高まる期待 スパコン「京」

平尾 公彦 さん
理研・計算科学研究機構長 東大名誉教授

 

―来年のスパコン「京」の供用開始に向け、準備は順調ですか。
平尾 一昨年、事業仕分けで当プロジェクトの見直しが指摘されました。その後、日本の科学技術発展のためにスパコンは不可欠なものであり、計画通り進めるべきだという国民的コンセンサスがありました。完成時期は半年遅れたものの順調に進んでいます。完成時には800ラック以上を予定していますが、1%相当の8ラックが昨年10月に入りました。この段階で、2002年に世界最速になった初代地球シミュレーターの2倍近い能力を持っています。期待が大きなところです。

 

―完成を待たずに順次、利用を開始するのですか。
平尾 最終的には1秒間に10の16乗、つまり1京回の演算を行える10ペタフロップスを予定しています。4月頃から、完成部分から順次、みなさまに使っていただく予定です。ナノサイエンスとバイオ分野のプロジェクトが先行して進んでいますので、まず、この分野から利用されると思います。

 

―利用方法は?
平尾 800ラック全てを使いたい場合もあれば、半分、一部分だけを使いたいなど問題に応じていろいろな利用法があると思います。

 

―五つの戦略分野があるそうですが。
平尾 国では、生命科学、物質科学、地球科学、エンジニアリング、宇宙・基礎科学という5つの戦略分野を決めています。いずれもシミュレーションを使うと大きな成果を得られる分野です。すでにそれぞれの責任機関が準備を始めています。

 

―神戸ポートアイランドにある利点は?
平尾 神戸は開放的な町で、早くから世界に開けた国際都市です。サイエンスを育てようという雰囲気もあります。これからスパコンが本当の意味で活躍するのは医療や生命科学の分野だと思います。医療関係の研究所や企業が多くあるポーアイに開設することは時代の先取りです。お互いのコラボレーションを強くして、この地から発展させていきましょうと医療関係の方とお話ししています。
 16年前神戸は大きな地震に襲われました。多くの方々が犠牲になりました。戦略分野のひとつ、地球科学の研究目的は地震や津波をシミュレーションし、すこしでも被害を少なくすることです。

 

―「京」は世界一のスパコンを目指しているのですか。
平尾 もちろんそうです。世界のスパコンのトップ500を競うランキングがあります。昨年10月に4ラック、つまり全体の0.5%のみで登録したところ、世界170位でした。これは、LINPACKという連立方程式を解くスピードに限ってのことなので、順位はあまり問題ではありません。
 私たちが開発しているのは汎用機です。どの分野にも使えて、最先端の機能を発揮できる世界一パワフルなマシンの開発を目指しています。京を使ってどのような成果を上げるかが本当の勝負だと思っています。

 

―そうですね。今後、どう利用され、成果を上げるかですね。
平尾 京は、今までのコンピュータよりサイズが大きい、スピードが速いというものとは全く質の違うものです。シミュレーションだけでなく、計算科学やソフトウィエアの研究者たちが一緒になって問題を解かなければ、大きな飛躍を望めないと思っています。計算科学研究機構には計算機科学と計算科学の研究者が集まり、分野連携を進めます。約20のチームができる予定です。既に8チームが準備を始めています。これだけの人材が集まるのは世界でも初めてのことだと思います。

 

―計算科学の分野は今後、変わるのでしょうか。
平尾 計算科学のアプローチには理論と実験があります。最近、それに加えてシミュレーションが第三の方法として重要だという認識が出てきました。例えば、シミュレーションでは宇宙の始まりの再現や、100年後の地球を科学的に予測できます。スケールの大きなもの、ミクロな世界をコンピュータの中に再現していろいろな現象を解明することもできます。実験とシミュレーションは視点が違いますから、お互いが補完的に協力できればサイエンスをさらに発展させることができるでしょう。これからは計算科学者と実験科学者の協働がますます重要になります。

 

―京を利用する側の準備も進んでいますか。
平尾 京を使いたいという大学や産業界と方々との交流会などが既に始まっていますし、いろいろな問題を解決したいという期待も高まってきています。5つの戦略分野はもちろんですが、社会現象や経済活動、伝染病への対処など、様々な分野での活用も伸ばしていきたいと思っています。

 

平尾 公彦(ひらお きみひこ)

 
1974年、京都大学大学院工学研究科燃料化学専攻博士課程修了、工学博士(京都大学)。東京大学工学部工業化学科教授などをへて2008年、東京大学 理事・副学長。2009年、理化学研究所特任顧問、東京大学 名誉教授。2010年、理化学研究所計算科学研究機構機構長に就任、現在に至る


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目次 2011年2月号