兵庫県公館にて

2011年 新春知事対談 ひょうごの魅力を発信

兵庫県知事 井戸 敏三
神戸フィルムオフィス代表・ひょうごロケ支援Net会長 田中 まこ

 

2010年を振り返って

―新年おめでとうございます。
まず昨年を振り返り、印象に残ったできごとをお話しください。

井戸 1月17日に、皇太子同妃両殿下のご臨席のもと、阪神・淡路大震災15周年追悼式典を実施し、兵庫県公館と人と防災未来センター前を映像でつないで二元中継による式典を行いました。 特に妃殿下は、昨年の公式の地方行啓がこの式典だけであることを考えると、被災地・被災者へのおもいやりだと感謝しています。震災から15年が過ぎ、15歳以下の子どもたちや転入者など、神戸市民の既に三分の一の人たちが震災を知りません。震災を風化させないために学んでもらうこと、そして、危惧されている東南海・南海地震など大地震への備えの必要性を認識する良い機会になったのではないでしょうか。
 3月から5月にかけて開催した淡路の「花みどりフェア」には、全体で約219万人、メイン会場には約78万人という予想を上回る方々に来ていただきました。皇太子殿下にもご覧いただき、さらに5月23日に三木市で開催された全国「みどりの愛護」のつどいにもご臨席いただきました。
 そして、10月に山陰海岸が世界ジオパークネットワークに加盟認定されたことは非常にうれしかったですね。山陰海岸の複雑な地質や地形が昔のままだということに加え、山陰海岸や円山川が造りだす地形がコウノトリが生きていける風土を作り、地域の人々が生息のために努力したことなど、人と自然の共生空間が全体として評価されたのでしょう。
 また、12月に府県域を越えた全国初の広域連合「関西広域連合」が発足したことも重要です。兵庫県は広域防災分野を担当し、今後は、関西全体の広域防災計画を策定していきます。また、国の出先機関の廃止に伴って、国の事務を受ける準備ができたということで、地方が主体的に進めていくわけですから、責任の重さも感じています。
田中 神戸フィルムオフィス設立10周年の昨年は、1月17日の東遊園地での2本の映画ロケで始まり、例年通りに何本かの映画の県内撮影を支援しました。9月に作成したロケ地ガイド冊子「神戸シネマップ」はお陰さまで好評をいただき、10万部が1カ月で無くなってしまい、5万部増刷しました。神戸を訪れる人たちに歩いて魅力を感じてもらえるコースを3つ、地下鉄で新長田の鉄人28号まで行くコースやドライブコースと合わせて全5コースを紹介しています。
 また、「さんちか」では、10周年記念として今までの作品のポスターやメイキングビデオ、衣装などを見ていただく企画展を6日間行いました。コースをスタッフが案内しロケのエピソードをお話しするウォーキングイベントも好評をいただきました。また、TSUTAYAさんが阪神間を中心に、神戸フィルムオフィスが支援した作品だけの棚を店内に作ってくださいました。
井戸 私も神戸シネマップを見て、こんなにたくさんの映画で神戸の街が取り上げられていたのかと驚いています。
田中 映画やテレビなど
1600本以上の作品を支援しました。正直に言って、設立当時は、10年も続くとは思っていませんでしたので、振り返ってみて感無量であると同時に、当初の目的は果たせたかなと思っています。これからは、単にその場所で撮影するだけでなく、地元の人たちと一緒に作品を作っていくこと。そして、支援した作品を活用してどのように文化・社会活動をして、魅力を外に向けて発信していくかが課題です。

 

多様なひょうごの魅力

―広い兵庫県の魅力はどのようなところだと思われますか。
井戸 何といっても多様性です。兵庫は、摂津、播磨、但馬、丹波、淡路という5つの国からできていますから、5つの歴史や文化、風土を持っています。それぞれが特徴的な生活スタイルをつくっています。その多様性を味わっていただけるかどうかが、兵庫の魅力を発信する勝負です。
 日本海や瀬戸内海、太平洋という3つの海に面している兵庫は、食材ひとつとっても多様です。播磨は麦や素麺、丹波は黒大豆、淡路はたまねぎなど。加工品もそれぞれの地域が地域の食材を活用して独自の商品を生み出しています。伝統芸能の分野でも、子ども歌舞伎など多様です。
 一方、兵庫は日本の縮図といわれるように、大都市から農山村まで、海から高い山まであります。中でも神戸の「前が海、後ろが六甲山」というユニークなロケーションは日本中探しても他にはないでしょう。また、世界文化遺産の姫路城があり、加古川流域を中心に県内には国宝のお寺が5つあります。
 財産をたくさん持っているのに、残念ながら、今まであまり売り出していなかったんです。一昨年はJRと組んだデスティネーションキャンペーンを実施し、ボランティアガイドの解説付きで案内するまち歩き、バスで国宝を巡るツアーなど新しいコースも始め、かなり定着してきました。食材を活用した特産品の開発もいろいろな地域で始められています。全国で一番多いといわれる兵庫県内のため池をネットワークで結び、美化・保全活動や環境学習など魅力ある地域づくりを行う「ため池ミュージアム」もあります。
 兵庫の魅力を、まず私たち自身が発見して、それを発信していくことが大事です。
田中 映画作品の中には、いろいろな風景が出てきます。できるだけ移動に時間や費用をかけたくないというのが制作者の要望です。その点、兵庫県なら都会的なシーンは神戸で、制作者が望むその他の景色もほとんど県内で見つけることができます。映画制作にはトラック何台も連ねてスタッフや機材がやって来ますし、役者さんは飛行機や新幹線で移動します。両方のアクセスが良いのも大きな魅力です。また、兵庫県南部は雨が少なく、夏も比較的涼しくて1年中気候が良いところです。天候のせいで撮影が止まってしまうと時間と費用がかさみます。同条件なら撮影を中断することなく、自分たちも過ごしやすい場所を選びます。機材のレンタルや宿泊施設なども整った都市から、短時間で日本の原風景まで移動できます。エキゾチックな街並みから、温泉、島、日本一の吊り橋、日本海などいろいろな風景を撮影できます。地元の人が気付いていない魅力を、レンズを通して客観的に感じて発信してもらえるのが映像です。

 

まだまだある地域の魅力

―進められている地域の魅力づくりについてご紹介ください。
井戸 何故、コウノトリの野生復帰に成功したかというと、単に人工飼育して自然に復帰させたのではないからです。もしそれだけなら、自然界にエサが無くなれば絶滅してしまいます。但馬では地域の方々にご理解いただき、冬でも田んぼに水を張り、カエルやタニシ、ドジョウなどエサになる生き物が生息できる空間を作っていただきました。農薬を使わない自然農法を守っていただきました。さらにそれは、安心安全への関心の高まりにもつながりました。
 また、何故、丹波の恐竜が注目されているかというと、頭から尾まで一体の恐竜が丸ごと発見された。これは、いろいろな恐竜研究の基準になるという学術的な意義もあります。そして、恐竜を中心にして地域の方々が町おこしに燃えているからです。岩石を剥がす作業の見学や、化石の発掘体験など、体験・参加型のツーリズムで町おこしが始まっています。一つのことをきっかけにして、地域の人と外から来た人たちが一体になった新しい形ですね。
 従来のような名所旧跡という観光資源だけでなく、地元の人が気にかけていないけれど、訪れた人にとっては非日常空間に浸れるようなものに目を向けることが、これからは必要ではないでしょうか。

 

―今話題の映画「ノルウェイの森」の撮影が兵庫県で行われることになったのはどのような経緯からですか。
田中 原作者の村上春樹さんが映画化することを長年躊躇していたこの作品を撮影するにあたって、制作者は、その世界観を必ず出したいという強い思いがあり、自ら本州の端から端まで「高原」と名の付くところを歩いたそうです。なかなか見つからなかったそうですが、砥峰高原で「撮影にピッタリ!」と感動して、神河町役場を通してひょうごロケ支援Netに連絡がありました。当時、私は砥峰高原に行ったことがなかったので、直接問い合わせがあったなら、推薦はできなかったと思います。制作者に見つけていただけて本当に良かったです。秋はススキがきれいで、冬は雪も降り、春は芽吹きの緑と花が素晴らしいと聞き、制作者も非常に気に入り、秋の茶色、冬の白、春の緑と三色を撮影しに、3回もロケに来られるという力の入れようでした。手付かずの自然もたくさん残っていて、私も「県内にこんなところがあったのか!」とびっくりしました。もちろん、この作品には都会のシーンもありましたので、それは神戸市内の大学などの協力を得て撮影しました。兵庫県だからできたのでしょう。
井戸 砥峰高原はススキの根を強くするための野焼きも有名なんですよ。実は私が副知事の頃に、開発の話もありました。バブルの発想だったのでしょうね。私も出かけて、「ここを開発などしてはいけない」と考え、その代わりに、「素晴らしさをきちんと知ってもらえるようにしましょう」とゲストハウスなどを整備しました。当時は地元の人にも迷いはあったようですが、今となっては「残して良かった」と思っていただいているようです。珍しい高山植物もありますから荒らさないように、是非、手付かずの自然を楽しんで欲しいですね。
田中 この作品を見ていただくことで、兵庫県にもこんなに素晴らしい自然があることが発信でき、他の作品も兵庫県に来て撮りたいと思っていただけたらいいですね。
 現在、ひょうごロケ支援Netは、県内のフィルムコミッションや市町など48団体が会員になっています。例えば、「こんな場所はありませんか?」と聞かれたときに、ネットワークを利用してすぐに連絡を取り、何カ所かの候補を紹介することができます。続いて、広い県内をどうすれば無駄なく動き、撮影できるかということも、一つの窓口で情報を取り、問い合わせすることもできます。ネットワークがうまく働いているおかげで、3年ほどで70本以上の作品を県内で撮影することができました。これからも、どんどん出していければいいなと思っています。

 

新たな魅力の発掘を目指して

―今後はどのようなことに力を入れていきますか。今年の抱負をお聞かせください。
井戸 関西は魅力の宝庫です。発足した関西広域連合で、まとまって発信できるのは強みになりました。京都、大阪の知事とともに中国へも5回、共同キャンペーンに出かけています。関西全体を一つのエリアとして売り込み、観光を誘致したいと考えています。
 ジオパークをどうやって知ってもらうかは課題です。山陰海岸の景観だけを売り込むのではなく、その自然の中で営まれている生活との共生をアピールしていくことが重要です。2月にはシンポジウムを開催する予定です。できればギリシャのレスヴォス島と姉妹提携して、エーゲ海と日本海の仲をコウノトリが取り持つツアーができたらいいですね。山陰海岸は京都、兵庫、鳥取3県にまたがっていますので協力して進めていきたいと思っています。
 11月には姫路で「B-1グランプリ」も開催されます。「姫路食博」と同時開催ですので、県内のご当地グルメも一堂に会します。
 7月上旬のアジア陸上選手権に続き、11月20日(日)に開催される神戸マラソン。大阪・京都とともに三都マラソンになります。神戸の場合は震災からの復旧、復興の街を見ていただき、感謝の気持ちでおもてなしをしようというものです。来ていただく方々に友情を感じ取っていただければ幸いです。テーマは「感謝と友情」です。
田中 映像支援をきっかけにして、文化活動、社会活動、地域の魅力の発信につなげていくことが今年の課題です。さらに、皆さんに「またここか」と飽きられないように、今まで撮影で使われていない場所をどんどん取り上げていただきたいですね。
 今年も、二宮和也さんと松山ケンイチさんの主演で前評判の高い「GANTZ」に続き、「阪急電車」「マイ・バック・ページ」と公開が控えています。私は「何故、東京から阪神間に帰ってしまったの?」とよく聞かれますが、たとえ仕事を辞めたとしてもここに住み続けたいと思える魅力があるからです。「阪急電車」では阪神間から神戸にかけてのそういった日常の暮らしぶりやモダニズムを、映像を通して住んでいる人と同じように味わっていただけると期待しています。
 兵庫の魅力の一つには、ものづくりや生活に密着している部分もあります。今年は作品のアイデアとしてアプローチしていきたいと考えています。
井戸 神戸には造船、車両、エンジンなどの生産基地がたくさんあります。企業のご協力をいただき、産業ツーリズムを売り込んでいくのも、これからの一つの方法だと考えています。
田中 兵庫の緑や花に関してはイメージはかなり浸透してきたようです。少し視点を変えて、兵庫には産業がいっぱいあるというのも伝えていけたらいいなと思います。

 

 司会・進行 本誌 森岡一孝

 

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約2,500万年前の日本海形成に関わる地質遺産が数多く残る「山陰海岸ジオパーク」

約2,500万年前の日本海形成に関わる地質遺産が数多く残る「山陰海岸ジオパーク」

 

映画「僕の彼女はサイボーグ」(2008年GAGA)の神戸・南京町でのロケ風景

映画「僕の彼女はサイボーグ」(2008年GAGA)の神戸・南京町でのロケ風景

 

地域と連携して取り組む無農薬・減農薬栽培の環境創造農業「コウノトリを育む農法」

地域と連携して取り組む無農薬・減農薬栽培の環境創造農業
「コウノトリを育む農法」

 

映画「ノルウェイの森」(2010年東宝)の夏の砥峰高原でのロケ風景(提供:神河町役場)

映画「ノルウェイの森」(2010年東宝)の夏の砥峰高原でのロケ風景
(提供:神河町役場)

 

 

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井戸 敏三 (いど としぞう)

兵庫県知事

 

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田中 まこ (たなか まこ)

神戸フィルムオフィス代表。ひょうごロケ支援Net会長
国土交通省観光庁「観光カリスマ」
アジアフィルムコミッションネットワーク(AFCNet)副会長
ジャパン・フィルムコミッション(JFC)副理事長
国土交通省観光庁「VISIT JAPAN大使」他
兵庫県文化功労賞(2009年)、関西財界セミナー「輝く女性賞」(2010年)などを受賞

 

神戸フィルムオフィス

2000年9月13日開設。国内外から映画、TVドラマなどの撮影を神戸に誘致し、撮影に必要な支援を無料で提供しています。これまで映画、TVドラマなど1,689作品(2010年11月末現在)を支援しました。

 

神戸で撮影された主な映画やTVドラマのロケ地が一目で分かる「神戸シネマップ」

神戸で撮影された主な映画やTVドラマのロケ地が一目で分かる「神戸シネマップ」

 

代 表/田中まこ
所在地/神戸市中央区港島中町6-9-1
(財)神戸国際観光コンベンション協会内
TEL 078-303-2021
ホームページ http://kobefilm.jp


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目次 2011年1月号