している。最近は、これらの資源を巡って両者の対立が見られるようになってきたということである。デンマーク政府としては、ますますグリーンランドの懐柔策を考え直さねばならなくなってきたといえよう。

セレン・ストレーム・フィヨルドの中でも最高のビューポイントを航く

セレン・ストレーム・フィヨルドの中でも最高のビューポイントを航く

ラストクルーズで神戸港を出港してゆく≪飛鳥≫を、ハーバーランドから見送る

ラストクルーズで神戸港を出港してゆく≪飛鳥≫を、ハーバーランドから見送る

セレン・ストレーム・フィヨルド最奥部で私たちを待ち受けていた≪アマデア≫

セレン・ストレーム・フィヨルド最奥部で私たちを待ち受けていた≪アマデア≫

20110408503

町を闊歩する首都・ヌーク大学の学生たち

町を闊歩する首都・ヌーク大学の学生たち

携帯電話の普及率も高い

携帯電話の普及率も高い

ある町の小公園でルター派の布教活動を行ったポール・エゲデの胸像に出会う。グリーンランダーたちは、ほんとに彼を敬っているのだろうか

ある町の小公園でルター派の布教活動を行ったポール・エゲデの胸像に出会う。グリーンランダーたちは、ほんとに彼を敬っているのだろうか

自治政府の旗は赤白二色。上半分はMidnight Sun(白夜)下半分はPolar Night(極夜)を意味する。どこか日の丸を思わせる

自治政府の旗は赤白二色。上半分はMidnight Sun(白夜)下半分はPolar Night(極夜)を意味する。どこか日の丸を思わせる

仕事もなく公園のベンチに腰掛けて時間をつぶす

仕事もなく公園のベンチに腰掛けて時間をつぶす

アザラシ肉市場で働くグリーンランダー

アザラシ肉市場で働くグリーンランダー

スーパーマーケットの品揃えには、日本も顔負け?

スーパーマーケットの品揃えには、日本も顔負け?

スーパーで出会った少女たち。お昼のパンを買いに

スーパーで出会った少女たち。お昼のパンを買いに

夏場には仕事のないエスキモー犬も大事にしている

夏場には仕事のないエスキモー犬も大事にしている

下船して島に上陸するや、グリーンランダーの子どもたちから素朴な歓迎を受ける

下船して島に上陸するや、グリーンランダーの子どもたちから素朴な歓迎を受ける

かみかわ しょうじろう

1935年生まれ。
神戸大学卒。神戸市に入り、消防局長を最後に定年退職。その後、関西学院大学、大阪産業大学非常勤講師を経て、現在、フリーライター。


ページのトップへ

目次 2011年4月号