食から発信!神戸のテイスト&デザイン

岩田弘三 (株)ロック・フィールド 代表取締役社長
安藤忠雄 建築家・東大名誉教授
蓑  豊 兵庫県立美術館・館長

 

今秋、神戸南京町に新しく神戸コロッケの店がオープンした。店舗設計は安藤忠雄さん。神戸市はユネスコが認定するデザイン都市の指定を受けたことで、都市創造のセンスが問われている。今回、食文化、芸術文化、建築文化とジャンルは異なるが、そのキーマンとなる方々にご意見をいただいた。

 

─9月1日に、南京町にある神戸コロッケ1号店がリニューアルオープンしました。
岩田 私は神戸元町で生まれ育ち、1965年にレストランを始めました。その後、1989年に、今回リニューアルした1号店のあの場所で神戸コロッケをオープンしました。この店がきっかけとなりヒットしたのですが、それから21年経ち、未来に向かってもう一度神戸コロッケを通して、神戸らしい新たな情報発信をしたいと思いました。
 そこで、安藤さんにお願いして、新しいお店を作って頂きました。自分が想像していた以上の素晴らしい建築物が出来て大変嬉しく思っています。

 

─建物は6坪と小型ですが・・。
安藤 大きさは建築にとってはあんまり関係ないですね。内容が勝負ですから。
 南京町は、旧居留地や北野町とならんで神戸の観光の中心ですから、そこに小さいけれどもスピリットのあるものができればと造ったんです。あれ、全部仮設材でできてるんですけど、丁寧に造れば立派に見えます。それから、大きなものじゃなく、小さなものを造っても元気になるんだという見本になればいいなということで造りました。
岩田 今、商店街を活性化するのはなかなか難しいのですが、今回の神戸コロッケのように、建築物を通してしっかりと発信できたら、街並みが変わって、人が集まってくると思うのです。
 
 

─元町とか南京町というのは、神戸のテイストを発信するにはぴったりのところですね。
岩田 そうですね。私の生まれ育ったところですし、私自身がここで仕事ができるのも、やはり元町、南京町という原点があったからで、思い入れの強い場所ですね。
安藤 やっぱり一番大事なのは、新しい時代を切り拓いていくんだというフロンティアスピリットだと思うんです。それがないと新しいものはできない。岩田さんは神戸コロッケをはじめてずっと、新しい食文化を全国に発信してますが、こういったことは大切にしなければいけないと思いますね。岩田さんのような人がたくさん神戸から出てくれば、神戸という町は面白いところになりますよ。そのためには、子どもの頃から好奇心をちゃんと養えて、その好奇心を受け止めてくれるような町にしなければと思いますね。
 食文化や芸術文化など、素晴らしい文化がある町というのは、懐が深いですからね。神戸にはそういう文化が古くから深く根づいているわけで、うまく活用すればもっと発展すると思いますよ。

 

感動を与え、文化を育む町に

 

─「食文化」や「美術館」という観点で何かアイデアはありますか?
 最近思うのは──、行列ができるような人気展覧会では、帰る時にグッズを買おうとしても何十分も並ばないと買えない。疲れてるし待てないからと、グッズを買わずに美術館を出ちゃう人も多いんです。
 ですから、美術館を出ても、たとえば商店街とか、美術館の外でグッズが買えるようになったらいいと思うんです。たとえば、原田の森から美術館までの道沿いに、ルーブルなど世界中の美術館のグッズが買えるような店があったら面白いなと。そうなると、画廊とかギャラリーとか骨董屋さんとか、どんどん店を出してくれるようになって、賑やかになるんじゃないかなと思ってるんです。
岩田 たとえば、オルセー美術館に行くと、レストランも楽しみじゃないですか。だから、県立美術館でも美味しいものがあって、ミュージアムストリートにも美味しい店ができていくようなれば良いですね。
 レストランは必要ですね。美術館に来て、素晴らしい芸術に浸って、のんびりと食事をする。そういう場所は必要だと思う。それから、素晴らしいミュージアムショップ。これらはこれからの美術館には欠かせませんね。だから、世界中のテイストが集まるような通りになってもらいたい。あらゆる文化が育つような通りにしていきたいですね。
安藤 育つためには下地がなかったらだめですからね。そういう意味で神戸は、明治以来、文化都市としての下地があるんですね。芸術も食も。でも、ここ30年くらい、この素晴らしい遺伝子を忘れてたんですよ。そろそろ思い出して伸びていかなあかん。地方都市の活性化という意味でも、その見本になれるんじゃないですかね。

 

─それには旗振り役が必要ですよね。
安藤 それはもう、蓑さんですよ。私たちはサポーター。
岩田 私もそう思いますよ。蓑さんと話をしていたら、何かしなければダメだなと思わされるんですよ。
 ありがたいことです。本当にみんな、頑張る人が多いですよ。しかも、他の町にはないエネルギーがありますね。安藤さんの縁で神戸に来られたわけですから、何かやりたいと思ってます。
岩田 我々経済人を、うまく使っていただけるような、そういう人が大事で、その気にさせられたら我々もやっていきます。

 

─蓑館長は「子ども」をキーワードにしていらっしゃいます、ロック・フィールドの岩田社長も「食育」を大切にされています。子どもに対する思いをお聞かせください。
 親は、自分たちが子どもの頃に感動し興奮したことを自分の子どもにも見せたい伝えたいと思うものです。ですから、美術館でも、美術品をただ展示して来館者に見てもらうというだけではなくて、感動してもらえるようなことをやっていかないといけないと思います。子どもたちの印象に残るようなことをしたい。それによって、10年後、20年後にね、子どもたちが親になったときに、自分の子どもを連れてきてくれると思うんです。この繰り返しです。それによって美術館は100年、200年と続くんです。
岩田 子どもの頃に芸術をしっかりと感じさせる。すると、それが大人になった時に大変な財産になるんです。食育も一緒でね、これから育っていく子どもたちにとって、正しい食生活を身につけること、それから、親子で食卓を囲んで団らんの場をもつということがいかに大切なことかを認識してほしいですね。食文化も芸術文化も、やはり、子どものときに育まれていくものだと思います。

 

サラダのような多様性を活かして

 

─ところで、岩田さんは「サラダシティ」を提案されていますけど、サラダシティという発想はどこからきたのでしょう?
岩田 ニューヨークのような都市を形容するのに「人種のサラダボウル」という言葉が使われますね。色々な民族、人種が混在して生活している。昔は「人種のるつぼ」といわれていましたけど、最近はサラダボウルです。より多様性を表現できるという事でこの言葉が使われるようになりました。
 安藤さんが言われるように、神戸には生活文化という非常にしっかりした土壌がありましてね、チョコレートやパン、ファッションなど、あらゆるものに神戸の生活文化が根づいて、これが神戸の町の魅力だったと思うんですね。神戸が持つ人種的な多様性、文化的な多様性、そういう多様性にサラダのイメージがすごく合うのでね。それでサラダシティ。
 サラダといえば健康ですから、健康の町、医療の町という意味にも使えますね。それに、いろんな人種がミックスされて、世界中みんなが仲良くできる町という意味も込められていますね。
岩田 サラダというのは、いろんなものがミックスされた中に美味しさもあります。神戸の町のイメージとしていいんじゃないかなぁ。

 

県美の応援団

 

─蓑さんは館長就任以来、県美の応援団というかたちで皆さんをひきこんでいらっしゃるんですが、地域とか産業界にどんなことをやってもらいたいと思いますか?
 美術館があることによって、町が賑やかになったり、文化的になったりと、いろんな要素がありますから、応援団がたくさんいることによって、美術館もよくなるというのは鉄則だと思います。まさにサラダのように、いろいろなバックグラウンドを持った人たちが集まって応援団に加わってもらえるといいですね。そしてそれぞれの得意分野でいろいろなアイデアを出し合って、一緒に素晴らしい美術館にしていきたいです。

 

─市民の方々にはどんなことを求めますか?

 市民の方々にはね、皆さんのリビングルームとして使ってほしいなと思います。素晴らしい美術品があるわけですから、ちょっと疲れたら美術館に来て休んでもらえればいいですね。気軽に美術館に来て、リビングルームのように使ってもらうようになることが私の夢です。

 

デザイン都市・神戸の魅力と可能性

 

─ユネスコで神戸は「デザイン都市」に認定されていますね。
 デザインという点で神戸がユネスコで選ばれたことは素晴らしいことです。デザインというと、食器とかペンとか、工業製品など、どちらかというと非常に身近な物に対するデザインをイメージしがちですが、デザインはいろいろなところにあります。建物もそうだし、町そのものもデザインされていると言えます。小さなモノから大きなモノまで、デザインというのは人を引きつける力を持っているんだということを考えれば、神戸はまさに人を引きつけるデザイン都市と言えますね。

 

─デザイン都市というものを、かけ声だけで終わらせないためには、どのような取り組みが必要だとお考えですか?
 小学校、幼稚園、保育園、そういう公共の建物を若手の建築家に設計してもって、コンペをしたいですね。素晴らしいデザインの公共建築物があると、「デザイン都市」というものが身近に感じられるんじゃないですかね。
安藤 小学校、幼稚園、保育園くらいなら、それほど大きくないですから、それを世界中の若い建築家に設計してもらって、世界的な建築家に審査員してもらうんです。今は審査をするにしてもインターネットでできますから。
 これはぜひ兵庫県でやりたい。これができたら世界が注目しますよ。素晴らしいデザインの現代建築で子どもたちが勉強するんです。
安藤 そういうことをみんなでやっていかないと、元気出して大声張り上げていくような気持ちにならないんですよ。
 大阪の心斎橋に大丸がありますね、この建物とか関西学院や神戸女学院の建物を設計したのがヴォーリズという人です。私は彼が日本の生活文化の原点を創ってきたと思うんです。教会を造って、住宅を造った。阪神間にも彼が設計した建物が多く残っています。もともとヴォーリズは特別な建物を造ったわけやない。人が集まって、生活していく場を造ったんです。ですから、そういう生活文化の基礎を受け継いで、阪神間はすごいというのを見せたいですね。この地域には誇れるものが既に根付いてるのです。
 その意味でも、文化という点で、学生たちにももっと積極的に参画してほしいね。神戸って学園都市でしょ。学生たちは、もっと町に出た方がいいと思うんですよ。大学に籠もるんじゃなくて、寺山修司じゃないけれども、書を捨てて町に出た方がいいんじゃないかとね。
 学生時代に積極的に社会に参画していく。そうすると、一人では何もできないということを身をもって知ることもできますしね。神戸という芸術文化都市に積極的に参加していくべきだと思いますね。

 

─本日はお忙しい中、ありがとうございました。

 

司会・進行 本誌 森岡一孝

 

安藤忠雄さんが、本年度の文化勲章を受章されることになりました。おめでとうございます。

 

9月1日、南京町にリニューアルオープンした神戸コロッケ店

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環境が人を育てる。新店舗で活き活きと働くスタッフ

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コロッケにとどまらずキッシュやタルトも並ぶ

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国内外の名作、約7,000点を所蔵特別展、コレクション展(常設展)ともに 見ごたえのあるボリュームと興味深い企画内容の美術館

国内外の名作、約7,000点を所蔵特別展、コレクション展(常設展)ともに
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建物は世界的に有名な安藤忠雄さんの建築

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「水木しげる・妖怪図鑑」のオープニングで挨拶を行う 蓑館長

「水木しげる・妖怪図鑑」のオープニングで挨拶を行う
蓑館長

 

本年7月31日から約2ヵ月にわたって開催された 「水木しげる・妖怪図鑑」は連日、多くの人出で賑わった

本年7月31日から約2ヵ月にわたって開催された
「水木しげる・妖怪図鑑」は連日、多くの人出で賑わった

 

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岩田弘三 (いわた こうぞう)

(株)ロック・フィールド代表取締役社長       
1940年(昭和15) 生まれ
1956年 日本料理店で修行。その後独立して飲食店などを経営
1965年 神戸市生田区(現中央区)にフランス料理店
「レストランフック」を開業
1972年 株式会社ロック・フィールド設立。代表取締役社長に就任。現在に至る 
2000年 東証・大証一部上場
洋総菜のRF1、神戸コロッケ、野菜ジュースのベジテリアなど
7ブランド、約300店を全国主要都市の百貨店、駅ビルなどで展開
2007年 神戸商工会議所 副会頭〜
2007年 神戸市デザインアドバイザリーボード ボードメンバー〜 

 

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安藤 忠雄 (あんどう ただお)

建築家・東京大学名誉教授
1941(昭和16)年 大阪市生まれ
1969年 安藤忠雄建築研究所を設立
1979年 第31回日本建築学会賞受賞 (住吉の長屋)
1995年 95年建築界のノーベル賞といわれる「プリッカー建築賞」を受賞
2005年 東京大学特別栄誉教授 / 安藤忠雄文化財団設立
2006年 東京オリンピック招致委員会-グランドデザイン総監督
2008年 水都都市景観アドバイザー(水都大阪2009)
代表作には、「住吉の長屋」、「光の教会」、「ユネスコ本部瞑想空間」、「淡路夢舞台」、「兵庫県立美術館」、「司馬遼太郎記念館」、「フォートワース現代美術館」、「ピューリッツアー美術館」などがある。

 

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蓑 豊 (みの ゆたか)

兵庫県立美術館 館長
1977年 米国ハーバード大学文学博士号取得
1988年 シカゴ美術館 東洋部長
1996年 大阪市立美術館 館長
2004年 金沢21世紀美術館 館長
2005年 金沢市 助役
2007年 サザビーズ北米本社 副会長
2009年 大阪市立美術館 名誉館長
2009年 金沢21世紀美術館 特任館長
2010年 兵庫県立美術館 館長


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目次 2010年11月号