神戸市医師会会長インタビュー 誰でも・どこでも・ 安心・安全な医療を
―昨年12月1日にオープンした「神戸こども初期急病センター」についてお聞かせください。
本庄 3年前まで神戸での子どもたちの初期救急には、東は六甲アイランド病院、西は西神戸医療センターが深夜帯も含めて熱心に対応してくれていました。さらに中央には神戸市医師会急病診療所と中央市民病院があり、二次救急輪番病院も東西1カ所ずつ交代で対応し、関西エリアでも極めて恵まれた状況でした。
ところが、小児科専門医の不足に伴い、六甲アイランド病院が深夜帯と準夜帯を休止し、西神戸医療センターも同じような流れになり空白時間ができてしまいました。
しかし神戸市医師会急病診療所の小児科医だけでは、どれだけ頑張っても午前0時までで、翌朝までの対応はできません。
そこで協力を要請していた神戸大学から「新しいシステムをつくるなら」という返事をいただきましたので、行政を中心に、神戸大学、県立こども病院、神戸市医師会、神戸市小児科医会が集まり、継続できる休日・深夜、365日、24時間体制をつくろうと話し合いを始めました。しかし市内の小児科医の力を結集しても1カ所しかつくれませんので、市の真ん中で交通の便が良い場所ということで、HAT神戸に決定しました。国の財政補助と神戸市の補正予算をいただきオープンにこぎつけました。移転したことの周知もでき、今のところスムーズに救急診療をしています。
―こどもを持つ市民には強い味方ですね。
本庄 神戸のお母さん方に「安心して子育てをして下さい」と自信を持って呼びかけています。ただし、深夜帯、準夜帯の先生方の数は決して十分ではありませんので、上手に利用していただきたいと思っています。
―では高齢者について、介護保険の見直し問題をどうお考えですか。
本庄 介護保険制度を利用する人が増えてきたことは良いことですが、継続する財源がないことが問題です。平成24年度からの第5期介護保険計画では、保険料値上げを少しでも抑えようと、要支援など軽度の場合はケアプラン作成に手数料を課そうなどという計画も上がっています。また高齢者の中の高額所得者には利用料2割負担を課したり、特養や老健などの施設に入っている高齢者には光熱費を請求するという議論もされています。そのため、介護が必要な高齢者を社会全体で支えていこうという介護保険制度本来の理念が後退するのではないかと懸念しています。
―医療の総合特区についての神戸市医師会としての危惧は?
本庄 総合特区とは、その地域で税制の優遇や財政支援、また優先的な規制緩和をしようというものです。これを経済活性化のために医療分野に利用すると市場原理主義が働き、混合診療の拡大や株式会社の医療への参入、結果として医療格差、健康格差、不平等な医療の提供など様々な問題が起きてきます。
神戸では新しくできる中央市民病院周辺の高度専門医療群をクラスターと称して特区申請し、新薬や医療機器の審査基準の迅速・緩和、国内未承認薬や医療機器の使用などを特区内で求めています。
さらに、KIFMEC病院を設立し、アジア等海外の富裕層を対象に生体肝移植をしようとしています。これは移植ツーリズムを禁じたイスタンブール宣言や臓器売買を禁じたWHO決議に反し、医の倫理に反するもので、医師会としては決して容認できません。
医師会として、神戸市民にとって最も重要なことは、『医療は市民の安心・安全のためにあるべき』と認識しており、この認識のもと特区問題に対応していきたいと考えています。
―季節柄、市民の関心が高いインフルエンザにはどう対処していますか。
本庄 一昨年の新型インフルエンザの感染率は高かったものの致死率は低く、特に日本ではタミフルの早期投与が功を奏しました。今後、抗インフルエンザ薬耐性のウィルスが現れ、人から人に感染する可能性があり、その対策を講じています。
原則として初期段階では、一般診療所で強毒性、薬剤耐性のインフルエンザは診ずに、民間病院の駐車場や公園にプレハブを建て、待合・処置室・診察室を構成させ、こちらから出向いて診察します。診療所に来る慢性疾患の高齢者や子どもなど一般患者を守ろうという目的です。もし初期対応に失敗しパンデミックに陥った場合は、誰が保菌者なのか、特に子どもさんの場合は分かりません。そうなってしまった場合は診療所でも診ますが、そのような状態にならないように、初期に抑え込むことが大事だと思っています。
―手洗い、うがいという対策も忘れてはいけませんね。
今後も市民の安心・安全のための医療をよろしくお願いします。
本庄 昭(ほんじょう あきら)
(社)神戸市医師会会長
奈良県立医科大卒。川崎病院(神戸市兵庫区)内科副部長などを経て1986年、神戸市灘区に本庄医院を開設。2010年4月から(社)神戸市医師会会長を務める。