今年4月、関西国際空港の国際線出発ロビーに設置された「シプラ」。縦4m、横3mの大きさ

曲面に画像を映す!世界初の技術を開発

インタビュー
篠田プラズマ㈱ 代表取締役会長兼社長 篠田 傳さん

 

神戸発 次世代プラズマチューブアレイディスプレイ 「シプラ」

 

―59歳で起業してプラズマチューブアレイの開発を続けようと思ったきっかけとは。
篠田 明石市にある富士通㈱の研究所で1996年、世界初の42型プラズマテレビを完成させ、開発は一段落。しかし想像したほどの臨場感がなく、「居ながらにしてニューヨークやアルプスへ行ける」などと思い描いていたものとは違うと感じました。その後もフェローとして10人のスタッフと共に理想のディスプレイを実現するプラズマチューブアレイ技術の開発を始めていました。
 技術が整ってきた頃、富士通がディスプレイ事業全体から撤退することになりました。今後どうするかと考えたとき、常々講演会などで若い人に向け「夢を持ちなさい。一所懸命やれば必ず実現する」と話していたことを思い出しました。その私が危機的状況から逃げ出し、やめてしまったのではカッコ悪い(笑)という思いと、もうひとつは、日本では若い人たちがチャレンジすることがなくなったと感じていましたから、私の年齢でも新しいことを始めて成功したというのを見せることで、若い人たちも失敗を恐れずチャレンジしてくれれば幸いだと考えました。

 

―具体的な経緯としては?
篠田 超臨場感を出すディスプレイには、等身大の人と背景を同時に映せる高さ約2㍍と幅約3㍍が最低限必要です。ガラスを使う技術では大きな投資がいりますが、細いガラス管を使うこの技術は小さな投資ですみますから中小企業でもできます。そこで、チームの若いメンバーに相談したところ「ここでやめてしまったらこの技術は消えてしまう。やってみたい」と。こんなディスプレイが出来たら世の中が変わり、新しい映像文化が生まれるだろうという思いで起業を決断しました。

 

―専務でもある奥さま洋子さんの協力は大きかったそうですね。
篠田 私は現役フェローとして2005年から2年間は富士通に留まりましたから、準備会社の立ち上げまでは手が回りません。たまたま、うちの奥さんが仕事を辞めてのんびりしようとしていた時でした。そこで「ちょうどいいや」と社長を務めてもらいました。彼女は小学校の校長先生を務めていましたからマネジメントができるし、人と関わるのが私より上手。その力は大きな助けになりました。

 

―「シプラ」の特徴はどこにありますか。
篠田 シプラは非常に大きなディスプレイです。熱で壁がヒーターになってはいけませんから、第一の課題は消費電力を少なくすること。次に、軽くなくてはいけません。小さな設備と小さな投資で、大きなものを作らなくてはいけません。このコンセプトどおりのものが、10年を経て完成しました。「見る」だけでない「感じるディスプレイ」が生まれたのです。こんな大画面を工場で作っても運べませんが、1メートル角のものを貼り合わせるのでどこにでも設置できます。初導入した明石市立天文科学館も搬入路が狭いのですが、シプラだから超大画面のプラズマディスプレイの設置が可能になりました。
 シプラは曲げることで視野を大きく覆い、臨場感を高めます。いろいろな方向に曲げられるので空間デザインには最適です。軽いのでカーブのある天井にも設置でき、熱の発生が少ないので強化ガラスで覆ってフロアに置くことも可能です。見せ方いろいろです。

 

―関西国際空港の国際線出発ロビーにもシプラがありますね。
篠田 関空では当初、液晶で計画していました。でも、横に置くと自重で壊れてしまうなど難しく、最初予定していたメーカーが下りてしまったそうです。どこでどう探し当てたのか、「神戸にできたばかりのベンチャーがある」と依頼がありました。5月の連休までに設置という条件はプレッシャーでしたが、無事に間に合って設置でき、出来ばえには大変満足いただきました。

 

―超大画面時代到来と言われますが、LED(発光ダイオード)は屋外用、PTA(プラズマチューブアレイ)は屋内用と言われるのは?
篠田 PTAは映像が細やかで表現力があることが一つの理由です。ネガティブな要因としては、直射日光が当たると反射で見えなくなることと、明るさが足りないことです。一方LEDは、粒子は粗くても一つひとつが明るく光るのです。LEDは数10mの遠くから見る、PTAは数mの近くで見ることのできる目に優しいディスプレイです。

 

―大手メーカーなど他社との競争にはどう対処しますか。
篠田 シプラの技術は当社だけのものですから競争は考えられません。作るとすれば、我々とパートナーになっていただくことになります。また、今のプラズマや液晶は100インチまでの家庭用のディプレイですので、シプラとは市場が全く違います。日本中、世界中探しても、ここまで大きなものはないはずです。液晶やプラズマのパネルを貼り合わせる方法もありますが目地が大きく、全体を一枚の映像としては捉えにくいという弱点があります。シプラは画面の端まで光り、ほとんど境目ができませんから一つの大きな映像として捉えることができます。

 

―価格が高いという問題がありますね。
篠田 新しいビジネスには「入り口市場」が大事だと私は考えています。液晶やプラズマも、従来のブラウン管ができない高付加価値のところから始めたので成功しました。入り口市場は値段がある程度高くても、全く新しい性能をもってすれば皆が受け入れてくれます。関西国際空港や明石市立天文科学館などシンボル的な場所から始まり、次第に広がれば値段が下がり、クォリティーも上がります。

 

―神戸の医療産業都市構想やデザイン都市にも貢献できそうですか。
篠田 プラズマチューブアレイ技術はいろいろな応用が可能です。例えば、紫外線の面光源として利用すれば医療産業にも役立ちます。また、シプラは空間をデザインできますからデザイン都市神戸にはピッタリ! 神戸市さんに何とか育てていただいて、神戸市のシンボルとして世界に発信していければいいのですが…。

 

―海外へのアプローチは?
篠田 台湾、中国、韓国へのアプローチは考えています。しかし、インターネットの時代ですから特にこちらから働きかけなくても、世界中の全く知らない国からでさえアプローチがあります。先日も中国からプラズマの専門家たちが視察にやって来ました。「こんなものは初めて見た!」と非常に驚き興味を持たれたようでした。

 

―今後の課題もありますか。
篠田 液晶やプラズマも日本が生み出したものですが、今やトップは韓国や中国に移っています。日本は次なるものを育てなくはいけません。ところが、次なるものに投資をしません。今の日本はリスクを恐れ過ぎています。これでは、日本は終わってしまいます。シプラをはじめ、日本の新技術には素晴らしいものがたくさんあります。ぜひ育ててほしいと思います。

 

―今後、設置される予定はありますか。
篠田 兵庫県立美術館からオーダーをいただき、北側入り口にシプラでおもしろいディスプレイを作る計画が進んでいます。来年3月には完成予定です。
 また、神戸市内の中小企業が組んで、デザイン都市らしいモデルを作りワンパッケージにして売り出していくという構想もあります。神戸の皆さんに協力いただいて仕組みづくりをすれば、神戸から日本中へ、そして世界へいろいろな発信ができると思います。

 

―もっとあちこちで斬新な利用法を考えて欲しいですね。期待してます!

 

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篠田 傳 (しのだ つたえ)

篠田プラズマ株式会社 代表取締役会長兼社長
1948年 山口県生1973年 広島大学修了後、富士通株式会社入社、PDP研究開発に従事。
カラーPDPの基本構造と駆動法を発明、世界初21型、42型フルカラーPDP開発に成功。
1998年 超大画面フィルム型ディスプレイ用PTA技術を発明し開発を開始。
2001年 株式会社富士通研究所 フェロー
2003年 東京大学 客員教授、PDP国家プロジェクト研究所長などを歴任
2005年 篠田プラズマ株式会社を設立。広島大学教授兼任

 

篠田社長を支える奥様・洋子さんと共に

篠田社長を支える奥様・洋子さんと共に

 

円柱にも設置可能な「シプラ」(富士通フォーラム2010)

円柱にも設置可能な「シプラ」(富士通フォーラム2010)


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目次 2010年12月号