桂 吉弥の今も青春 【其の十】

落語会に足をお運び下さい

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
 昨年の十一月、落語家になって初めて言われた言葉があります。タクシーに乗った時に運転手さんにかけられた一言。うちの米朝一門では、ざこば師匠や南光師匠がよく言われてはりました。その一言とは・・・「マスコミの仕事が忙しいから落語できまへんやろ」です。この言葉をかけられた時にまずびっくりしました。自分にまさかそんなこと言われるとは思ってませんからね。あまりに不意打ちでしたから「なに言うてはりますのん、落語やってますよ。独演会のチラシか一門会のチラシ渡しときますわ」という言葉もでなかった。人のことやったら言えるんですよ、今までずっと言うてきましたもん。「ざこば師匠も南光師匠も落語すごいですよ。あちこちで落語会やってますから、いっぺん見てください、お金払って」とね。このお金払ってというとこに気持ちをこめるんです。そして「あなたが知らんだけですわ」というメッセージを柔らかく伝えるんです。
 ところが、自分のことになったらちょっと考えました。桂吉弥という人間が落語家として認識はされるようになった、顔を覚えていただくというのはホンマありがたいことです。ラジオをやったりナレーションもさせてもらうと、声でも分かってもらえるようになりました。タクシー乗って行き先を告げると「あら吉弥さん、しゃべったら分かったわ」なんてこともあります。しかしテレビに出ている時は洋服で、着物なんてほとんど着ません。ラジオで私の落語を取り上げてもらえるのも年に数回でしょう。落語家ということは分かってる、桂吉弥は落語家やと。でもそこから先の、私が高座に座布団置いて座るという情景は皆さんの頭に浮かんでないんじゃないかなあ。そうすると「マスコミばかりで落語してない」と思いはるでしょうね。これはどないしたらいいんだろうと思ってます。えらい問題です。
 もう一つ似たような話を。昨年の十月と十一月に大阪城に平成中村座がやってきまして、私は十一月の昼の部に行かせてもらいました。お客さんは満員で、とっても楽しかったです。やっぱり中村勘三郎さんはすごい、あんな空き地に小屋をおったてて、二ヶ月もお客を呼ぶねんから。しかし、しかしです。あの時期に「今大阪に中村屋が来て、すごいことやってるで」とどれだけの人が知ってたんだろうと。平成中村座の最寄り駅の谷町四丁目駅から大阪城に向かって歩いても、そういう熱というか雰囲気や空気が無かった、寂しかったのはなんででしょう。劇場というものに納まって芝居をするんじゃなく、町に出る、人の中に出て行く為に小屋を作ったと勘三郎さんはインタビューにこたえてました。テントで芝居をする唐十郎さんを見て、これが本来の歌舞伎じゃないかと思ったとも。私もいずれ町の中にテント建てて落語やろうと思ってますよ。もちろん大阪城は元々人がそんなにたくさんいるとこではないし、料金がすごく高いですからね、気軽に芝居を見に行こうという気持ちになりにくいのは分かりますが。
 それにしても、芝居を見る人と見ない人がはっきり別れすぎてるんじゃないか。生活の中に、テレビやラジオといったもの以外で、お金を出して何かを見たり聞いたりしようという話が無いように思います。みなさんはいかがですか、ご自分の住んでる町にどれだけのホールがあって、どんなものをやっているか知ってはります?市民会館に成人式でしか行かないという人、多いんじゃないやろか。
 落語ってね、歌舞伎に比べたらずーっと値段安いです。十分の一です。よけいに気軽に来てもらわないといけないでしょ、でも落語を生で見たことない人はまだまだ沢山いてはるんですよ。私の高座となるともっと多い。桂吉弥の落語を見たことない人との出会いを、まだまだ、もっともっと作っていかなきゃならない2011年です。
 神戸のホールでもやります、吉弥の落語いっぺん聴きに来てください。

20130305201

桂 吉弥 かつら きちや(KATSURA KICHIYA)

昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説
「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」
土(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」
水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」
月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」
土曜 10:00〜12:15
昨年、平成21年度兵庫県芸術奨励賞


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目次 2011年1月号