夙川店(西宮)。芦屋・西宮地域のお客様の要望によって、昭和48年(1973)に2号店として開店した

企業経営をデザインする③ 阪神間の質の高いニーズに応え続ける「いかりスーパー」

株式会社いかりスーパーマーケット 代表取締役会長 行光 博志 さん

 

スーパーマーケットの関西先駆けとして創業した「いかりスーパー」は、半世紀以上にわたり美味しいもの、安全・安心なものを求める阪神間の人たちを満足させ続けている。そこには創業者である行光会長の並々ならぬ努力と苦労があった。

 

スーパー業界では素人だけど「やってみよう!」から始まった

 

―洋菓子製造業からスーパーマーケット創業に至った経緯は。

行光 戦後、洋菓子職人の兄と一緒に神戸で小さな製造工場をやっていた頃、あちこちにスーパーが出来始めていました。私もレジスターメーカーから勉強してみないかとお話をいただき、全く経験はありませんが挑戦してみようかと思ったのがきっかけです。東京の日本初のスーパー紀ノ国屋さんへ行き、初めて店舗に足を踏み入れたとたん、驚きました!

 

―どんなところに?

 

行光 当時は小売業で素晴らしい店は百貨店だと思っていましたが、セルフサービスの小さい店ながら紀ノ国屋さんは輝いていました。関西にはまだこれほど感動するスーパーはなかったですね。「こういう店をつくりたい」と夢をもち、その原点をずっともち続け、手間暇かけて店づくりをしてきました。その志を理解してくれる従業員たちがずっと頑張ってくれています。

 

―一号店は何故、塚口に?

 

行光 塚口周辺は地元尼崎や大阪で事業をされている方が多い住宅街です。素人ですから、スーパーマーケットに適した場所というのはよくわからなかったのですが、たまたま売り物件を紹介いただいたところ、立地条件としてはとても良い場所を選ぶことができました。洋菓子店を始めたのが神戸の鯉川筋、碇山が見える場所でしたので、そこから取って「いかりスーパー」としました。

 

―オープン当時から順調に?

 

行光 その頃は消費者の買い物の中心は市場でしたから、スーパーには全く関心をもってもらえません。中央市場へ仕入れに行っても、スーパーの名刺を出すと相手にしてもらえないような状況でした。当初5年ほどは努力がなかなか実らず、苦しかったですね。

 

きちんとした品揃えと人材育成にじっくり時間をかけて

 

―その後、どんな努力が実って軌道にのったのですか。

 

行光 生鮮食品の品揃えをきちんとしたものにしようと勉強会に参加し、青果や鮮魚を扱っていた人、職人さんなど、経験者に入社してもらいました。1960年代、人手不足の時代で大変でしたが、時間をかけじっくりと取り組みました。

 

―そして12年後には二号店をオープン。

 

行光 阪神間へは東京から引っ越してこられる方が多かったのですが、輸入食品を使う食生活をご存知の方にとっては、満足できるものが買える店が関西にはなかったようです。チーズをオープンケースに入れて販売していたら、「食品と一緒になんで石鹸を売るんだ!」とお叱りを受け、ブルーチーズを販売すると保健所から呼び出され「カビの生えたものを何故売っているんだ?」と聞かれるような時代ですからね(笑)。東京で紀ノ国屋さんが「いかりという良いスーパーがある」と紹介してくださったのをきっかけに、西宮、芦屋、御影辺りのお客さまに車で塚口へ来ていただくようになりました。そして「早く阪神間へ出ていらっしゃい」と言っていただき、候補地を探し始めました。

 

―阪神間の中でも、夙川のこの場所を選んだ理由は。

 

行光 視察旅行で見たアメリカのスーパーは、四方が道に面している、少なくともL字型。「これはいいなあ」と思いました。ところが日本では条件に適う場所はなかなかありません。一面しか道に面していないと、お客さまの入り口と搬入口が同じ側になってしまいます。あちこち探すうちに、たまたまマンション建設が決まっていたこの場所を見つけました。日参し、夜中まで通い(笑)、粘り勝ちで譲っていただきました。当時はまだ周辺に畑がいっぱいで、十分な駐車場スペースを確保できました。オープン半年後に芦屋から西宮に抜ける岩園隧道が開通するという幸運もありました。

 

―そして阪神間のステータスシンボルといえる芦屋店オープンに至ったのですね。

 

行光 満を持してオープンした芦屋店はお陰さまで繁盛しました。素人から始めて12年間、いろいろ勉強させていただいことが良かったのだと思います。他所へ出店の話はあったのですが、「人材が揃ってからにしなさい」と助言をいただき、がむしゃらに勉強し、従業員教育に力を入れました。

 

―続いて、御影店オープン。

 

行光 御影店は駐車場がなく、半地下で使い勝手も悪くて不本意だったのですが、材木店の土地をお借りして2015年5月に新店をオープンできました。隣にはコーヒーショップもつくりました。ぜひ一度、のぞいてみてください。

 

―夙川、芦屋、御影と阪神間の主要な場所の店舗で、お客さまのニーズに違いはありますか。

 

行光 神戸から武庫川までの阪急沿線のお客さまは皆さん同じような感覚を持っておられ、私どもの商品に大変関心を持っていただいています。そのニーズに応えられる品揃えに努力しています。

 

時代のニーズに応えてきたオリジナル製品と輸入食品

 

―会長ご自身も開発に加わってこられたオリジナル製品が好評ですが、最近はどういったものに力を入れておられますか。

 

行光 いろいろな部門で開発していますが、自分も高齢者になり、また社会への関心も高く、健康をテーマにした商品が今は多いですね。例えば、12種類の野菜と鶏を長時間煮込んだスープ。身体に良くて、しかも美味しい。健康食品のコンテストで賞をいただきました。海外へ行き研究して出来た商品の一つが、オーストリアのザッハトルテの甘さを抑えて日本人向きにしたチョコレートケーキです。とても好評で、各店舗だけでなく空港やパーキングエリアでも扱っていただいています。自社工場内でコラボする商品も好調です。例えば、うどんと出汁と具材がコラボした「うどん鍋」はロングセラーです。

 

―ワインをはじめ輸入食品も充実していますね。

 

行光 私はスーパーマーケット協会で、JETROの輸入促進ミッションを担当していた時期があり、いろいろな国の商品を勉強することができました。今は輸入専門の会社をつくり、自分が一番食べたい、飲みたいと思うものを世界中から輸入しています。阪神間は関西の中でもワインを召し上がる方が多く住んでおられます。そこで夙川店向かいの地下にはワインセラーをつくり、温度、湿度を管理して保存条件を整えました。南米、チリ、オーストラリア、ヨーロッパ各国へ出かけ、自分で選んでワインを仕入れ、かなりの品揃えができたと自信を持っています。最近は日本で唯一ハンガリーワインを輸入しています。実際に行ってみると素晴らしいワイナリーがあり、すぐにコンテナ1杯分注文しました。お値段も手ごろでとても良いワインです。

 

―今後のいかりスーパーについて。

 

行光 長年やってきていますので古くなった店舗もあります。もっと気持ちよく、喜んでいただける店舗へと改装計画を立てています。京都の店舗を移転し、より使いやすい店へと改善を考えています。また、大型ショッピングモールへの出店も計画しています。大きく拡大は考えず、これからも分相応で考えていきたいと思っています。

 

昭和36年(1961)、いかりスーパー第1号店として塚口店(尼崎)がオープン

昭和36年(1961)、いかりスーパー第1号店として塚口店(尼崎)がオープン

 

創業当時、買い物は市場が中心であったため、受け入れてもらうには努力を要した

創業当時、買い物は市場が中心であったため、受け入れてもらうには努力を要した

 

昭和40年代の塚口店。現在も変わらないロゴマークが、すでに大きく打ち出されている

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芦屋店。食への知識と経験を生かし、昭和52年(1977)満を持して一等地・芦屋へオープン

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2015年5月に移転・リニューアルオープンした御影店(神戸市東灘区)。新たに駐車場や珈琲ショップも併設した

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オーストリアの銘菓ザッハトルテを日本人向けにアレンジした「チョコレートケーキ」

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会長室には、いつでも商品開発を行えるように、 キッチンが備えられている

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鶏と12種類の野菜をじっくり煮込んだ 「野菜だらけのスープ」

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夙川店向かいの「ラ・グルメゾン」地下のワインセラーには、 常時2000本のワインを収蔵

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ハンガリーワイン アイコン ロゼ

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ハンガリーワイン アイコン 1199キラヨック

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日本で唯一、ハンガリーワインの輸入も開始。良質で手頃な価格のワインを味わえる

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行光 博志(ゆきみつ はくし)

1936年岡山生まれ。1955年 兄が経営する神戸元町の「錨堂」にて洋菓子製造の修行を行う。㈱いかりスーパーマーケット創業、専務取締役に就任。1981年代表取締役社長に就任。社団法人日本セルフ・サービス協会(現:一般社団法人新日本スーパーマーケット協会)会長を1990年より5年間務めた。趣味は、世界中の珍しい美味しい商品開発めぐり。


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目次 2015年12月号