みんなの医療社会学 第三回

救急医療電話相談事業の実現に向けて

―救急医療電話相談事業とはどのようなものですか。
石井 住民が救急車を呼ぶべきかどうか迷った時などに医療相談や医療機関の案内などの対応をおこなう電話相談窓口のことで、救急搬送が本来の目的である119番にかわって緊急を要さない比較的軽症な病気やけがに関する医療相談の受け皿となるものです。単なる電話相談窓口ではなく医学的判断が必須であり、トリアージ(救急患者さんの振り分けなど)として機能することも求められます。

―なぜそれが必要なのですか。
石井 昨今、救急医療の現場は崩壊の危機にあります。平成21年度の統計によれば、兵庫県は重症患者を速やかに搬送できない事案が全国ワースト4位で、ワースト上位の他府県が早急な対策を講じ減少傾向であるのに対し、兵庫県は唯一増加傾向にあります。その背景には救急専門の医師・看護師の不足、神戸圏域や阪神南圏域では特に二次救急医療機関の疲弊などといった根本的な問題もあります。それに加えて、人間関係の希薄化や医療情報の氾濫などが市民の不安を招き、その結果不急不要の救急出動や軽症患者を本来、重症患者さんの治療にあたるべき二次・三次救急医療機関へと向かわせている現状がそこに追い打ちをかけているのです。さらに、高齢化により救急搬送は今後年率0.6%の増加が予想され、新たな救急需要対策も必須です。そこで、市民の不安を払拭し、軽症患者を適切な医療機関に振り分けることが、救急医療崩壊の危機に対する一つの対策として求められているのです。

―実際におこなわれている事例はありますか。
石井 東京では平成19年度より#7119番の救急相談センターを運用しています。これは東京消防庁の中に窓口を置くもので、元救急隊の相談員、看護師、医師という態勢で運営されています。トリアージは看護師が対応し、症状を尋ねながら救急医療相談プロトコール(手順マニュアル)にしたがってコンピューターで処理し、症状により救急車派遣、医療機関案内、自宅療養などの振り分けをおこなっています。また、大阪市でも平成21年10月より救急安心センターの運用をおこなっています。もとは総務省消防庁のモデル事業として大阪市が受託したものですが、平成22年4月からは大阪市をはじめ堺市・東大阪市・枚方市など近隣16市へ拡大、「救急安心センターおおさか」と名称を変更して共同で運営をおこなうようになり、さらに同年12月からは大阪府内全域を対象とし、総務省消防庁のモデル事業として再び実施しています。東京や大阪と手法は違いますが、愛知県や奈良県でも導入され、いずれも効果があらわれています。

―導入するとどのようなメリットがありますか。
石井 まず、医療専門職による対応が可能となり、見過ごしがちな疾患などの早期発見が可能となります。大阪では実際に相談を受けた症状からくも膜下出血や心筋梗塞などを疑い、救急車の出動で救命につながった事例が報告されています。さらに適切な救急医療機関への振り分けにより、傷病者の搬送や受け入れがより実効的に達成できるようになります。また、実務はプロトコールに沿っておこなわれるためスタッフは専任で従事する必要がなく、これまで救急医療に携わったことのない医師や看護師でも参加が可能ですので、医療従事者の救急医療に対する意識の啓発や人材育成にも貢献します。もちろん、医療相談業務の一本化が可能となり効率化がはかれるばかりか、より質の高い住民サービスを常時提供できるようになります。消防と医療の連携推進により実用的な態勢を構築できる点も大きなメリットです。

―でも、兵庫県でなぜ実現しないのですか。
石井 兵庫県医師会としては関係機関に提案書を提出したり、フォーラムを立ち上げたりと救急医療電話相談事業「兵庫県救急安心センター」の設立に向けて積極的に活動してきました。しかし、平成23年1月から試行予定であった阪神地区を主体にしたモデル事業は、兵庫県との調整がつかず実現しておりません。その理由として財源の確保のほか、消防事業は県ではなく各市町レベルの管轄であることや、仮に全県で実施するにしても兵庫県は広いので難しいということが挙げられます。また、すでに兵庫県下では#8000番の小児救急医療電話相談、神戸市のこうべ救急医療ネット、神戸市医師会の休日急病電話相談センターなどが設置されているのも理由のひとつです。しかし、逆に言えばそれぞれ使われている財源があるわけです。兵庫県医師会の試算では事業にかかる費用の概算は初年度で2.9億円、2年目以降は2億円ですので、既存の事業をまとめれば決して不可能な金額ではありません。事業実現には各個別の相談窓口の統合化、財源確保、人材確保が課題となっていますが、兵庫県医師会としては県民のみなさまへのPRとともに、今後も地道に県や市町など関係機関に働きかけ、実現に向け取り組んでいきます。

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石井 曻 先生(いしい のぼる)

兵庫県医師会理事
神戸大学大学院医学研究科教授


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目次 2011年3月号