神戸市医師会公開講座 くらしと健康 42
さまざまな要因で起こる腰痛
原因を把握して適切な対策・治療を
―腰痛はどういった原因で起こるのですか。
松井 腰痛は、実は高血圧に次いで、多くの人がかかる病気です。腰痛の原因は、腰の骨そのものが壊れている場合、骨どうしをつなぐ椎間板や関節に異常がある場合、骨の周りにある靭帯や筋肉に炎症がある場合などさまざまですが、はっきりと原因の特定できるものは全症例の15%程度だと言われています。その15%に含まれるのは、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎圧迫骨折などです。数は少ないですが腰椎の感染や転移性骨腫瘍も含まれます。残りの85%は原因がはっきり特定できず、非特異的腰痛と呼ばれます。これ以外に、解離性大動脈瘤や尿管結石のように内臓からくる腰痛もあります。
―原因がわからないのでは、治療が困難なのではないでしょうか。
松井 いいえ、原因が分からないというのはレントゲンやMRIなどの検査では異常が分からないという意味で、症状などから推定できる場合が多いのです。中には精神的なものが加わり、原因が複雑になっている場合もあります。
非特異的腰痛の多くは、筋肉の痛みによるものだと思われます。筋肉が原因の腰痛には特徴があり、図に示すように特定の動作で特定の部位が痛みます。これは、それぞれの動作によって働く筋肉が違うからです。他にも長く座っていると痛む部位、寝返りをすると痛む部位などがあります。ぎっくり腰も実は筋肉がひきつった状態なのです。
―具体的にそのような場合の治療法を教えてください。
松井 筋肉が原因の腰痛では、筋肉が疲労を起こしていたり、ひきつって血流が悪くなっていたりするので、これを改善する方法としては次のようなものがあります。
①まず、筋肉を休ませる。これは横になって休む場合もあるし、椅子にもたれ掛けて筋肉の緊張をゆるめてやる場合もあります。また、コルセットを使用して筋肉の負担を減らすことも有効です。
②ストレッチを行う。これは固くなった筋肉をほぐすのに有効ですが、ストレッチばかりしていてもダメで、①のように筋肉をゆるめることも併せて行うことがポイントです。
③症状の強いときは、痛み止めや、局所麻酔剤を使った注射などが有効です。湿布は浅い部分には効きますが、筋肉の深い部分にまでは効果が及びません。
―骨の変形や椎間板の異常の場合も腰は痛むのでしょうか。
松井 そうとは限りません。例えば、腰痛のためレントゲンを撮ったところ骨がずれていたからといって、それが腰痛の原因とは限らないのです。また、MRIで椎間板が飛び出ていたからといって、椎間板が原因の腰痛とは断言できないのです。ただし、骨の変形や椎間板の出っ張りが神経を刺激して、そのために下肢のしびれや痛みが出ている場合には、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアという診断になります。これらは腰の痛みというよりも下肢に症状が出るのが特徴です。たとえば腰部脊柱管狭窄症では、少し歩くと下肢がしびれて立ち止まる、腰をかがめて休んだらまた歩けるというのが典型的な症状です。腰椎椎間板ヘルニアの典型的な症状は坐骨神経痛で、おしりから足先までしびれたり痛んだりします。
―こんなときは要注意ということがあれば教えて下さい。
松井 以下の場合は要注意です。それぞれの可能性の高い疾患を記します。
・時が経つにつれて痛くなる⇒ 転移性脊椎腫瘍
・熱が出る⇒ 化膿性脊椎炎
・痛くて座っていられない⇒ 腰椎圧迫骨折
・おしっこが出なくなる⇒ 馬尾障害
馬尾障害とは、脊髄から出た腰の神経の枝(馬尾)が全体的に強く圧迫されて生じる症状です。
いずれにしても、このような症状のときには、必ず整形外科の専門医に相談して下さい。
松井 誠一郎 先生
(社)神戸市医師会理事・
瀬川外科院長