[海船港(ウミ フネ ミナト)] スラム化しつつある南極

文・写真 上川庄二郎   題 字 奥村孝

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【国際協調の時代】

 第二次世界大戦後、一九四九〜一九五二年にかけて、イギリス、ノルウェー、スウェーデンの三国が、共同して南極の調査を行う探検隊を結成し、南極大陸内陸部の科学的調査を実施するなどして、多くの成果を収めた。このことが切っ掛けとなって、南極における国際共同観測の重要性が認識され始めた。
【南極条約の締結と発効】
 少し世の中が落ち着いてきた一九五七〜八年にかけて行われた国際地球観測年(この時から日本も南極観測隊に参加)を契機に、アメリカがこの観測に参加している十一か国に対し、恒久的な科学的協力体制が取れるような条約を締結することを呼びかけた。
 以来一年間、忍耐強く検討を重ね、翌一九五九年、イギリス、アルゼンチン、チリ、ニュージランド、オーストラリア、フランス、ノルウェー(以上が領土権主張国)、アメリカ、ロシア(当時はソ連)、ベルギー、南アフリカ、日本の十二か国によって南極条約が締結され、一九六一年六月二十三日から発効した。
 条約では、領土権主張国七か国と国際管理を主張するロシアの主張を取り入れたアメリカの提案を受け入れ、条約の有効期間中は領土権の主張は行わないこととした。二〇〇一年現在、さらに三十三か国が調印し、原署名国を含め四十五か国が南極条約に加盟している。
 主な内容としては、南極における軍事的措置と核実験及び放射性廃棄物の投棄を禁止し、すべての領土権主張を凍結するなど、平和目的にだけ使われることとした。その後も、鉱物資源探索活動の禁止、在来動植物の捕獲、殺傷、外来種の持込み禁止、廃棄物の抑制とこれらの南極地域からの撤去、海洋汚染の防止などが義務付けられた。
【踏みにじられつつある南極条約】
 それでもなお、保護論者の中には、膨張を続ける観測基地と隊員数の増加、拡大しつつある観光客に対する警鐘を訴える学者も多い。私自身も、南極に足を踏み入れてみて、少なからずこのことを実感させられた。
 観光客に対しては、国際南極ツアー運行業者協会が結成され、南極環境保護のための行動手引きが作成され、観光客には厳しく扱われている。 一 例を挙げると、ペンギンの交通優先、動植物には無闇に近づかない、自分の足跡以外は残さないなど。また、船からボートに乗る前に長靴を洗ってから乗り、帰りも船に乗るときに洗わされる。上陸してみてその厳しさを実感したものである。
 ところが、アルゼンチンの基地を訪ねてみて驚いたのは、その管理の悪さと汚さである。苔類がやっとの思いで生息しているところにワインやビール瓶の破片を打ち捨て屋外はゴミの山、長い年月かけて生息してきた苔が踏みにじられている。
 私たちはアルゼンチンの基地しか訪ねていないので他国の基地がどのようなものか知る由もないが、聞くところによると、日本の昭和基地にも相当な量の廃棄物やし尿などの廃棄タンクが残されていて簡単には持ち帰れないのだそうである。
 今やアメリカなど大国の基地は高級ホテル並みで単なる観測基地ではないという。南極を調査観測していると自負する観測隊員とその基地こそが、最大の南極の環境破壊の元凶という声も聞く。
 最近の新聞報道によると、日本の昭和基地で使われなくなった建物などにアスベストが使われており、解体作業に従事した隊員に健康被害の可能性があると報じられた。(神戸新聞2009.1.24)
 これは、隊員の健康被害に留まらない。南極に住む動物たちにも危害を及ぼすのではないだろうか。ペンギンのルッカリーを奪い取って基地をつくり、こんな使い方をしていたのでは、南極もスラム化が進んでいると云わざるを得ない。それでも資源を求めて、虎視眈眈と領土権を主張しようとしている国があることは、如何ともしがたい事実である。
 このように見てくると、観光客だけが一方的に悪者扱いされているが、多くの隊員が通年滞在している観測基地や、領土権を主張したい国々こそ問題がありそうだ。科学者にも監視が必要だ、と云われだしているのもむべなるかなである。
 次回は、南極の動物たちに目を向けてみよう。

アルゼンチンのエスペランサ基地

アルゼンチンのエスペランサ基地

一瞬、苔寺の境内を思わせる苔の群生地

一瞬、苔寺の境内を思わせる苔の群生地

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かみかわ しょうじろう

1935年生まれ。
神戸大学卒。神戸市に入り、消防局長を最後に定年退職。その後、関西学院大学、大阪産業大学非常勤講師を経て、現在、フリーライター。


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目次 2010年12月号