最新の医療とやさしい環境

インタビュー
杉村 和朗
神戸大学医学部附属病院
病院長事務取扱

 

―国立大学法人化によって大学病院も変化を余儀なくされました。これは改革のチャンスでもあったのですか。
杉村 神戸大学医学部附属病院の経営は2009年度、黒字に転じています。全体の収入は法人化の前年度に約160億円だったものが、約260億円に伸び、職員数も約40%増えています。2010年度は更に黒字幅は拡大すると思われます。これは決して営利主義に走ろうというものではありません。大学の使命は教育と研究、そして地域への貢献です。経営が安定すれば良い循環が生まれます。新しい機器を導入し、人材を雇い入れ、研究に資金を投入することができます。患者さんに優しい医療のためには人材と資金が必要なのです。

 

―短い期間に何故ここまで伸びてきたのですか。
杉村 法人化以前は、国からの予算に縛られていました。例えば、事務の方一人を雇うのも大変難しいことでしたし、最新の機器を導入してもそれを扱う技師もいなければ医師も足りない。有効利用ができない状況でしたが、今は自由に打つ手があります。

 

―これからの具体的な取り組みは。
杉村 病気の患者さんに動いてもらうのではなく、元気な私たちが動きましょうというのがコンセプトです。例えば現在検討しているのは、病院の玄関を入ってすぐの場所にコンシェルジュ役の職員を配置し、まず訪れた患者さんの相談に応じる計画です。退院の手続きや支払いの方法も改善し、患者さんサイドに立ったサービスをいままで以上に実践していこうというものです。

 

―新しい低侵襲総合診療棟の計画は。
杉村 優しい医療を進めようと「低侵襲総合診療棟」の建設を計画しています。最新の設備を使って、身体への負担を極力抑え、患者さんにできるだけ優しい医療をしようというものです。
例えば、心筋梗塞や大動脈瘤に対するカテーテル治療や、がんの治療で必要最小限に切除できるロボット手術、また放射線治療についても、がんだけをやっつけて正常な場所に障害を与えない最新の治療を行なうものです。平成26年度の運用開始に向けて準備を進めていきます。

 

―ポートアイランドに計画されている先端医療施設の開設にも協力されているそうですね。
杉村 中央市民病院の北側に、手術室が必要ないがんセンターが来年秋から再来年春を目処に開設される予定です。資金は民が準備し、神戸大学も人材をはじめ運営面で協力していきます。シスメックスの家次社長はじめ、商工会議所の多くの地元企業の皆さんの協力でSPC(スペシャル パーパス カンパニー)を設立して建物が造られ、それを病院が賃借するというスキームです。医療機器等はリースで調達され、人材は大学が支援するという新しい形態になる予定です。「小さく見つけて優しく治す」医療を目指して、市内の検診施設とコラボレーションしながら、がんをごく初期の段階で発見し、ビームを集中して治療するIMRTという最新の放射線治療機器と抗がん剤を使い、身体への影響が少ない治療をしようというものです。

 

―総合病院として地域への貢献にはどのように取り組んでいますか。
杉村 神戸大学医学部附属病院は県立病院として長く市民に親しまれてきた経緯があります。国立になって50年近くになり「ちょっと敷居が高くなった」という声もありますが、私たちはできるだけ地域に根ざした病院でありたいと思っています。救急を含めて安心して利用してくださいと呼びかけています。患者さんの満足度の高い病院にしようと取り組みを進めています。
それに併せて、世界へ発信できる高度医療を目指しています。例えば肝臓外科の具英成先生のもとには、高度な肝臓がん治療を求めて海外からも患者さんが来ています。他にも、多くの診療科が大学でしかできない医療を行っており、大切なミッションだと考えています。

 

―研究や教育も大学の使命ですね。
杉村 研究、実験は病院に隣接した別棟で行っています。道の向こう側の棟では学生が基礎医学を勉強しています。学生の教育には、直接患者さんに接する必要がありますから担当医が回診などに連れて行くこともあります。研修医や明日の名医達がチームの一員として医療に加わります。温かい気持ちで、ご理解いただきたいと願っています。

 

―最近の学生気質はどうですか。
杉村 医療に対する熱意は我々の時代と同様持っているのですが、内に秘めているのか少し物足りないところがあります。若いドクターに「留学に行ってこい」と言っても、あまり乗り気じゃないですね。昔と違って海外が珍しくもないし、日本の居心地が良すぎるのかもしれませんね。

 

―神大医学部を卒業した学生さんは大学病院に入局するのですか。
杉村 以前は、学生の80〜90%が大学病院で研修をして、そのまま大学あるいは関連の病院で勤務してきました。研修制度が変わり、神戸大学病院は80人程度しか研修医を受け入れられなくなりました。このため初期研修医のうち神戸大学出身者は3分の1程度になっています。ただし、2年の研修後は卒業生の約半数が神戸大学に戻ってくれています。

 

―患者さんにとっては、日常接する看護師さんの存在は大きなものです。看護の大切さについての教育、啓蒙はどのようにされていますか。
杉村 医療のパートナーとして看護師さんとの信頼関係は極めて大切です。患者さんの入退院の管理なども看護師長に任せています。看護部長は副院長として重要な会議には全て出席しますし、常に方針を話し合っています。高度な技能を持つ専門看護師も増やしています。神戸大学医学部保健学科(須磨区)で看護師や臨床検査技師、理学療法士等を養成していますので、こちらへ来て勉強したり、あちらから先生に来てもらって、現場とはまた違った視点での教育をしてもらうこともあります。

 

―神戸大学医学部附属病院はどういう評価を受けていますか。
杉村 コンサルタント会社に調査を依頼したところ、お陰さまで患者さんの評価が兵庫県内で一番高かったのです。昔から患者さんとの距離が近い病院だったことに加え、患者さんと最も長く接する看護師さんの評価も高かったこと、患者さんに優しい病院を目指していろいろな努力をしてきたことが評価されたものだとうれしく思っています。

 

―今後はどのような病院を目指しますか。
杉村 高度医療を目指し、地域の人たち、さらに地域を越えた人たちにも信頼いただける病院でありたいと願っています。地域のためには救急医療の充実が重要な課題です。また、職員の満足度を高めることも必要でしょう。働くのが辛い環境では笑顔も余裕も生まれません。働きたいと思える病院なら、患者さんも来て良かったと思える病院になれるはずです。

 

―私たちも期待しています。ありがとうございました。

 

がんの治療では、ロボット手術を導入する

がんの治療では、ロボット手術を導入する

 

神戸の市街地に隣接する神戸大学医学部附属病院

神戸の市街地に隣接する神戸大学医学部附属病院

 

「患者さんの満足度の高い病院に」と杉村院長事務取扱

「患者さんの満足度の高い病院に」と杉村院長事務取扱

 

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杉村 和朗(すぎむら かずろう)

1953年西宮生まれ。神戸大学医学部卒業、神戸大学助手、島根医科大学(現島根大学)教授を経て1999年に神戸大学教授として就任、2007年より神戸大学医学部附属病院長。
学生時代はラグビーに親しむ。「患者に優しい医療と病院」を信条とし、経営改革に取り組む。日本医学放射線学会理事長、2010年北米放射線学会名誉会員受賞


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目次 2011年2月号