連載 浮世絵ミステリー・パロディ ㉖ 吾輩ハ写楽デアル

中右 瑛

「写楽の自画像を探せ!」池田満寿夫説

写楽祭シンポジウムの二番手に登場したのは、世界的な版画家で超多忙な池田満寿夫さん。その主張はこうだ。
1984(昭和59)年7月1日にNHKテレビで池田満寿夫推理ドキュメントが放映され、ここで「歌舞伎役者・中村此蔵(- このぞう)説」を発表したいきさつと、版画家としての発想と感性でひらめいたことを述べた。
池田さんは、
「画家は必ず自画像を描く」
という自論から、
「写楽の役者絵には、きっと写楽自身が描かれているに違いない…」
の仮説にのっとり、役者を克明に調べているうちに、写楽活躍期より三十八年前の『明和伎鑑』(役者名簿)に、二代目大谷広次の俳名が《東洲》であったことを発見。その孫弟子の中村此蔵が、その俳名を画号に組み入れたのではないかと推理した。
「写楽は歌舞伎役者の中村此蔵だ!」
と力説する。
「加えて写楽の多作問題に触れ、短期間で百四十数点もの役者絵を写楽が一人で描いたわけではない。写楽は第一期の大首絵二十八図を描いた後、何らかの理由で消え去ったのではないか? その後は、写楽の代わりに出版元の蔦屋らが仕組んで、第三者の誰か? を写楽の名で描かせたのだ」
と、写楽二人説を匂わせる。
中村此蔵という役者は、まったく無名だ。経歴も不明。三代目大谷鬼次の一門であるのはたしかだ。写楽が描いた絵には「中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と、中村此蔵の船宿かな川やの権」(写真参照)が残されている。二人の役者は三枚目だ。二人の風貌は決して美形ではない。太っちょ(デブ)とガリガリに痩せた凸凹コンビ。此蔵(左)は目と鼻に特徴がある。写楽役者絵の特徴は、歌舞伎独特の“見え”を切った大きなどんぐり眼と、大きな鷲鼻だ。和田左衛門(右)も丸こい目と大きな鷲鼻。しかしながら此蔵の目は細くて小さく、鼻はかわいいだんご鼻。目、鼻、顔相はどの絵とも、此蔵だけは違っていたのだ。この目と鼻が決め手となった。
「この此蔵こそ、写楽にちがいない」
と池田さんは確信したのである。
こんなブ男のしかも人気のない道化役者のブロマイドは売れない。メリットもない。それをなぜに写楽が描いたのかが謎だ。池田さんは写楽の「自画像」だという。

その熱弁に、場内はただうっとりと聞きいったのだ。

池田氏の中村此蔵説をもっと詳しく知りたい方は、NHK取材班が刊行した、『池田満寿夫推理ドキュメント これが写楽だ』(図版参照)を読まれるがいい。
思いもよらない「写楽」ブームに便乗して、池田氏は、その後、奇想天外なミュージカルドラマ『されど写楽』の創作を始めたらしい。

東洲斎写楽「中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と 中村此蔵の船宿かな川やの権」左が中村此蔵

東洲斎写楽「中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と
中村此蔵の船宿かな川やの権」左が中村此蔵

「池田満寿夫推理ドキュメント これが写楽だ」 (NHK取材班・川竹文夫)1984年

「池田満寿夫推理ドキュメント これが写楽だ」
(NHK取材班・川竹文夫)1984年

中右瑛(なかう・えい)

抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。
1934年生まれ、神戸市在住。
行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。


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目次 2011年2月号