[海船港(ウミ フネ ミナト)] 南極では人間による収奪の歴史が 繰り返される

文・写真 上川庄二郎 題 字 奥村孝

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【今、南極はツアーブーム】

南極条約が発効し、各国の南極観測基地が多数設置され始めると、次第に南極は世界の人々の注目を集めるようになってゆく。一九六〇年代中頃から耐氷船が建造され世界各国から多くの観光客が訪れるようになった。チリなど南極に近い国からは飛行機でも簡単に行けるようになった。
今や、南極は、年一万人、ミレニアムブームで一万五千人にも及ぶ観光客が訪れる世界の観光のメッカになりつつある。それから十年たった今、さらに増えていると思われる。

流氷にペンギン一族漫歩かな  恵美子

国立極地研究所の神沼克伊教授は、「単なる物見遊山で南極に行ってもらっては困る」と警鐘を鳴らし続けておられるが、このブームは止まりそうにない。

【南極は、政争(領土権の主張)の坩堝か?】

南極条約が締結されて、条約の有効期間中は領土権の主張は行わないこととされた。しかし、私たちの訪れたアルゼンチンのエスペランサ基地では、観測隊員が家族を伴って越冬している。郵便局はもとより、ペンギンスクールと称する小学校まで開設しているし、ここで生まれた本籍が南極という子どもさえいるとあっては、定住を根拠に暗に領土権を主張していると勘ぐりたくもなる。

【南極の棚氷の崩壊が続く】

十二月ともなると、南極はそろそろ夏のシーズンを迎える。私たちは、二〇〇二年の一月末から二月初旬にかけてここを訪れた。この時期は、南半球は真夏である。
今、その南極が地球温暖化の影響を受けて? 巨大な棚氷の崩壊が進みつつあると、しきりに報道されている。和歌山県ぐらいの大きさの棚氷が割れ落ちるのが相次いでいるのだという。
現地で氷海の中をクルーズしているだけでは、そんな現象に気付く訳もない。それでも、あの巨大な卓状氷山がところ狭しとひしめき合っているのに遭遇すると、やっぱりそうなのかなあ、と思う。

【南極は北極と共に、地球環境のバロメーター】

南極は、海ばかりの北極と違い、日本の国土の37倍もあるという馬鹿でっかい大陸である。そこには地球上の真水の90%が、氷の形で蓄えられているのだという。この氷が融けると、地球の海面が70mも上昇するというのだから驚きである。もちろん、今すぐにそんなことが起こる訳ではないが、例えその氷が僅かでも融けたら、水没の危機に瀕するところは少なくない。現に、私が毎年のように訪れている南太平洋の島々では、海岸線が侵食され大きな椰子の木が根元を洗われて大きく傾いているのを目の当たりにしているだけに現実感がある。
「二十世紀は、化石燃料に依存した科学技術の進展が大量生産・大量消費を促した。何にもまして経済的発展が優先され、人類史上初めて物質的には豊かな世紀になった。しかし、地球環境が破壊されては経済的発展どころか人類の生存さえあり得ない。エコロジーとエコノミーの統合こそが今世紀の課題なのだ。脱化石燃料を目指し持続可能な社会を築いていかなければならない」、と加藤三郎氏(環境文明研究所長)は指摘する。
この紛れもない地球環境問題にどう取り組んでゆくのか、世界に投げかけられている大きな問題であることは間違いない。
私たちが南極を訪れてから既に九年の歳月が経った。その間に世界では、脱石油エネルギーという名目の下に、ブラジルではアマゾンの熱帯雨林を伐採し切り開いてトーモロコシ畑を作り、世界一のバイオエタノール生産国となっている。
COを吸収してくれる熱帯雨林を犠牲にして、トーモロコシ畑にすることが、いかにナンセンスなことかも理解せずに、脱化石燃料の旗印の下にこうした行為をとること自体に疑問を持たざるを得ない。
南極は北極と共に、まさに地球環境のバロメーターとしての指標を示しているということを、我々はもっと痛切に理解しなければならない。
南極漫歩がいささか漫歩でなくなってしまった。読者の皆さんにお詫びして完結とさせていただく。

輪になって踊ろ! ペンギンのフォークダンス

輪になって踊ろ! ペンギンのフォークダンス

椰子の大木の根が洗われて今にも倒れそう (ミクロネシア・ヤップ島にて)

椰子の大木の根が洗われて今にも倒れそう
(ミクロネシア・ヤップ島にて)

かみかわ しょうじろう

1935年生まれ。
神戸大学卒。神戸市に入り、消防局長を最後に定年退職。その後、関西学院大学、大阪産業大学非常勤講師を経て、現在、フリーライター。


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目次 2011年3月号