
平成二十三年 新年によせて
加藤 隆久(かとう たかひさ)
生田神社宮司
神戸芸術文化会議議長
神戸女子大学名誉教授
神仏霊場会々長
卯歳に鎮守の森を守る
神垣に立ち寄る人の袖までも
盛りに匂ふ梅の春風
この和歌は「社頭梅盛」と題する万里小路雅房の架蔵の短冊の一首です。生田の杜にも初春を迎える箙(えびら)の梅があります。
平成二十三年辛卯歳の新春もめでたく明けました。「辛卯(かのとう)」の「辛」は十干で第八番目です。『史記』の律書には「辛は万物の辛生をいう、故に辛という」とある、「あたらしい」という意味があります。一方「辛抱」の意味からしますと、「からい・つらい・きびしい・ひどい・むごい・苦しい」の言葉でもあります。
「卯」という字は、門の扉を左右に開いた形をかたどったもので、万物が地を押し開いて出る様子を表す意味もあります。「卯」は十二支では第四番目、方位は東、時刻は午前六時頃、月では四月、動物はウサギが充てられています。今年の恵方は巳午の間「南南東」です。
ウサギは、長い耳と大きな門歯が特徴のウサギ目に属する哺乳類の総称で、世界中に分布しています。ウサギの歳に因み、生田神社では、拝殿前に二紀会常任理事の中西勝画伯が渾身込めて描かれた「三光頌春大福兎(さんこうしょうしゅんだいふくうさぎ)」と名づけられた巨大絵馬を掲げ初詣客をお迎え致します。
本年私は、全国で鎮守の森を守るキャンペーンを呼びかけたいと思っております。集落を守る神が宿る鎮守の森は、古来邑人の信仰の場であり、子供達の遊び場であり、コミュニティーの場でありました。森を構成する照葉樹林は、季節の移り変わりを演じる俳優として、万物の命を守る象徴として邑人の心に奥深く染み込んでいました。しかし、今鎮守の森はビルが建ち並ぶ都市の中で追いやられ姿を消したり、ビルの谷間に埋もれるものもあります。都心を離れた山間部の鎮守の森は誰も手入れがされず瀕死の状態にあるというところがあります。昔からに田園風景を留める田舎でも人々の関心から遠ざかり、荒れ放題になっている森もあります。鎮守の森の荒廃は日本人の心の荒廃と時を重ねていないでしょうか。地球温暖化による影響が目に見えるようになった現在、その原因の一つでもある温室効果ガスの削減は生存している現代人、なかでも大人の未来に対する責任でもあります。したがって、鎮守の森を守り、復活する森が緑をふやし大切にしようとする心の広がりを及ぼす効果は計り知れないものがあります。
鎮守の森を敬うことと命を大切に思うこととは共通しており、子供達への教育にもつながることであり、宗教的、精神的意味合いの強い鎮守の森を公共の緑地という認識で見直せば再生活動にも広がることだと思います。
今年こそ、鎮守の森を守るキャンペーンを各地で起す運動を提案し平成二十三年辛卯歳の年頭の所感といたします。
加藤 隆久(かとう たかひさ)
1934年岡山県生まれ。文学博士。生田神社宮司。神道青年全国協議会会長、兵庫県神社庁長、神社本庁常務理事を歴任するほか神戸芸術文化会議議長、神仏霊場会会長など数々の要職を務める。昨年、神社本庁より鳩杖拝授と長老の称号が与えられた