「盤上のアルファ」第5回小説現代長編 新人賞受賞

誕生!フレッシュ作家

 

塩田 武士さん
神戸新聞社 文化生活部

 

―受賞おめでとうございます。執筆には時間をかけましたか。
塩田 僕は12年間、新人賞に落選し続け、今回はどうしても取らなくては!という思いで、まず決意表明を書き、そこから約1年がかりで執筆しました。

―選考委員満場一致の受賞でしたが、授賞式で印象に残った言葉は?
塩田 お会いするだけで緊張した伊集院静さんからは「良かったよ。尼崎出身だって。うまいふぐ料理屋があるね」と。僕の地元近くの話題になりすっかり圧倒されてしまいました。大好きな角田光代さんには「あなたは2、3年以内に賞レースに出てくる」と言っていただき励みになりました。選評では厳しかった花村萬月さんから「認めてるんだぜ。物語の視点で気に食わない所があるけど、突き抜ければいいのだ」とアドバイスいただけたのはうれしかったです。

―将棋を題材に選んだのは何故?
塩田 新聞社で担当になるまで、将棋の駒を置く音や様式美には惹かれるものの、ルールを知っている程度で、その後、勉強してのめり込んでいったという感じです。ある日、急ぎ各社に原稿を送らなくてはならないのに、一時的に送信できないという出来事があり、「これは小説になる!」と閃きました。このドタバタを新聞記者の視点で書いたらおもしろいんじゃないかと。

―将棋を知ってる人、知らない人どちらにも満足してもらうために苦労したのでは?
塩田 決意表明の最大のテーマは「将棋の魅力を伝える」ということでしたので、独りよがりになってはいけないと肝に銘じていました。 
 そこで、重きを置く主人公、真田信繁が第一章ではなく第二章で登場するという異例の構成にしました。将棋に全く興味がない、むしろ憎んでいるくらいの新聞記者・秋葉隼介の視点で読者を将棋の世界に引っ張っていく。続いて、真田の迫力ある描写に入り、2人が出会うという構成です。

―秋葉隼介はご自身ということですか。
塩田 僕自身を秋葉と真田に分割して投影しています。「新聞記事は読みもの」という僕の持論を投影して、秋葉を社会部記者から文化部へ異動させています。一方、新人賞に落ち続けて持つ不安や自己嫌悪を真田に投影し「絶対に賞を取る」という気持ちを、将棋を題材に真田の「絶対に負けられない」という思いに重ねています。

―どんどん引きこまれる物語ですが、娯楽か文学、どちらを目指しているのですか。
塩田 自分の歴史をひも解いていくと…、小さいころからずっとお笑いが好きでネタを考えてました。劇団にも入り、そこで鏡に写った自分があまりにも「華」がないことに気付きました。漫才コンビを組んでも滑り倒したので解散。
 4年間で何か見つけようと大学受験をして、1年の時に藤原伊織さんの「テロリストのパラソル」に出会い、「これだ!」と気付き、小説を書き始めました。ちょうど社会には、ウィンドウズや携帯電話が普及して娯楽の数が限りなく増えてきました。そんな中、活字でどう対抗できるのか?娯楽性の強いものにメッセージをのせ読者をグイグイ引っ張って思いを伝える。これが僕の方法だと思っています。

―時に漫才調とも思える関西弁も特徴ですね。
塩田 会話の中の独特の間は漫才をやっていたから書けると思います。今、仕事でテレビ局など取材していると、関西の笑いの才能が東京にも流出して全国的になっていると感じます。
 小説家のいいところは全国に住めて東京でなくても書けること。僕は関西に居るから、関西を舞台に関西弁で書く。神戸で働き、実家も神戸ですから、神戸を舞台に書きたいという気持ちがあります。

―お姉さん(放送タレントの塩田えみさん)の影響も大きい?
塩田 僕が同世代と話しているとおもしろがられるのは、8歳違いの姉から常に新しい情報が入ってくるから。姉はホントにおもしろいんです。高校生の僕が漫才の台本を書いているのを見て、「表に立つより、裏で書いてるほうが向いてるんちがう?」と言われたことがありました。当時は無視していましたが、結局はそうなってきています。

―今回の受賞で人生が少し変わりそうですか。
塩田 長年同じ組織にいると感じる閉塞感の最初の雲を少し突き抜け、いろんな人と出会い、見える景色が変わりました。新聞記者だからある程度はものを知っていると思うのは大きな勘違いで、無知にも程があると気付かされました。

―今後も新聞記者と作家業の二足のわらじですか。
塩田 時間が無くてしんどいというのが本音です。いつ小説を書くんだ?資料を読むんだ?大変です。が、しばらくは二足のわらじでいこうかなと思っています。

―次回作は音楽を題材にするそうですが。
塩田 クラシックです。半年だけ担当をしていたことがあります。最初は退屈でしたが、大フィルのお話を聞く機会があり、おもしろいと思えるようになりました。CDを聞き、資料を読み勉強しました。将棋もクラシックも、限定された深い世界なのでドラマになりやすいんです。クラシックは退屈と思っている人に、僕なりのエンターテインメントでおもしろさを伝えたいと思っています。

 

「盤上のアルファ」塩田武士著 (講談社 1500円)

「盤上のアルファ」塩田武士著
(講談社 1500円)

 

後方に見えるのは神戸新聞本社ビルのあるハーバーランド

後方に見えるのは神戸新聞本社ビルのあるハーバーランド

 

塩田 武士(しおた たけし)

1979年4月21日、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。大学在学中から創作活動を行う。卒業後、神戸新聞社に入社。2010年『盤上のアルファ』で第五回小説現代長編新人賞を満場一致の完全受賞


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目次 2011年4月号