インフォーマル・ネットワークが魅力

三木 孝 さん 
神戸市企画調整局 参与

 

―医療産業都市構想から13年目になりましたが、順調に進んでいますか。
三木 構想スタート当時は「バイオメディカルクラスター」という概念すらなく、研究開発や病院が企業集積に結びつくという発想もなかった時代です。医療機器の工場が神戸に来てくれたらいいなという発想でしたから、本格的な研究所が神戸に立地するとは考えてもいませんでした。しかし、創薬企業も進出し、思った以上に良い方向に進んでいると考えています。

 

―理化学研究所(理研)の次世代スーパーコンピュータの始動にともなって、大学や研究機関も進出してきますね。
三木 スパコンの隣り、神戸市の計算科学センタービル内に兵庫県立大学大学院がやってきて、県内では手薄だった計算科学分野の人材育成を始めます。東隣りには神戸大学の研究拠点もでき、様々な分野でスパコンを利用する研究者が集結すると思います。早稲田大学からも健康科学の研究者がやってくると聞いていますし、理研では、生命科学とシミュレーションをテーマに研究所を造る予定ですので、今後も大学が進出してくると思っています。

 

―スパコンはどのように活用されるのですか。
三木 横浜の地球シミュレータが地球温暖化対策に貢献して、グリーンイノベーションのきっかけになったことは世界的に有名なエピソードです。それに加え、神戸ではやはり地震、そして宇宙などサイエンス部門での利用が第一です。次に、ものづくりへの貢献です。ナノを使っていろいろな材料を作ることは大きなメリットがあります。特に、兵庫県にはスプリング8がありますから、物質のデータは世界で一番多く取れます。データを利用して、さらに新しい物質を作り出す可能性は、神戸が世界で一番といえるでしょう。
 県内でもタイヤメーカーがスプリング8で解析した上で、シミュレーションして省燃費タイヤの製造に結び付けています。今後は大学と企業が連携して気軽にスパコンを利用していただけるような体制を、高度計算科学研究支援センターと理研が協力して作っていこうと考えています。

 

―医療産業都市構想でのスパコンの位置づけは?
三木 構想の大きな目的の一つであるライフサイエンス分野で最先端の研究をスパコンで行うことです。既に若い研究者はスパコンを利用していますので、特に遺伝子研究の分野で革新的な成果が期待されます。

 

―研究機関、病院、製薬会社、医療機器メーカーなどがトータルな研究をめざすメリットはどこにありますか。
三木 インフォーマルなネットワークによる、新しい「智の発見」が一番大きなメリットです。一つの研究でも、製薬会社の研究者、基礎研究者、臨床医などそれぞれにとらえ方が違います。幸いこのクラスターはわずか2㌔四方の範囲内で全てが収まっていますので、みんなが横に連携して、インフォーマルなコミュニケーションを取ることが可能です。一昨年から既に、月に1回ずつテーマを変えて交流会を開いています。仲介役がいますので、研究結果が臨床医まで届きやすい環境です。進出企業の期待も大きいので、それに応えていこうと考えています。

 

―先端医療を産業にすることには危惧もあるようですが。
三木 この構想を始めた13年前、製薬企業の「日本で治験の場をつくってほしい」という要望があり、当初から啓発に努めてきました。医師会の先生方はじめ、専門家から心配する声が上がるのはもっともなことだと思っています。話し合いながら、市民に情報開示を進めていくことを基本にしています。先端医療センターの倫理委員会には市民団体の代表にも加わっていただき、議論しながら先端医療を進めています。専門家、研究者、臨床医、市民などがお互いに顔の見える範囲で議論することが重要です。国での取り組みも必要ですが、実際の医療の現場である地域単位でこれができれば、日本の新しい医療が進むと思っています。

 

わずか2キロ四方の範囲内にバイオメディカルクラスターを形成する

わずか2キロ四方の範囲内にバイオメディカルクラスターを形成する

 

三木 孝(みき たかし)

 
1982年、大阪大学経済学部卒業。1982年、神戸市入庁。1998年、震災復興本部総括局復興推進部主幹(民間プロジェクト調整担当)。2005年、企画調整局参事(医療産業都市担当)。2006年、企画調整局医療産業都市構想推進室長。2008年、企画調整局企画調整部長。2010年、企画調整局参与(医療産業都市担当)


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目次 2011年2月号