兵庫県立淡路景観園芸学校を訪ねて 花と緑でくらしデザイン

兵庫県立大学専門職大学院 教授
緑環境景観マネジメント科 
能勢 健吉さん

 

―兵庫県立・淡路景観園芸学校が作られた背景・理由とは?
能勢 阪神淡路大震災を経験し、確認されたことを形にしたのがこの学校です。震災では「遠くの親戚よりご近所さん」という教訓がありました。花と緑は人の住みやすい環境づくり、防災面では火災の延焼を防ぐ役目があります。また、花と緑を通して隣り近所のつながりをつくることができます。そこで、街づくりの一手法として、また人への癒しの効果を目的に、一般の方、さらには専門家を育てるという大きな3つの目的で創設されました。

 

―現在はどういう構成ですか。
能勢 当初の景観園芸専門課程が兵庫県立大学専門職大学院 緑環境景観マネジメント研究科に変わり、専門家を育成しています。さらに、景観園芸学校の園芸療法課程と、県民の皆さんに広く開放する生涯学習コースがあります。いろいろなプログラムを開講して花と緑を使ってネットワークを広げたり、住環境を良くするために役立ててもらおうというものです。

 

―「景観園芸」とは新しい言葉で日本でも珍しいと思いますが。
能勢 景観は人間が見る景色や風景、園芸は植物を育てること。2つを合わせた新しい造語で、花や緑を用いて暮らしやすい街を造ろうというものです。人間の活動として園芸や造園があり、結果として緑がある環境がつくられ、人が住む町には花や緑のある景観がつくられます。

 

―園芸療法も最近聞かれる言葉ですね。
能勢 療法の一手段としてQOL(生活の質)を改善します。身体にハンディがあったり、精神的なストレスを受けている場合などは医療の専門スタッフと一緒に、園芸という手法を用いて療法を行います。動物や音楽を用いた療法と同じですが、人によって個性に合う手法があります。園芸に興味があり、緑の環境で癒される人には向いています。

 

―どういう効果があるのでしょうか。
能勢 例えば、朝、植物に水をやるだけでも生活のリズムが戻ってきます。また、作業療法の観点からいえば、園芸には動作も伴います。植物を手入れしてより良く成長させ、静かな命の営みを感じ、そこを基本にさまざまな効果が生まれ、療法が進展すればいいと私としては思っています。

 

―先生のご専門の緑環境景観マネジメントですが、どんな生徒さんがいるのですか?
能勢 専門職大学院ですから、緑や環境に興味があり、それを仕事にしたいという希望を持った学生です。「マネジメント」と付いることでも分かるように、花や緑をマネジメントして人の暮らしをより良いものにしていこうという仕事です。学生の出身学部はいろいろですから、この大学院で学んだ緑や環境の専門知識をプラスアルファして積極的に活用できる人材を育てようというのが私たちの目的です。

 

―卒業後は、どういう進路に進むのですか。
能勢 造園園芸関係で実際に植物を扱ったり、コンサルタント、環境問題などの行政手法も勉強しますので公務員関係ですね。

 

―学校は興味があれば誰にでも門戸を開いているのですか。
能勢 大学院は制限がありますが、生涯学習コースは年齢問わず誰でも入れます。ただし、技術を用いて暮らしやすい街づくりをしようという目的ですから、園芸や造園の技術のみを習得したいという場合は一般の専門学校や園芸講習会で学ぶほうが短期ですみます。

 

―今、園芸ブームですが、興味の対象は時代とともに変わってきていますか。
能勢 関西では大阪花博の影響が大きく、その後ガーデニングがブームになりました。また花博のボランティアの人たちが現在のボランティア隆盛の原点という経緯があります。10年ほど前には、イングリッシュガーデンがブームになっていました。1970年代のイギリスで、昔の名園が修復され始め、1990年代に名園の植物が育ってきました。それを日本人も目にし、話題となりました。ところがこれを真似をしてみたものの、イギリスで育ちやすい植物が必ずしも日本で育つとは限らないと分かってきて、ちょっと下火状態です。
 今、園芸店などで人気なのは食料になる植物です。今はミニトマトやレタスなど育てやすい野菜が育てられていますが、日本の日当たりの悪い庭でも育ちやすい小果樹類、ラズベリーやブルーベリー、古くから育てられているユスラウメなどもあります。マンションのベランダや庭で、食べられるものが採れるというのは楽しいですから今後まだまだ盛んになると思います。

 

―昔の日本の庭には柿の木やイチジクの木や枇杷などが当たり前のようにありましたね。
能勢 昔のような広い庭を今は望めませんから、狭くて日陰でも育つものに変わってきています。例えばツル性のものや耐陰性のある植物などです。

 

―「盆栽」も伝統がありますが。
能勢 盆栽は日当たりが良い場所に盆栽棚が置けるような庭が必要ですから、今の都市型の庭には不向きですね。けれど盆栽の技術レベルはかなり高いものがあります。薄い植木鉢で育てる技術を屋上で使うなど、決して高齢者の趣味で終わらせずに、今のライフスタイルに合わせて活用できる可能性はまだまだあります。

 

―草花に関してはいかがですか。
能勢 季節感のある草花を楽しみたいという傾向にあるようです。町の中の花壇は都市施設ですから一年中きれいでなくてはいけません。駅前、十字路、交通の要所などで都市のサインとして花を使います。このような花壇用草花を「べッディングプランツ」といいます。
 しかし、プライベートで育て観賞する家の花壇では季節感を取り入れてガーデニングするとおもしろい花壇ができます。

 

―家の庭づくりのポイントは?
能勢 年中きれいな花「べッディングプランツ」は、芝生の中に花の植え床を作って植えます。これらは育てやすく高さも揃えて品種改良されています。本来、緑の芝生の中に植えるようにできていますから、家庭でべッディングプランツばかり植えたのでは、ゴテゴテした庭になってしまいます。まず緑をつくり、ポイントに草花を配する。つまり緑を背景にした花づくりですね。また、1年間通じたガーデニングプラン「花暦」を作るのも季節感のある庭づくりのポイントです。

 

―マンションのベランダでのポイントは?
能勢 ベランダは生活空間の一部ですから、足の踏み場もないような状態になったのでは困ります。ポイントは「植物を育てたい、コレクションしたい」とう欲望はちょっと控えて、緑のある暮らしの場、バランスを見て植物を配置することです。ベランダでもバランスの取れたガーデンづくりに成功している例はありますよ。マニアックでかなり珍しい例ですが(笑)。

 

―そろそろ春。今から間に合う花づくりはありますか。
能勢 ロベリアは3月になれば外の花壇にも植えられて、4月に花を楽しめます。ちょっと乾燥には弱いですがミムラスも同じです。鉢植えのマーガレットも出始めますし、ワックスフラワーも冬から早春にかけての花です。ゼラニウムは5月の花ですが、霜さえ当たらなければ戸外で冬を越せます。新しい品種は4~5年たっても30センチ程度にしかならず、育てやすくて、花を毎年つけます。チューリップのつぼみが膨らみかけたものがビニールポット植えで出回りますから、コンテナの寄せ植えに使えます。

 

―淡路と言えばカーネーションですが。
能勢 カーネーションには切り花用と路地植え用の2タイプあります。淡路で栽培しているのは切り花用です。路地植え用は小型で地味なものが多いです。

 

―花は、切り花と地植え、2つの用途に分かれているのですね。
能勢 欧米で2極化されて品種改良した花はそうです。でも庭に咲いた花を一輪飾るというような季節感の楽しみ方には区別はないでしょう。

 

―淡路景観園芸学校のキャンパスは自由に見学できますか。
能勢 いつでも自由に来てください。4~5月頃が一番見頃だと思いますよ。

 

―今日はこの辺りでは珍しく大雪の後でまだ雪が残っていました。
また春爛漫の頃に寄せていただきたいと思います。

 

まだ少し雪が残る兵庫県立淡路景観園芸学校

まだ少し雪が残る兵庫県立淡路景観園芸学校

 

春の訪れを感じさせるラナキュラスの寄せ植え

春の訪れを感じさせるラナキュラスの寄せ植え

 

園内は展示見本園になっている。写真は針葉樹の森。

園内は展示見本園になっている。写真は針葉樹の森。

 

左は姫りんごの木、右は梨の木

左は姫りんごの木、右は梨の木


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目次 2011年3月号