見える喜びに挑戦する

高橋 政代 さん
理化学研究所網膜再生医療研究チーム チームリーダー

 

―理研の網膜再生医療研究チームは20人のメンバーがいますが、それぞれの役割分担と、高橋さんの役割は?
高橋 研究員は6人おり、それぞれが分担して研究に取り組んでいます。残りはサポートにあたるテクニカルスタッフと事務スタッッフです。網膜再生の手段は15年以上前から研究しており、私はずっとプロジェクトの進行を見てきました。私の仕事は研究全体を把握し、紹介することにあります。パソコンに例えるなら、研究員がCPUで、私はディスプレイですね。

 

―iPS細胞研究所は全国で4ヵ所あるそうですが、どのような情報交換やネットワークを組んでいますか。
高橋 iPS細胞の臨床応用についての研究は全国に4拠点あります。東京大学、京都大学、慶応義塾大学、そして筑波・神戸の理化学研究所です。4拠点間で情報交換し、神戸では網膜や脳を専門に研究しているのです。

 

―京大の山中先生によるiPS細胞研究が最近の大きな話題ですが、iPS細胞の安全性、網膜再生研究分野での現状を教えてください。
高橋 iPS細胞については臨床応用を目指して研究しています。臨床応用は、神戸が最初になると言われています。細胞だけを考えるとES細胞の方が研究も進んでおり安全なんです。ただES細胞は他人の細胞を利用するので、何らかの拒絶反応が起こる可能性があるのです。免疫抑制の治療も平行して行わなければならないので、特に高齢の患者さんの場合、負担が生じてきます。網膜の場合は自分の細胞を利用するiPS細胞が治療としては、より安全だと言うことなのです。

 

―糖尿病の患者さんは眼底検査をしますが、それは眼底や網膜が一番簡単に脳の状態がわかるからでしょうか。
高橋 網膜は唯一自然な状態の血管が見える部位なのです。糖尿病は様々な症状を引き起こしますが、そもそもは血管の病気なのです。「加齢黄斑変性」と言う病気は50代以上の約1%がなると言われています。これはがんと同じくらいの確率です。今は対症薬が2種類あるのですが、治療法開発はかなり遅れています。現状で、iPS細胞から作った網膜細胞を移植する臨床応用の目処はある程度たっています。

 

―網膜再生治療に期待する患者さんへの情報公開は大切ですね。
高橋 そうですね。まず再生治療の正しい報道が大切です。網膜再生イコール視力が戻ると思われている方が多いのですが、そうは上手くはいきせん。ほとんど見えない人が視力0.05にはなるかもしれませんが、0.5の人が1.5になると思うのは期待過剰です。目を治すということは、今より視力が良くなると思っている人が多いですね。毎日の外来でもひしひしと感じています。期待はありますが、時間もかかるし、まずは第一歩からです。

 

―世界の網膜再生医療の現状、その中での日本のレベルや特徴は?
高橋 網膜再生に関して日本はかなり進んでいます。世界的に脳の研究チームは多いのですが、網膜の研究チームはそれほどないのです。iPS細胞を使っての網膜再生研究を行っているところは数カ所ありますが、実際臨床応用に近づけているのは世界でここだけです。世界ではまだiPS細胞に比べES細胞を良しとする論文が主流ですが、私たちのiPS細胞応用技術はもっと進んでいます。3年以内には臨床を成功させたいですね。

 

―今回、スパコンや大学がポートアイランドに集まりますが、期待は大きいですか。
高橋 スパコンが来ることで、生命科学にとってものすごいことが起ころうとしています。とても期待しています。生命科学と数学の融合はすでに起こりつつあります。将来、私たちのような研究と、スパコンを合わせることで、網膜ももっと解明されるでしょう。楽しみです。

 

iPS細胞研究の拠点の一つである理化学研究所神戸研究所にて

iPS細胞研究の拠点の一つである理化学研究所神戸研究所にて

 

高橋 政代(たかはし まさよ)

1986年、京都大学医学部卒業。1988年、京都大学大学院医学研究科博士課程(視覚病態学)、1995年にアメリカ・ソーク研究所の研究員として網膜の研究を続ける。2001年、京都大学病院探索医療センター助教授を経て、2006年より現職。また、先端医療センター病院眼科副部長および神戸市立医療センター中央市民病院非常勤医として、眼科患者の診察も担当。医学博士


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目次 2011年2月号