国際レベルで都市化と健康を研究する

ジェイコブ・クマレサン さん 
WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター、WKC) 所長

 

―WKC設立の経緯は?
クマレサン 保健分野での国際研究機関を神戸に誘致しようという構想は1990年代初めからありました。神戸グループ(兵庫県、神戸市、神戸商工会議所、株式会社神戸製鋼所)から財政支援をいただき、1995年にWKCが設立されました。

 

―震災の年ですね。
クマレサン 一月にジュネーブでWHO執行理事会がありました。震災直後にも関わらず、神戸グループのご代表が熱心にジュネーブで招致を訴えられました。この力は大きかったですね。当初、ポートピアホテルにオフィスを置き、1996年3月に神戸商工会議所ビル内に仮事務所を設置、1998年にIHDセンタービル完成に伴い、当オフィスを神戸製鋼所から提供いただくことになりました。

 

―WKCはどういう目的を持っていますか。
クマレサン 都市化とそれに伴う健康への影響を研究しています。100年前、都市に住む人は人口の約20%であったのが、現在は約50%、2030年には60%、2050年には70%にまで達するだろうと言われています。この現象が人々の健康に与える影響を検証し、政策決定者に伝え対策・行動を取ってもらうことにより、最終的には都市部の健康格差を是正し、全ての住民の健康な生活を守ろうというものです。

 

―都市にはどういう問題がありますか。
クマレサン 都市部に住む人々の健康を脅かすのは、第一に人口密集に起因する感染症(結核・インフルエンザなど)です。第二に生活習慣(不健康な食習慣、運動不足、喫煙、過度の飲酒など)に起因する心疾患、がん、糖尿病などの非感染症、第三として交通事故や傷害、犯罪、暴力があります。

 

―都市部での健康格差とは?
クマレサン 途上国では、多くの人がより良い生活を求めて都市部に集まりますが、インフラ整備(安全な水、良好な衛生状態)が伴わずスラムや非正規居住区が発生、格差が生まれます。日本のような発展した国では状況が異なりますが格差は生じています。結核に関して調べたところ、大阪府の感染率が高く、その中でも区によって差がありました。ホームレスが多い地域に感染者が多かったのです。

 

―具体的にどのような活動をしていますか。
クマレサン 国別・都市別の保健指標(平均寿命など)の平均値だけを見ていては、場所や社会経済条件による違いは見えてきません。世界中のどんな都市にも隠れた部分(格差)があります。データを分析して見えてくる格差の状況とその原因を検証しています。格差の原因は医療サービスの質だけでなく、衛生状態や経済状態、病院へのアクセスなどさまざまな要因が絡み合っています。研究結果を政策決定者に知らせ、自治体レベルでの対策を促す必要があります。災害に強い都市づくりについても、どの辺りに住む、どういう人たちが被害に遭いやすいかなど研究して報告しています。

 

―神戸のような発展した都市部での問題点とその対策は?
クマレサン 都市には前述のような健康への脅威があります。希望を持って都市にやってくる人たちの健康で快適な生活を守るためには、都市計画の段階から対策が必要です。例えば、自転車を利用しましょうと啓蒙しても、自転車専用道が整備されていなければ非現実的な話です。また、高齢者が安心、快適に過ごせる都市づくりに関して神戸市や兵庫県との共同研究も進めて参ります。遊歩道にひと休みできるベンチを設置するなど、小さなことから始めればいいと思っています。

 

―地域の人たちへの呼びかけはどのようにしていますか。
クマレサン 毎年数回、地域の人たち向けのフォーラムを開催しています。今年は1月の受動喫煙対策に関するフォーラムから始まり、3月4日には、社会格差とこころの健康をテーマに開催する予定です。

 

―臨床医だったクマレサンさんが何故、WHOの仕事を?
クマレサン インドで医師免許を取得し、その後アフリカで主に小児医として働いていました。遠い病院へ何日もかけて歩いて来て、その間にどんどん病状が悪化するような状況を見ても、当時は目の前に居る子どもたちを治療することしか考えられませんでした。しかし、この状況自体を改善できないかと考えるようになりました。予防医学の必要性を感じ、公衆衛生に関して勉強し直しました。公衆衛生政策に携わることのできるWHOの仕事にはやりがいを感じています。

 

グローバル・レポート 「隠れた都市の姿」

グローバル・レポート
「隠れた都市の姿」

 

ジェイコブ・クマレサン 

国連WHO事務所調整官、国際トラコーマ・イニシアティブ会長を経て、2008年1月より現職。公衆衛生分野での経歴は多国にわたり、80年代はジンバブエ及びボツワナ保健省に勤務。1992年WHO本部に入り、2000年よりストップTBパートナーシップを率いて、結核撲滅に向けた取組み拡大に尽力。


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目次 2011年2月号