次世代のがん治療を担う

小久保 雅樹 さん
先端医療振興財団 放射線治療研究グループリーダー

 

―放射線治療は現在どこまで進んでいるのですか。
小久保 ここ10年で急速に進歩しました。例えば肺がんなら、胸のレントゲンで位置を確かめて放射線を当てる二次元の世界でしたが、2000年前後からCTシミュレーターが普及し始め、いろいろな角度から三次元で放射線を当てることが可能になり、より副作用が少なくなりました。しかし人間の体は動いていますから、それを計算して広範囲で放射線を当てるので正常な部分も含まれている場合もあります。そこで次の段階では、三次元の空間に時間軸も取り入れ、四次元の世界へと放射線治療が発展してきました。

 

―三菱重工業や京都大学と共同開発した「高精度放射線治療装置」はどういうものですか。
小久保 がんの位置を三次元的に確認しながら放射線を当てる画像誘導放射線治療(IGRT)装置として、2008年5月から使用してきたものです。それまでは、がんがある位置にきた時、または広範囲に放射線を当てることしかできなかったのですが、この装置は放射線が出る部分を自由自在に動かせる特徴を持っていますから、がんが動けば放射線も動かせます。そこで今年の春から、さらに四次元での治療装置として患者さんに実際に使用する予定です。

 

―特にどういうがん患者さんに有効なのですか。
小久保 基本的にはX線で見ながら追いかけますから呼吸器疾患の患者さんです。I期の肺がん、もしくは肺だけに1~2ヶ所の転移が見られる場合がターゲットです。X線では見えないお腹の中に何らかのマーカーを入れて追いかけることで、将来的には上腹部、例えば肝臓、すい臓、腎臓などのがんにも適用が可能になると思います。前立腺がんに関しても、治療期間の短縮のためにはマーカーを使う必要も出てくるかもしれません。

 

―さらに改良が進むのでしょうか。
小久保 振り子状に動くだけでなく、回りながら、又はらせん状に動きながら治療することが可能になるでしょう。がんがだんだん小さくなっていくことを計算しながら治療する方法も既に考えられています。

 

―放射線治療によって髪の毛が抜けるなどの副作用の心配がありますが…。
小久保 抗がん剤治療と混同していませんか。また、日本で多い胃がんには放射線治療が基本的に効きませんから放射線治療は亡くなる直前に行われることが多く、皆さんが誤解されているかもしれません。放射線は局所治療ですから、髪の毛が抜けたり、体がだるくなったりするなど、全身に副作用が現れることはほとんどありません。

 

―四次元の放射線治療でがんは確実に治るのでしょうか。
小久保 治るとは言えませんが、ガン細胞がその場所から消える可能性はあります。現在でも、I期の肺がんであれば放射線治療によってその場所にがんが再発しない確率は約85%ですから、それを超えることはむずかしいでしょう。追いかけながら治療することで、放射線が当たる正常な部分が少なくなるので、より副作用が少なくなることを私たちは期待しています。

 

―他にも進んだ治療法はあるのですか。
小久保 がん治療が、個々に持つ遺伝子に応じて戦略を変えるようになってきたといえます。例えば日本人の女性で肺の腺がんなら、抗がん剤ではなく分子標的薬が第一選択薬になる時代に入ってきました。遺伝子により効く薬が分かってきましたし、ある遺伝子が活性化されている場合はそれを止めれば効くということも分かってきました。がんを作っている道筋で何がキーになるかを見つけ、それぞれのキーを止めていく薬が開発されつつあります。がん治療が部位別、かつDNA別のオーダーメードの時代になってきています。

 

―それでもやはり大切なのは予防でしょうね。
小久保 一次予防はバランスの良い食事や禁煙。日本人の男性が皆、たばこを止めればがん全体が約2/3になります。二次予防が検診です。今のところ、子宮がんの細胞診検査、大腸がんの便潜血検査、乳がんのマンモグラフィーは、世界でも確実に有効性が認められています。

―先生は今後、どのような治療や研究に携わる予定ですか。
小久保 臨床医としては、中央市民病院の立ち上げに関わる予定です。先端医療センター病院と中央市民病院と一体化した放射線治療のマネジメントを行います。財団では方針に従って、医療になる前段階の研究に携わっていくことになると思います。

 

小久保 雅樹(こくぼ まさき)

 
1985年、京大理学部卒業、1991年、京大医学部卒業、京大病院放射線科助手、スイス国立ポール・シェラー研究所への留学を経て、2001年より先端医療センターに勤務。2008年より先端医療センター放射線治療科部長。日本医学放射線学会放射線治療専門医、がん治療認定医。臨床医として患者の放射線治療を行うとともに、高精度放射線治療の研究開発に取り組んでいる


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目次 2011年2月号