
インタビュー 研究開発は企業の魂
日本イーライリリー株式会社
代表執行役社長
アルフォンゾ・G・ズルエッタさん
幅広い領域で革新的な薬を研究開発
―1876年にアメリカで創業、130年以上の歴史を持つイーライリリーですが、どの領域に力を入れているのですか。
ズルエッタ イーライリリーは、精神疾患領域、がん領域を中心に展開しています。糖尿病治療の歴史も長く、インスリンを世界で初めて商品化したのがイーライリリーです。
他にも、骨・筋肉・骨格・関節や泌尿器の領域など幅広い領域にわたっています。また、自己免疫系の疾患でも革新的な薬の開発を進めています。
日本イーライリリーは神戸に本社を構え36年目ですが、日本の製薬会社とパートナーシップを組み、100年以上にわたり医薬品を提供してきました。
―その中でも、患者数が増えている、または今後増えるだろう領域は?
ズルエッタ 社会の高齢化にともない、全ての領域で患者さんの数は増えていますが、特に、糖尿病や精神・神経系の疾患はますます増加すると思われます。弊社では、アルツハイマー病の治療薬の開発にも力を入れています。他にも、がんは特に増えていますし、女性に多い骨粗しょう症では、痛みがひどくて日常生活もままならない重度のものもあります。そういった患者さん向けに従来の薬とは異なり、骨を作る作用をもつ薬を最近日本でも発売しました。
―精神疾患領域の薬品も多く販売されていますね。
ズルエッタ うつ病の領域で弊社は長年の経験を持ち、パイオニア的存在です。日本でも、うつの精神症状に加えて、うつ病による身体的な痛みなどにも効果がある薬や、双極性障害、統合失調症、注意欠陥・多動性障害への治療薬を販売しています。
―「研究開発は企業の魂」という理念に沿った創薬とは。
ズルエッタ イーライリリーは、革新的な薬品を開発し、販売することをめざす会社です。売上高の20%以上、世界全体では年間約40億USドルを研究開発にあてています。
女性や子どもがいる社員に配慮した環境
―アメリカでは「働く母親に優しい企業」で1位の評価、また日本では「働きがいのある会社25社」に選ばれています。職場環境づくりにはどのような努力をされていますか。
ズルエッタ これらの結果については誇りに思っています。どんな事業でも、組織の成功に欠かせないのは人です。社員の意欲と責任感を高めることと、人材の適材適所の配置が大切です。そのために、一歩進んだ対策を心がけています。社員がハッピーに仕事ができるような制度を整えることです。
給与体系や福利厚生とは別の制度や方針として、女性社員や家族に対して充実した制度、例えば産休や育児休暇、育児短時間勤務制度、父親向けの育児パパ休暇などで、子どもがいる社員を支援しています。ダイバーシティ(多様性)を重視しています。
―日本企業では、制度があっても利用できないというのが現状ですが…
ズルエッタ 制度や方針を整えたとしても利用しない、知らないというのは起こりうることです。定期的にどれだけ利用されているか調査したり、ダイバーシティカウンシルと呼ばれる会議体をつくり、私が議長になり先導しています。例えば、育児パパ休暇をとった社員を社内イントラネット上で紹介し、社内での広報をしています。
患者さんと家族、医療従事者を支援
―患者さんの支援にも力を入れていますね。
ズルエッタ 人々の生命に影響を与える機会がある会社で働いていることを誇りに思うように、常に社員に言っています。「パッション フォー ペイシェント」という理念です。新しい薬を作るだけでなく、患者さんとその家族、医療従事者を支援することで、患者さんのより良い人生を支援するための努力をしようという意味です。
昨年9月には「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス~がんと生きる、わたしの物語~」、を日本対がん協会と共に始めました。がんの患者さんが絵画・写真やエッセイで自分たちを表現し、社会全体、他のがん患者さんやその家族に見ていただき、がんはコントロールできるということを理解いただくとともに、勇気を持って闘病を続けてもらおうというものです。このイベントには、ジャズトランペッターの日野皓正さんにも応援いただいています。
「リリーインスリン50年賞」は長年、糖尿病治療にインスリンを使用している患者さんを表彰するもので、私も表彰式に参加しました。70歳、80歳の患者さんが元気に過ごされている様子に触れるのは大変うれしいことです。また、精神障害者自立支援活動賞(リリー賞)も6回目を迎えました。
神戸は外国人にとって生活や教育に恵まれた環境
―日本の生活はいかがですか。
ズルエッタ 妻と3人の子どもと一緒に日本へ来て2年半になります。イーライリリーで仕事をしてきた23年間でいろいろな国へ赴任しましたが、日本は最高の環境です。人が素晴らしく、国がきれいで安全、人々が規律を持ち、お互いに尊重し合っています。天候はだいたい良好、ただし夏の2カ月を除いてですが(笑)、素晴らしい文化があり食べ物もおいしい。日本人は日本に生まれたことをラッキーだと思うべきですね。ただし、日本語は難し過ぎます。もうあきらめました。
―神戸についてはどうですか。
ズルエッタ 神戸で実績を持つ企業として、市の担当の方と東京へ行き、神戸で事業を成功させるための講演を昨年9月に行いました。神戸は多様性があります。空港、学校、交通網も整っていて通勤も1時間以内で可能です。
―日本イーライリリーは何故、本社に神戸を選んだのでしょうか。
ズルエッタ 日本でのリリー製品の販売提携をしていた製薬会社が近いということで神戸を選んだのだと思います。「東京に拠点を移す予定はありませんか」と聞かれますが、そのつもりはありません。
―社員にとっても、良い環境なのでしょうね。
ズルエッタ 東京は世界的に見ても特別な存在ですし、弊社も事務所を構えています。けれど、私の3人の子どもたちや、他の社員の子どもたちにとっての生活環境や教育を考えると、神戸は快適に過ごせる町だと思います。私が日本に赴任する前に、神戸に関して否定的な話は一切聞きませんでしたし、今の私もまさにそのとおりです。
―在日アメリカ商工会議所の活動もされていますね。
ズルエッタ 目的は事業領域での日米のパートナーシップの強化と、社会を支援しようというもの。慈善活動やリーダーシップレクチャーなどを行っています。また、働く女性の環境やダイバーシティも支援しています。
―カナディアン・アカデミーも応援していますね。
ズルエッタ 弊社は多国籍企業ですので他の外国企業とともに継続的な支援活動に参加しています。例えば、理科の領域での成績優秀な生徒の表彰や、施設の改善などです。
―エランコ・アニマルヘルスとは?
ズルエッタ 日本だけでなく、世界でも動物用医薬品は成長している事業です。いろいろな領域がありますが、一つはペットに付くのみに対処する経口剤を最近日本でも発売しました。以前から畜産飼料に混ぜて感染症を予防したり、牛乳の生産性を高めたり脂肪分を減らしたりする薬剤も販売しています。アニマルヘルスは今後もさらに力を入れようとしている分野です。
―日本イーライリリー代表者としての2011年の目標は?
ズルエッタ 引き続き革新的な薬剤の開発を進め、その薬剤を待っている患者さんのために一日でも早く承認をとることです。イーライリリーは過去18ヶ月間、日本で最も成長した製薬会社です。2011年もさらなる成長を続けることです。さらに、日本の優秀な人材を、海外でもリーダーとして活躍できる人材に育てることをめざしています。また、社会と患者さんや患者団体への貢献の活性化をより一層図りたいと思っています。
―ご自身の目標は?
ズルエッタ ダイエットでしょうか(笑)社員にもいつも言っているのですが、健康に気をつけることが何よりも大切だと思っています。
―ありがとうございました。

「リリーオンコロジー・オン・キャンバス」記者発表会風景。広報大使を務めるジャストランペッターの日野皓正さんと写真家の荒多惠子さん

インスリンを世界で初めて開発した日本イーライリリー。
「リリーインスリン50年賞表彰式」にて

働く女性を支援するイベント「ACCJ ウォーカソン」に参加する社員の皆さん