フロンティアサイエンスを学ぶ

杉本 直己 さん
甲南大学・教授  先端生命工学研究所・所長

 

―先端生命工学研究所「FIBER」での研究について教えてください。
杉本 キーワードは「バイオ」と「ナノ」です。従来はマイクロメートルレベルまでの世界で見ていた生命を、化学の世界が扱ってきた10億分の1メートルのナノという分子の世界から見直そうといものです。医療、健康、食物、化粧品ほか日常生活の全てを含みます。例えば、がんは腫瘍を見るのではなく、DNAやRNA、たんぱく質など分子レベルで捉えて、「何故、がんができるのか」を考えます。

 

―FIBERとフロンティアサイエンス学部「FIRST」という2つの愛称の由来は?
杉本 2004年に甲南大学の先端生命工学研究所がナノバイオサイエンスの拠点として、文科省の学術フロンティア研究領域に選ばれました。一人ひとりの研究では大きな力にはならないが、〝3本の矢〟ならすごい力になります。更にファイバー状の束になって集まればもっとすごい力になるだろうと「FIBER」と名づけました。そして、研究所での成果を教育に生かして若い研究者を育てようと、2009年にファーストクラスの教育のための学部・大学院「FIRST」ができました。

 

―甲南大学は何故、この分野に着目したのですか。
杉本 それ以前に開設したハイテクリサーチセンターで成果を上げたのがナノとバイオを結びつけたプロジェクトでした。この2分野をオーバーラップさせた実績は、世界的に見ても画期的でした。神戸市には医療産業都市構想があり、スパコンが誘致され、更に兵庫県にはSpring-8やX線自由電子レーザーがあります。先進的な領域の研究に最適な立地条件があり、これらとナノバイオを融合した分野に将来性があると考えています。

 

―研究内容が私たちの身近でどのように役立つのでしょうか。
杉本 生命現象をバイオセンサーでチェックできたり、がんをDNAレベルで早期に診断したり、いろいろな物質が人間の体や細胞、また、その細胞を作っている物質にどうのように影響しているかを解明できるようになります。「生命を化学できる」のです。また、生命体が使っているDNAやたんぱく質は優秀な機能性マテリアルですから、材料としても使えます。つまり「生命で化学する」こともできます。

 

―企業とも連携しているのですね。
杉本 液体コンピューターができたら素晴らしいとは思いませんか?DNAで作るコンピューターは溶液です。私たちは数年前に溶液の中で計算をさせることに成功し、現在は電器メーカーと共同研究を進めています。また、灘の酒造りとニューバイオテクノロジーを組み合わせて新製品を作る技術を地元酒造メーカーと開発しています。いろいろな分野と連携できるのも立地の強みです。

 

―医療との関わりは?
杉本 現在の医療分野と連携しながら、全く違う先進的なことも考えています。医学部、薬学部などという枠を開放して、将来的には「ナノバイオが担う医療」という考え方が進めばいいと思っています。

 

―若者への門戸開放も?
杉本 高校生対象のオープンキャンパスで高度な実験をしていますので興味があれば参加して、自分とマッチングすればフロンティアサイエンス学部を受験してください。中学生対象には夏休みに、実験三昧の一日「ひらめきときめきサイエンス」も開催しています。

 

―学部の特色は?
杉本 定員35名に対し教員が15名という少数精鋭教育です。学生はマイラボという自分の居場所を持っています。フロントランナー講座ではサイエンスに限らず各界の一流の方の話しを聞けますし、海外からの研究者の講演も自由に聞けます。ポーアイ内の企業へ学生が出かけて相談をしたり、アドバイスを受けることもできます。

 

―この分野で必要な才能や能力とは何でしょうか。
杉本 従来の固定観念でものを考える人には辛いでしょうね。コンピューターは固体であり、ハードがなければダメだと考えている人が多いですが、頭に浮かんだアイデアをそのままシミュレーションできる時代がもうすぐきます。サイエンスが1日、2日のスパンでどんどん変化する時代ですから、必要なのは柔軟な頭と発想の豊かさです。

 

―どういう人を育てたいですか。
杉本 課題を自分で選べる人です。与えられた100点満点の問題で高得点を取れる人はたくさんいます。しかし自分で選んだ問題が1000点満点レベルなら、たとえ3割しか解らなくても300点取ったことになります。今までとは全く違う次元の発想です。人生のトップピークが18歳という人だけにはなって欲しくないと思います。30歳になっても、40歳になってもまだ何かに向かって進む意欲を持つ人になる。私たちは、そのきっかけを作りたいと思っています。

 

杉本 直己 (すぎもと なおみ)

京都大学大学院理学研究科博士後期課程終了と同時に博士号を取得、その後米国ロチェスター大学を経て甲南大学理工学部に赴任。甲南大学ハイテクリサーチセンター所長・フロンティアサイエンス学部長ならびに研究科長を経て、現在甲南大学先端生命工学研究所長


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目次 2011年2月号