世界のトランペッター ぼくの音色(おんしょく)

[Interview]
日野皓正さん

 

―世界でご活躍の日野さんですが、最近は後輩の育成や指導などにも貢献してらっしゃいますね。
日野 特に自分から望んでいるわけではなく、歳を重ねるにつれて要望があるので、あるがままに受け入れているだけです。感謝を持って、世の中に還元することは大事なこと。子どもは宝ですから育成も大切だと思っています。

 

―どんなことを若者に伝えたいですか。
日野 今の世の中には感謝の念、愛、常識というものがなくなりました。自分のことしか考えていないようですね。私たちが子どものころは、儒教の教えがまだあり、躾けをされました。今の若いお母さん、お父さんは自分たちがそういう教育を受けていないので、子どもたちにも伝えられません。人間として相手を敬い、尊敬しながら自分の主張を強く出せる人。そういう人を育てなくてはいけないと思っています。
特に音楽の世界では、自己アピールをしないと他人に分かってもらえません。コミュニケーションをして、分かってもらえたら拍手がもらえる。拍手で育っていきます。音楽はアピールすることに意味があります。

 

―今回の催し「ジャズピクニック」で会った学生さんはどうでしたか。
日野 「素晴らしい!凄い!」と思う面と、「もうちょっと積極的になれないかな?」と思う面と、両方ありました。今回は時間が足りなかったので細かく指導するところまでは出来ませんでしたが。

 

―日野さんは画集「ぼくの音色」や「ドローイング作品集」などを出版してますが、絵画と音楽との共通点は?
日野 科学、政治、教育、芸術…、この宇宙で人間がやることは全て同じだと思っています。宇宙から届く指令を、単に自分の体を通してやらされているだけです。練習は自分でやることが大切ですが、最後は全部、天から来て、体からメッセージとして出ていきます。「音楽は得意だけど、絵は苦手だ」なんて自分が思っているだけです。
誰でも、絵描きになれる方法をお教えしましょう。朝起きたら、何でもいいから線を描く。次に丸を入れてみる、三角を入れてみる。今度は色を入れてみよう。「ダメだ!」と失敗する。これを100回繰り返したら、人間、同じ間違いは起こしません。あれこれやっていると、先祖から受け継いだDNAが何か言ってくるのが聞こえます。自分が天性に持つ感覚で描けば、それなりになってきます。立派な額に入れれば、立派な絵。100日、1000日…と続ければ誰でも皆、絵描きです。

 

―日野さんは中学生の時、すでに米軍キャンプで活動していたそうでが、今の時代ならとても考えられないことでしょうね。
日野 親は、手に職を持つように子どもを育てなくてはいけません。子どもが生まれたら大きなノートを買って、子どもの行動、興味、夢を書き続ければ、例えば「この子はお笑いの世界へ進むべきだな」などと分かってきます。大学に進学する必要がないとなれば、中学卒業したら師匠の門を叩く。毎日、師匠の傍にいると相手の頭の中のことは全て分かってきます。マイルス・デービスは、チャーリー・パーカーの傍にずっといたから、超一流の考え方を持ったミュージシャンになりました。
科学者、弁護士、教師、政治家などになるには一流の大学を出なくてはダメです。同じように、ミュージシャン、お笑いになるにしても、若い時から徹底してその世界に入るべきだと私は思っています。

 

―世界中のミュージシャンと競演されていますが、ジャズピアニストの菊地雅章さん(プーさん)との出会いはどのように?
日野 菊地さんは、頑固なところが最初に見えて、「この人なら信じられる」と思いました。自分の音楽を進めて、認められようが認められまいが、一本の道を貫いている。到底、僕にはできないことです。僕はもっと器用だから(笑)。プーさんは僕にないものを持っているから、尊敬し続けています。

 

―やりにくいと思った共演者もいますか。
日野 もちろんいますよ。プーさんのように〝すばらしい頑固〟ならいいですが、〝わるい頑固〟とは二度と一緒にやりたくないと思います。ミュージシャンは、相性や音楽的な方向がピッタリ合わないとお互いに認めませんからね。でも、求められると一緒に組むこともあります。それは、僕のサウンドが要求されているからです。僕もあるサウンドを作りたくなれば方向性や相性が合わなくても良い音楽を作るために一生懸命やります。それはお互いさまです。
でもレギュラーで組むのなら、人間性が温かくて、いい人間でないとメンバーとして認めません。

 

―トランペットの音色の魅力は?
日野 人に一番感じさせやすいのは肉声でしょうね。次に、口を使う楽器。トランペットが体の一部になっていれば、肉声に近い音を出せます。いろいろな音を出せることが魅力でしょか…。というのは僕は生まれた時からトランペットを持ってしまったので、よく分からないんですよ。ドラムス、カッコいいなあ、やってみたいなあ、なんて思うこともありますが(笑)。

 

―「ほっぺが膨らむ日野さんが好き」というファンがいます。何故、膨らむのですか。
日野 声楽でいい声を出すには「喉を開けなさい」と指導されます。トランペットでも同じです。喉を開けると、トランペットの穴はとても小さいので空気が肉体に滞ってしまいます。
クラシック奏者は口角を固めて、1曲中であまり音色を変えずにずっときれいな音色で演奏します。私たちは1つの音色だと言葉が少な過ぎる。そこで、いろいろな空気の使い方が必要です。サブトーンを出すには、口の中に空気を貯めておかないと出せないから自然に膨らんできます。口角を緩めに固めつつ、空気を貯めているのが僕のスタイルです。しばらく演奏をサボっていると、ほっぺの裏が硬くなって、改めて吹き始めるとボロボロと皮がめくれてきます。サボらず吹いていると、そんなことにはならないんですが…。

 

―ジャズを志す人へのアドバイスをお願いします。
日野 小学校からブラスバンドに入っている人が「違うものをやりたい」とジャズやフュージョン、ロックなどを始めます。先生から叩き込まれてきたクラシックやマーチングバンド、吹奏楽のニュアンスは正しいのですが、ジャズでは正しくないんです。ジャズのレコードを暗記できるくらい、一緒に歌えるくらいまで聞いていれば分かってきます。聞いてもみないでやろうとするから、楽譜に書いてある通りにしか音が出せないんです。
クラシックを基準にすればジャスは楽譜を間違って読まなくてはいけません。例えば、8分音符・4分音符・8分音符の連続音で例えるとクラシックなら「タ、ター、タ」、それがジャズでは「ター、タ、タ」最初の8分音符が長くて、真ん中が短い。解釈が違ってるでしょう? でもジャズではそうなんです。この間違いは書く方法がない。だから、たくさん聞いて会得するしかないんです。

 

―日野さんにとっての神戸は?
日野 何だか分からない魅力があります。肌に受ける空気と色が他の街とは違う。なんだか日本じゃないみたい。外国の街のような印象があります。そこが僕は好きです。

 

―ぜひまた、神戸へ来て演奏をして下さい。ありがとうございました。
インタビュー 本誌 森岡一孝

 

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11月7日に開催された「ジャズピクニック」

11月7日に開催された「ジャズピクニック」

日野皓正(ジャズトランペッター)

1942年東京生まれ。9歳よりトランペットをはじめ、13歳の頃にはダンスバンドで活動を始める。’67 初リーダーアルバムをリリース以降、マスコミに”ヒノテル・ブーム”と騒がれるほどの注目を集める。’75より活動拠点をNYに移し、数多くのミュージシャンと活動。’89 ブルーノートレーベルと日本人初の契約。近年は公演の他、絵画や後進の指導など各方面で活躍。唯一無二のオリジナリティと芸術性の高さを誇る日本を代表する国際的アーティストである。’01芸術選奨文部科学大臣賞、’04紫綬褒章他受賞


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目次 2010年12月号