みんなの医療社会学 第二回

医療に関する総合特区の危うさ

―特区とはどういうものですか。
鈴木 社会が成熟化し価値観が多様化する中で、従来の全国一律を前提とした制度では各地域の実情や時代の要請に合わないことも出てくるでしょう。するとやる気のある民間事業者や地方自治体の活動を妨げるだろうということで、平成14年度から「構造改革特区」という制度がはじめられました。これは都道府県や市町村がその地域の活性化をはかるために自発的に設定する区域で、地域の特性に応じた特定事業の実施やその促進をおこないます。

―政府の扱いはどうなっていますか。
鈴木 これまでの経済政策と違い政府からの財政支援はなく、地域の自主性を重んじて特定事業に必要な規制緩和が認定されます。平成21年の政権交代後は菅内閣の新成長戦略で「統合特区」という制度も提案されました。構造改革特区では規制の緩和は単一の規制に限られ、税制・財政・金融の支援はありませんでしたが、総合特区では複数の規制を取り外すこともできるようにし、財政的な支援も可能としています。また、区域も構造改革特区では県や市などの行政区単位でしたが、総合特区はもっと狭い地域や単独の事業所でも指定できるというものです。

―神戸市が目指す総合特区はどういう独自性があるのでしょうか。
鈴木 特区で対象にされる事業には教育、物流、国際交流、農業、都市農村交流、まちづくり、エコロジー、行政サービス、産学連携、福祉、医療などの分野が想定されていますが、これまで医療に関するものは少数でした。神戸市ではポートアイランドⅡ期地区に先端医療技術を扱う企業や医療機関などを集積させ、既存の法令を緩和する形で自由に事業展開させていくことが計画され、これを認定させるべく兵庫県と一部共同提案で特区申請をする動きがあります。この提案は「ひょうご神戸サイエンス国際特区」という名称で、区域はポートアイランドⅡ期だけでなく、播磨科学公園も含まれています。

―どのような規制緩和を目指しているのでしょうか。
鈴木 国内外を問わず広く患者を受け入れること、再生医療などにおける臨床研究・治験推進のための権限委譲などです。前者は医療ツーリズムとの関連、後者は新しい技術の安全性について、非常に問題です。また、医療に関して営利を最優先させる企業が絡むことで、利潤が一番ということになってくると危険なことが起きてくるでしょう。医療は本来、すべての病める人を救うために平等に提供されるべきなのに、経済振興のあまり効率性第一を掲げ「儲からないことは切り捨てていく」ということにつながります。神戸医療センター中央市民病院も医療特区構想のエリアに移転しますが、市民の方にとって単に遠くなるだけではなく、病院が企業から連携・協力を求められれば不採算部門や救急医療にしわ寄せがくる事態も予想され、従来通りの役割を果たせるのか不安があります。特区でプラスの成果が上がれば、当然全国へ広げようということになるでしょう。私たちの医療は健康保険で平等な恩恵に浴していますが、お金に余裕のない方は先端の医療など受けるなということが社会通念化し、ますます平等性が損なわれるようになるでしょう。

―ところで日本では規制が多く、新しい医療技術が実用化されるまで時間がかかりすぎことも問題だと思うのですが。
鈴木 それはそのとおりです。手続きが煩雑すぎることが大きな要因ですが、だからといって安全性が担保されないまま実用化していいのでしょうか。日本医師会からも改善のための提言が何度もなされています。

―このまま医療特区構想が進むと、どのようなことになるのでしょう。
鈴木 安全性を第一にしていた医療関連法が、なし崩し的に規制緩和されることで利潤追求第一の医療供給になり、場合によっては倫理的に問題のある医療行為がまかり通ることになるかもしれません。例えば医療ツーリズムで臓器移植を行えば臓器売買という事態もおきかねません。また富裕層の方の医療ばかりが向上する一方で一般市民医療が疲弊し、いま確保されている医療の平等性が保たれなくなる可能性があります。

―兵庫県医師会は「特区」へどのように関わっていくのでしょう。
鈴木 われわれは本来、医療技術の進歩を否定する立場ではありません。しかし、治療行為の本体まで営利企業の論理で推し進めていくことは避けるべきと考えています。高齢社会になって医療ニーズが増加したために、バブル時代の経済政策の失敗を医療で穴埋めすればいいじゃないかという安易な発想が、政府にも自治体にも出てきているんじゃないでしょうか。現実にはかなり無理があることで、結果は市民に跳ね返ってきます。最終的な医療のあり方は市民のみなさまの選択ですが、われわれから判断材料は提供したいと思っています。

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鈴木 克司 先生(すずき かつじ)

兵庫県医師会常任理事


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目次 2011年2月号