神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 芸術家男星編 第15回

剪画・文
とみさわかよの

ひょうご日本歌曲の会代表・兵庫県音楽活動推進会議顧問
中西 覚さん

歌曲・管弦楽曲などクラシック音楽の作曲家として、全国的にも著名な中西覚(- さとる)さん。日本和声の研究に意欲的に取り組まれる一方、ジャズの要素を取り入れた室内オペラ、兵庫県内の民話をもとにしたオペラを制作されるなど、柔軟で多彩な作曲活動をなさっています。「実はチョー奥手でして、本格的に音楽を学んだのは大学に進んでからなんです」と、音楽人生を語ってくださいました。

―音楽の道へ入られたのは、なにかきっかけが?

子供の頃は戦争で、音楽どころか勉強もできない時代でした。最初に聴いた音楽は、戦後の流行歌や進駐軍のジャズです。クラシック音楽に出会ったのは、高校生の頃ですね。音楽の先生の歌を聴いて感動し、こんなにも人の心を打つものなのか、音楽って本当にすばらしいな、と思ったのが始まりでした。それから音楽に入り込んで行ったんですが、何せ丹波の山奥に疎開していたので、ピアノも無い。でも音楽が学びたくて大阪の教育大に進み、大学で初めてピアノの稽古を始めたものですから、先生がびっくりしていました。

―「幼少期からの音楽英才教育」の逆ですね。よく音楽は子供の頃からやらないと身に付かない、と言われますが…。

確かに、絶対音感は小さい頃からやっていないと身に付かない。絶対音感のある人は、ピアノも何も無くても、正しい音がわかります。だから早期教育が奨励されるんだけど、ほとんどの音楽は相対音感で対応できる。だから僕みたいなのが音楽やってるわけで…絶対音感があるに越したことはないけど、必要不可欠というわけではないですよ。まあそれでも音楽は、絵や文学に比べれば、小さい頃から始めることにはなるのかな。

―音楽を学ばれて、最終的には演奏家ではなく作曲家になられたのは?

演奏というのは、人の作ったものを再創造する営みです。より積極的に「再創造するんだ」という意気込みで演奏されると曲も生きてくるし、そのように演奏できるのがすばらしい演奏家です。ところが僕の場合、ピアノがうまくなるほどに「自分で創りだす」ことがしたくなって、作曲の勉強を始めたんです。今じゃ考えられない遅いスタートですよね。それでもいきなり作曲で食べていこうとしたわけではなくて、卒業後は音楽の先生になりました。

―神戸山手女子高校と短大の音楽科で教鞭を取られたのが、神戸とのご縁だとか。

教員として山手女子高・短大へやって来てからは、すごく神戸が近しくなりました。昔は「神戸は音楽不毛の地」と言われていたんですよ。でも今では神戸にも西宮にもホールができて、大阪の聴衆を呼び込んでいる。兵庫県の音楽活動がさかんになるのは、とても嬉しいことです。

―そして教員時代、作曲家としての人生に大きな影響を与える出会いもあったそうですね。

 山手女子高校・短大で日本和声の考え方の基礎を作った小山清茂先生と出会い、作曲集団「たにしの会」を結成しました。先生は強い信念を持った、日本の音のかたまりのような方で、「こんな人が居たんや」と強い影響を受けましたね。

―日本和声と言うと何やら難しそうですが、「たにしの会」はどのような活動を?

簡単に言うと、西洋の和声(ドミソ・ラドミ)ではなく、日本の和声(レソラ・ミラシ)をどう動かしていくかの工夫・研究です。それも宮中の洒落た雅楽ではなく、庶民のわらべうたや民謡を、どう発展させて今に活かすかが課題。そういう泥臭い音楽を目指すから、田んぼの泥の中にいる「たにし」が会の名称なんです。この会は作品発表団体なので、継続的に作曲する契機になりました。

―これまでたくさんの生徒を育ててこられたと思いますが、音楽を志す若い人たちに、ひとことおっしゃるとすれば?

まどみちおの受け売りですが、「?」と「!」のふたつを持ち続けて欲しい。なんでだろう?どうして?という思いがあれば、よく見る、調べる、考えることにつながる。わあすごい!こんなことができるんだ!という感動が、内的必然を引き出し、やってみようという意欲につながる。創造は「?」と「!」の持ち合わせで成り立つんです。疑問と感動を失わないようにしてください。

―音楽家として遅い出発ながら、先生の作品数は膨大です。夢かなえた人生と言えますか?

まあ、それは…正直、ここまでこれるとは思ってなかった。私の若い頃は、日本で作曲家として生きていくなんて、とても考えられない時代でしたし。作曲は大変な手間と労力が掛かります。それでも「これをやりたい」という止むに止まれぬ欲求があるから、作り続けてきました。たくさん作ったというより、いつの間にかこんなに作ってたんやな、という感じですね。作曲家としての夢は一応実現できたかなと思うんだけど、やり残したこともあって、まだまだ頑張らなくちゃと思う今日この頃です。
〈2011年1月25日取材〉

オペラまるごとコンサート 「おさん茂兵衛 丹波歌暦」

■日時  3月16日(水) 18時30分開演
■場所  兵庫県立芸術文化センター(西宮市高松町)
■脚本・指揮  中西 覚  
■出演  足立さつき、畑儀文、岡田征士郎ほか、ピアノ江頭義之
■入場料  3,500円(当日4,000円)
■内容 住民自らが作り上げた創作オペラ「おさん茂兵衛丹波歌暦」。
    丹波出身の声楽家足立さつき(ソプラノ)、
    畑儀文(テノール)が、美しく切ない愛を歌い上げる。
■お問合せ先
 (財)兵庫丹波の森協会 丹波の森公苑文化振興部 
  TEL : (0795)72-5170

中西さんが脚本・指揮を手がけた創作オペラ「おさん茂兵衛丹波歌暦」より

中西さんが脚本・指揮を手がけた創作オペラ「おさん茂兵衛丹波歌暦」より

とみさわ かよの

神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員。


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目次 2011年3月号